聖夜のエピローグ
「俺は、まだ帰らない」
そう言ってモートは、月明りの射し込む窓辺で彼女に微笑みを返した。
「あんたが作ってくれた、デザートだってまだ、俺は全部食ってねえしさ」
そう言ってテーブル脇に置かれた、逆さにしたままの山高帽子を手元に引き寄せ。中身を取り出して彼女に見せた。
掌の上に乗せたのは、クラッカーに入っていたおまけ。
木で作られた小さな兵士の人形と、つまらないクイズが書かれた紙きれと、頭に被っていた紙の王冠。
それを手品師がするように、彼女の目の前で5本の指を折り畳んで隠した。
「俺からあんたに贈りたい物だ」
開いたモートの掌の上。
小さなひと粒のダイヤが輝きを放っていた。
彼女は暗闇の中で息を飲んで。
彼に訊ねた。
「これは、まさか…モート、お前は錬金術が使えるのか!?」
彼女らしい言葉だった。
まずロマンスより、魔法に目がいくところが。どうして、プロポーズとはとってくれないのか。
モートは心の中で苦笑した。
彼女の言葉にモートは首を振る。
山高帽の中から、先ほど右手に乗せていたクリスマスのおまけを取り出して見せた。
「ダイヤが精製出来る魔法使いなんて聞いた事がないぞ…こんな力があれば、金を節約する必要だってないはずだろうに」
「これは、俺の魂の一部を結晶化させたものだ…俺のあらゆる魔法の要となる力さ。けど、これは俺の魂だから…売って金に替えるわけにはいかない、だろ?」
モートはそう言って彼女の手を掴み。掌に宝石をのせた。
「だから、キルシェ バウム…俺はお前にこれを持っていて欲しいんだ」
「しかし、お前の追い求める宿敵はイグニート…焔…お前の魔法の本質が、要となるのが、ダイヤの結晶化ならば…」
モートが懸念した通り、聡明な彼女はすぐに気づいてしまったようだ。
互いに交した言葉。
その意味の持つ重さ。
彼女は噛み締めた。
心なしか、彼女の唇は震えているように思えた。
「たが今夜はクリスマスイブだろ」
その話は別の日にすればいい。
この世界で最も美しいと思う。
ロンドンの魔女に対して。
敬意をはらったつもりだ。
いきなり彼女の体を抱きしめ、その唇を奪ったりする前に、彼女にそう告げた。
「モート、私はお前に言った。魔法使いが、自分の名前を明かすの相手は、本当に敬意を払う者か、さもなければ、すぐに殺す者だけだと」
「ああ、確かにそう聞いた…ありが…!」
モートがそう言い終わる前に、彼女は懐から出した短剣を降り下ろした。
後ろに飛び退く間も与えず。
鋭く尖った剣先が、彼の貫頭衣に突き立てられた。
「キルシェ…なにをするんだ…」
壁の隅にある、柱時計の文字盤上の長針が、夜の12時を示したことを報せていた。
モートが彼女と出会い。
初めてその名を口にした。
聖夜のことだった。




