掃除当番と一軍女子
放課後。夕日が差し込む教室は、暖房が切られたせいで少しずつ冷えてきていた。
「……さむ」
俺は椅子に掛けていたジャケットを羽織って、ボタンを閉じた。
窓の外から部活動をしている生徒たちの声が聞こえてくる。それと、俺が箒で掃く音だけがこの教室に響いている。
この静かな教室が好きだ。普段の教室は、クラスメイトの大袈裟な笑い声や机や椅子の音が響いていて落ち着かない。
……だから別に掃除を押し付けられていたって嫌じゃない。
掃除用具が入ったロッカーから塵取りを取り出そうとすると、ドアがガラガラと音を立てて開いた。
「……太田、一人で掃除してんの?」
声に振り向くと、長い髪を後ろで束ねたジャージ姿の女――佐藤の姿があった。
「……ぇ、うん、まぁ……」
『掃除を押し付けられてさ』とか『そうなんだよね、手伝ってよ』とかなんでもいいけどハキハキと答えられれば良かったが、喉から出たのはしどろもどろな返答だった。
いかんせん、俺は佐藤と仲が良くないのだ。俺がスクールカースト最下位とすれば、彼女は対極の最上位、クラスのギャル軍団のうちの一人だ。
「暇かよ、てか今日掃除当番だっけ?」
暇なわけないだろ! と言ってやりたいが。言えるわけもなく。
そもそも、もう2学期も終わりに近いが、俺は佐藤と話したことが数回しかない。
「……いや、中塚たちから頼まれて。部活あるからって」
「断んなかったの?」
「いやぁまあ、俺部活やってないし……」
塵取りにまとめ終わったゴミをゴミ箱に流しいれて、ロッカーにしまった。
さて、机を戻すとするか。
「……えっ」
なぜか佐藤も俺と一緒に机を戻していた。
「私の机、あそこだから」
佐藤の視線の先は、掃除のために前に寄せた机の中央にあった。
なるほど、確かにあの机からモノを取り出すには周りの机をどかさないといけない。
どうせ自分の机を元に戻したら目的を果たして帰るだろう、と思っていたが予想外に佐藤は最後まで手伝ってくれた。
……何だどうせって。
「……じゃ」
「あのっ!」
どうやら体育館履きを忘れていたらしい佐藤が、靴入れをもって出ていこうとするところを何も考えずに呼び止めてしまった。
何を話すでもないのに。
「何? 用事無いなら行くけど」
そうだ。礼を言っていなかった。
「……いやその、ありがとう、手伝ってくれて」
「どういたしまして。太田って普通に話せるんだな」
……それはどういう? 俺だって普通に話すが。人間だぞ。
「掃除当番とか、いつも押し付けられてんの? いつもなら、言いなよ、お前らがやれって。言いづらかったら私も手伝ってやるから」
「……分かった」
「あいつら、どうせ部活もまじめにやってないくせに、人に押し付けてるのうざいしな。じゃ、私部活あるから」
佐藤は踵を返して去った。
佐藤。いつも教室の前の方で騒いでいる印象だったけど。
心の中で馬鹿にしている人間は、俺が勝手にそうやってレッテルを貼って見下して、安心したいだけなんだ。
そう突きつけられるから、今日の姿は見たくなかった。
……そうやって考えて、心底自分が嫌いになる。
「はあ、帰るか」
静かになった教室は少し寂しかった。
ショウセツ、カクノ、ムズカシイ・・・・・・




