第 21 話:英雄の日常と王都の影
「シリルの英雄」と呼ばれるようになってから、俺たちの生活は少しだけ変わった。
街を歩けば声をかけられ、店に行けばサービスされる。
錬金術の依頼も殺到し、工房はフル稼働だ。
「タクミ、これ、美味しい」
「そうか、よかったな」
今日はノアと二人で、人気のカフェに来ている。
ノアは最近、甘いものに目がない。
特にこの店のフルーツタルトがお気に入りだ。
フォークで器用にタルトを切り分け、口に運ぶ姿は、普通の年頃の少女と変わらない。
「平和だなあ……」
俺はコーヒーを啜りながら、しみじみと呟いた。
異世界に来て数ヶ月。
最初は生き残るのに必死だったが、今はこうして穏やかな時間を過ごせている。
ノアの記憶の手がかりはまだ見つからないが、焦る必要はないだろう。
彼女自身、今の生活を楽しんでいるようだし。
だが、そんな穏やかな日常は、唐突に終わりを告げるものだ。
カランカラン、と店のドアベルが鳴る。
入ってきたのは、全身を銀色の鎧で固めた騎士たちだった。
店内の空気が一瞬で張り詰める。
「失礼する。ここに、錬金術師ミナセ・タクミ殿はいるか?」
騎士の一人が、低い声で問う。
客たちが一斉に俺の方を見る。
俺はため息をつきながら、カップを置いた。
「……俺ですが、何か?」
「王都騎士団の者だ。貴殿に、王家からの召喚命令が出ている」
召喚命令。
その言葉に、ノアの手がピクリと止まった。
俺たちの平穏な日々に、王都からの影が忍び寄っていた。




