第2話 初ダンジョンと挫折
朝の空は、
重たい雲に覆われていた。
ロンドは、
ギルド前の掲示板を見上げている。
視線は、
同じ依頼書の上を何度も往復した。
――小型ダンジョン調査
――報酬:銀貨一枚
銀貨一枚。
スライム討伐三回分だ。
喉が鳴る。
「一人じゃ……無理だよな」
声に出すと、
自分の弱さを認めるみたいで、
胸が痛んだ。
「おい」
低い声。
振り向くと、
大剣を背負った青年が立っていた。
短い茶髪。
鋭い目つき。
「その依頼、
一緒に行かないか」
隣には、
弓を持った少女。
長い金髪を、
後ろで束ねている。
「私はフィナ。
後衛やってる」
青年は腕を組む。
「俺はガルム。
前衛だ」
ロンドは、
一瞬迷った。
「……ロンドです。
雷撃のスキルを持ってます」
ガルムは、
少し驚いた顔をする。
「雷か。
珍しいな」
フィナは、
小さく微笑んだ。
「後衛が多い方が安心ね」
それだけで、
胸が少し軽くなった。
◇
ダンジョン入口は、
岩山の中腹にあった。
冷たい風が、
穴の奥から吹き出してくる。
「基本は隊列を崩すな」
ガルムが言う。
「俺が前。
フィナが後ろ。
ロンドは中央だ」
ロンドは、
強く頷いた。
中は暗い。
松明の光が、
壁に揺れる。
水が滴る音。
遠くで、
何かが蠢く気配。
ロンドの手は、
汗で湿っていた。
最初に現れたのは、
ゴブリンだった。
小柄な体。
錆びた短剣。
「来るぞ!」
ガルムが踏み込む。
剣と短剣がぶつかる音。
フィナの矢が、
ゴブリンの肩に刺さる。
「ロンド!」
名前を呼ばれる。
ロンドは、
指を突き出す。
「雷撃!」
だが。
何も起きない。
「え……?」
焦る。
魔力が、
指先に集まらない。
ゴブリンが、
こちらを見る。
笑っているように、
見えた。
ガルムが割り込む。
「下がれ!」
剣で叩き伏せる。
戦闘は終わった。
ガルムが、
ロンドを睨む。
「今のは何だ」
ロンドは、
言葉が出ない。
「すみません……」
フィナは、
何も言わなかった。
その沈黙が、
余計に痛い。
◇
さらに奥へ進む。
コウモリ型の魔物。
三体。
「今度こそ……」
ロンドは、
必死に集中する。
指先が、
熱くなる。
雷が走る。
だが。
制御できない。
雷は、
壁に当たって跳ね返る。
バチッ!
フィナの頬を、
かすめた。
「きゃっ!」
フィナが、
尻もちをつく。
ガルムが怒鳴る。
「ふざけるな!」
ロンドの頭が、
真っ白になる。
ガルムが、
二体を斬る。
残り一体を、
フィナが仕留める。
沈黙。
ガルムは、
ロンドに背を向けた。
「帰るぞ」
◇
ダンジョン出口。
空は、
まだ曇っている。
「俺たちは、
お前とは組めない」
ガルムの声は、
冷たかった。
フィナは、
目を合わせない。
二人は、
去っていった。
ロンドは、
その場に立ち尽くす。
胸が、
ぎゅっと締めつけられる。
――やっぱり、俺は駄目だ。
ギルドへ戻る。
受付の女性ミレナが、
気づいて声をかける。
「どうでした?」
ロンドは、
俯いたまま答える。
「失敗しました」
ミレナは、
少し考えてから言った。
「失敗しない人はいません。
でも、立ち上がる人はいます」
ロンドは、
拳を握る。
夜。
訓練場。
誰もいない。
ロンドは、
何度も指を突き出す。
「雷撃!」
火花が散る。
「雷撃!」
小さな雷。
転んでも、
立ち上がる。
「俺は……
諦めない」
震える声で、
そう呟いた。
挫折は、
終わりじゃない。
始まりだ。
ロンドは、
まだ知らない。
その努力が、
雷神の力を呼び覚ますことを。
物語は、
続いていく。




