第 73 話:海の守護者
ノアは竜亀の前に泳いでいった。
巨大な怪物の前では、彼女は豆粒のように小さい。
だが、竜亀は攻撃を止めた。
じっとノアを見つめている。
「……聞こえる?」
ノアが心で語りかける。
声は出せないが、マナの波動となって伝わるはずだ。
「私たちは敵じゃない。悪い奴を追いかけてきたの」
竜亀が小さく唸る。
その瞳には、長い時を生きてきた知性が宿っていた。
『……小さき者よ。汝、神の器か』
脳内に直接、重厚な声が響いてきた。
テレパシーだ。
「うん。私はノア」
『ノア……。懐かしき名だ。かつて我を創りし者たちも、その名を口にしていた』
竜亀もまた、古代文明によって創られた生体兵器だったのだ。
神殿の番人として。
『だが、通すわけにはいかん。神殿は封印されし地。力なき者が入れば、災いを招く』
「力ならある。見せてあげる」
ノアはハンマーを掲げた。
光が溢れ出し、深海を照らす。
それは攻撃的な光ではなく、温かく、全てを包み込むような光だった。
ノアの歌声のような波動が、海中に響き渡る。
『……見事だ。その光、確かに資格ありと認める』
竜亀は首を垂れた。
『だが、最後の試練を与えよう。深海の洞窟にある「静寂の真珠」を持ってこい。それができれば、神殿への道を開こう』
「わかった」
ノアが船に戻ってきた。
交渉成立だ。




