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第一話.はじまり

幼い頃から、人の視線が怖かった。

正確に言えば人を見るのが怖い、だから常に俯きがちだ。


人との距離感が上手く掴めない

だから僕は心に蓋をし、人との輪を拒絶した。


しかし、稀に人に話しかけられる事がある。

心臓が強く波打ち、肩の力が強くなっていく。


———あぁ。僕って本当に人が苦手なのだな。


クラスが賑わう休み時間。一人、水筒の蓋を開け飲み干す。


クラスメイトたちを見て羨ましいなと思った。

目を見て、相手を見て話す。


静かになった教室で一人寝たふりをする。耳元から外で遊ぶ生徒の声が聞こえてきた。


そうして僕は、小中学校を卒業し今もまだクラスに馴染めぬまま高校にいる……



**********



放課後の図書室。雨音が室内に響き渡るのと対照的に、中はひどく静かだった。


僕は椅子に腰を掛けると、折り畳み傘を真横に置き、一冊の本と文房具を出しノートを広げた。


高校2年生の冬、もうすぐで大学受験が控えている。


ページをめくる音が雨音と重なった。


外の雨音がまるで音楽のように聞こえて心地よい。


僕の手は珍しく機敏に動いていた。


あれから、何時間経ったかはわからない。

けど降り続く雨の勢いは増していた。


(自分に、ここまでの集中力があったなんて……)


自画自賛したくなる程、いつもは集中力がすぐに途切れるのに。


「っ!?」


空が真っ白に染まったすぐ後、地を揺るがす強烈な音が鳴り響いた。


時計を見れば、17時50分頃。


室内はもう、他生徒の半数以上が退出していた。


「早く帰らないとな……」


過去問題集を元のあった場所に置き、帰宅する準備をした。


カバンに筆記用具を入れ、あと少し勉強したいなと名残惜しさもあったがもう帰ろう。


拳を強く握り、室内を出た。



人気がない廊下を歩いて、階段を降り、下駄箱のある場所へ着いた。


外は、まるでバケツをひっくり返したみたいに強く降る雨と夜10時のような空があった。


外からの冷え切った空気が皮膚を貫通する。


僕はあまりの寒さに両手のひらを擦って温めた。


「さっ、寒いっ……」


外にずっといれば風邪を引く。そう思って僕は靴を取ろうとした時———。


「傘、忘れたの?藤岡ふじおかくん。」


突然聞こえた声に、驚いて尻餅をついてしまった。


「いっ、痛ってぇ……」


雨音がうるさく、後ろから来る生徒の音にすら気づかなかった……


「大丈夫っ!?急に話しかけてごめんね……」


「……いやっ、僕が悪いので。大丈夫ですよ」


青みがかったショートヘアーの少女が声をかけてくる。


彼女の容姿は、清楚系の美人で身長は僕よりも遥かに高く、全てにおいて負けている気がして悔しい……


僕はズボンにかかった砂を手で振り落とすと、靴を履こうと屈む。


(あれ?何か忘れているような……)


バックを開け、中身を漁るように確認すると……


「……傘忘れちゃった」


「えっ?藤岡ふじおかくん傘忘れたの?」


「いやっ、すぐ帰る予定だったから図書室に置いていたんだよね」


大丈夫。図書室に行って取ってくればいいだけの事。慌てることはないと自己暗示をかけた。


「……図書室、鍵かかっているよ?それに今日は図書室の先生は用事で帰ったみたいだし。」


バツが悪そうに言う学級委員長の穂坂ほさかさんの言葉を聞いて僕は絶句した……


雨は勢いを増し続けている。僕と多分傘を忘れたであろう穂坂ほさかさんは二人。


雨が降りやむのを待つしか無かったのだ……


そして、この出会いが僕を少しずつ変えていくとこの時の僕は想像すらできなかった……

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