第 4 話:謎の少女ノア
まずは水分と栄養だ。
俺はリュックの中を探るが、持っているのは大学の教科書と筆記用具くらい。
水も食料もない。
「アルファ、この辺りで食べられるものはないか?」
『半径 50 メートル以内に、水分を多く含む果実「アクアベリー」と、滋養強壮効果のある薬草「ヒールグラス」が自生しています』
「よし、場所を教えてくれ!」
アルファのナビゲートで、すぐに食料を確保できた。
アクアベリーは青くて瑞々しい木の実だ。
ヒールグラスはすり潰して絞り汁にする。
少女の口元に実を近づけ、果汁を少しずつ垂らす。
喉が動いた。飲んでくれたようだ。
続けて、薬草の絞り汁も含ませる。
数十分後。
少女の呼吸が落ち着き、顔色も少し良くなってきた。
俺がほっとして座り込んでいると、少女の瞼が震え、ゆっくりと開いた。
宝石のような、紫色の瞳。
彼女はぼんやりと俺を見つめ、またゆっくりと瞬きをした。
「……気がついたか?」
俺が声をかけると、彼女は無言で頷いた。
身体を起こそうとするが、力が入らないようだ。
「無理するな。まだ休んでた方がいい」
「……あなたは?」
鈴を転がすような、綺麗な声だった。
「俺は水瀬拓海。通りすがりの……まあ、旅人みたいなもんだ。君は?」
彼女は少し考え込むように視線を彷徨わせ、やがて小さく首を横に振った。
「……わからない」
「わからない? 名前は?」
「……ノア」
「ノアか。いい名前だな。他には? 家はどこだ?」
「……わからない。何も、思い出せない」
記憶喪失か。
アルファによれば、魔力欠乏症の影響で一時的な記憶障害が起きることもあるらしい。
あるいは、何か別の理由があるのか。
「そっか。まあ、思い出せないなら仕方ない。とりあえず、動けるようになるまでここにいよう」
俺は拾ってきた枯れ木で焚き火を起こし、夜を明かす準備を始めた。
ノアは膝を抱え、じっと炎を見つめていた。
その横顔は、どこか寂しげで、放っておけない雰囲気を纏っていた。
「……一緒に行くか?」
俺の言葉に、ノアが顔を上げる。
「俺はシリルって街に行くつもりだ。一人じゃ不安だろ? 記憶が戻るまででもいい、一緒に行こう」
ノアは俺の目をじっと見つめ、数秒の沈黙の後、小さく頷いた。
「……うん。お願い」
こうして、俺と謎の少女ノアの旅が始まった。




