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ステップガールとワイバーンの領主.改定版  作者: 六葉翼
エルフィンナイトの章

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Invitation




~ようこそ魔女のクリスマスへ~



「まだだ!まだ手をつけるなよ…モート、まだ、よしよし、待てだ!」


蜂蜜と溶かしバターで仕上げた、ターキーとローストチキンは皮までぱりっとして、きつね色に焼けていた。


ターキにつけて食べるための、グレービー、ブレッド、クランベリーの3種のソース。トリミングには市場で買ったスプラウトのローストを添え。


塩漬けした豚肉を巻いて、こんがり焼いた腸詰めと、ローストしたポテトとパースパニッブ。


彩りよく散らした花びらと一緒に盛りつけられたスモークサーモン。


武骨な塊の骨付きハムは、今夜だけ特別にめかしたパイ生地にくるまれて、ナイフで切り分けされるのを待っている。


ラム酒と砂糖に漬け込んで、熟成させたドライフルーツと、ナッツを詰めた星型のミンスパイに、ジンジャーブレッド。


テーブルの中央の皿に置かれた、大きな白いキャンドルのまわりには、花と果物が飾付けされていた。


湯気を立てて次々台所から運ばれて来る。クリスマスのごちそうたち。


モートの腹はさっきから鳴りっぱなしだった。


テーブルを拳で叩いて。


一刻も早くごちそうにありつきたい意思表示を彼女にしても。


彼女は犬をしつけるように。

ひたすら待てを繰り返した。


英国のクリスマスディナーには、ローストした鳥の他にも、焼いた肉料理が多く食卓を飾る。


その理由は、長い冬の間は、家畜を飼っておくための飼料を確保することが難しいからだ。


飼料節約のために家畜をしめて、肉にして食べたていたことが、クリスマス料理として習慣化したと言われている。


モートには、初めて見るクリスマス料理はどれも、ごちそうの山だった。


「キル…俺はもう我慢の限界だ!」


「待てモート!クリスマスの流儀だ!」


「だからなんで、魔女のお前が?クリスマスの流儀にこだわるんだ!こっちに来い!魔女なら魔女らしく、共にこれらを貪り喰うのが魔女の宴だろ!?早く!早く!酒池肉林のサバトの儀式だ!!」


モートは腹が空きすぎて。何を言ってるのか。自分でもよくわからなくなっていた。


「お…これは…思ったよりも重い」


台所の奥から、彼女が引き摺って来たのは、うっすらと埃を被った硝子の大瓶だった。


硝子の器を彼女が布巾で丁寧に拭う。


中身は美しい金色の液体だった。


「酒だ」


モートが訊ねる前に彼女が言った。


「奥に黒いのがもう一つある。悪いがテーブルまで運んでくれ」


その液体は瓶の中で、春の陽射しを閉じ込めたように、黄金色に澄んで輝いていた。


デミジョンと呼ばれる貯蔵酒専用の瓶。


しゃがみ込んだ二人は、その中身をうっとりと覗き込んでいた。


「こんな綺麗な色した酒…見たことないぞ!」


「ダンデライオン ワインだ」


「ダンデライオンって…春先に道端に生えてるあれか?」


ダンデライオンワインは、春に摘んだタンポポの花びらを煮出した液体に、砂糖とレモンやオレンジなどの柑橘類のジュースを混ぜて。


自然発酵させた酒のことだ。


アイルランドや、ウェールズ地方で昔からよく作られ。


味や風味の良さから、イングランド全般で飲まれるようになった。


「隣の黒いのは葡萄酒か?」


「これはブラックべリーのワインだ」


ブラックべリーは、夏の終わり頃から秋にかけて、イギリスの郊外で大量に実をつける。


煮出したブラックべリーに、こちらはジンを入れて。発酵させて作る酒だ。


「綺麗な色だな」


「仕込んで半年は濁っていたんだ。駄目かなと思ってたら、その後澄んでこの色になった…もう飲み頃だろう」


「こっちの黒いのが俺で、そっちがあんたみたいだ」


「ブラックべリーの方が濃いから、涌水かソーダ水で割れば綺麗な色になる」


「これ…仕込んでから飲めるまでどのくらいかかるんだ?」


「大体1年ほどだ」


「なら、よかった」


「そうだな、もう1年前の春と秋だ」


モートは彼女がその間に、一人で森や野原に出かけて、花や木の実を摘んだとはとても思えなかった。


クリスマスのごちそうだって。

多分彼女は作らない。


この酒は、自分が彼女に出会う前から仕込まれた物だ。その間、彼女は一人ではなかった。


だからよかった。


モートはそう思った。


ダンデライオンワインの栓を開けると、瓶口から春の花の香りが溢れた。


「酒も上々。料理が冷めては台無しだ」


「もう始めていいのか?」


「ああ遠慮なくやってくれ」


彼女は右手をあげて、その日の客をテーブルに案内した。




「モート準備はいいか?」


彼女にそう言われて、モートは山高帽にしまってあった、細長い紙の筒の先を持たされた。


彼女が市場で貰ったおまけの一つだが、何に使う物かわからない。


クリスマスの包装紙のような絵が書かれた筒は、三つに切れ目が入っていて。大きなキャンデイの包みにも見えた。


「モート、端を掴んでけして離すな!」


「わ、わかった!ク、クリスマス初心者だがよ、頑張るぜ!」


「私が123と言うから…一緒に声を合わせて筒を引っ張るんだ!さあ123!」


「ま・・」


なぜ彼女は、片方の耳に指を入れているのだろうか。なぜ目を瞑っている。


モートが聞く間もなく。


目の前でクラッカーが弾けた。


クラッカーの中から出て来たのは、小さい木の兵隊の玩具と、すごくつまらないクイズの書かれた紙きれが一枚。


それから紙で作られた王冠が二つ。


彼女は紙の王冠を広げて。

モートの頭に被せた。


「真中の筒はお前の方に残ったから、これは全部お前の物だぞ、モート!」


モートは、クラッカーの中身を大事そうに集めて、逆さまにした山高帽の中に入れた。



【クイズ】


『イギリス人のディナーにはマナーはつきものです!では、イギリス人のディナーには、けしてないものはなに?』


答え 美味しい料理



モートはその夜。


おまけの紙に書かれた。

クイズの答えは嘘だと。


すぐに思った。

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