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赤い空と月と夜と

 肩で、息をしていた。

 今夜空と月が赤いのは、ワイズの影響なのか、それとも自分の頭から出ている血が目に入ったからなのか、その判別も付いていない。


 戦闘開始から既に一〇時間は経過した。

 想定されていた戦闘時間は移動含めて三時間。それが今や戦闘だけでこの時間になっている。


 他の連中は全滅。

 相手もまた、全滅。

 残っている二機のMAマルス・アーマーが、ただひたすらに、戦いを続けている。


 エッジ22は自身の愛機である『シャングリラ』の状況を、コンソールパネルで再度確認した。

 作戦開始前は、ガトリングガンを両腕に装備し、肩にはマルチミサイルとプラズマキャノン、更にはサブアームに電磁シールドを装備させていた。

 だが、この長期戦を続けるうちに初期装備は全部使い果たした。


 今は生命反応のない大破した機体からアサルトライフルとコンバットナイフを拝借して使っているが、それもまた弾が既に尽きかけだ。


『推進剤、残り一五%。パイロットの心拍数、現在』


 ノイズがほとばしり、そのまま何も聞こえなくなった。

 AIもやられてきている、ということか。


「なかなかに、骨の折れる相手だぜ、おい」


 血が、口の中に入った。

 ぺっと吐き出して、エッジ22はモニターを見入る。


 相手の赤いMAもボロボロのはず、あちらの方は未だに傷を少し負っているだけにしか見えない。

 それとも、そう見せているだけか。


 赤いMA。まるであいつみたいだと、ふと感じる。

 派手に昔やりあっていた相手だ。


 互いに暴走族の頭だった。

 シャングリラの名前は、自分の暴走族チームの名前から取っている。


 そして抗争相手は、赤い族車に乗っている奴だった。

 スティールブラッド、それが相手の暴走族のチーム名だ。


 暴走族同士の抗争の果てに両者警察に確保され、そして収監と同時に叩きつけられた懲役は一万年。

 だが、シャバに帰れるチャンスがあるからと、このイカレたワイズを巡る戦争に志願した、というよりさせられた、といったほうがいいか。

 いろいろと任務をこなし続け、懲役も半分まで減った。


 死神。そうエッジ22とシャングリラは異名されるようになった。それだけの勝利を上げ続けた、エースになっていた。


 更に懲役を減らせるチャンスだからと、大規模作戦に参加した。何しろ減刑される懲役は二五〇〇年だ。更に減らせる絶好の機会と言えた。


 ワイズの採掘地帯の奪取及びその防衛施設の破壊任務。そのためにMAが百機以上導入され、数多くの地上戦部隊まで投入された。

 数的優位はあったので勝てると見ていた。


 この赤い奴がいるという話を聞くまでは。


 数的優位を覆し続けるエース。それによって次々と撃破される味方。

 こちらもこちらで反撃を続けたが、増援は敵の別働隊に阻まれて来られない状況。


 結果この戦場は眼の前の赤いMAと、自分と敵味方の数多くの残骸だけを残している。

 そして互いに満身創痍で膠着状態、というわけだ。


 相手が銃口を向ける。

 右手に装備しているアサルトライフルを一斉に放った。

 空薬莢の落ちる音が響いていたが、そんなことを考える間もなく、エッジ22はシャングリラのスラスターを吹かして横に避け続けた。


 その間にこちらもアサルトライフルを放つ。

 赤い奴は、そこらに転がっていた味方の残骸を盾にした。銃弾はその残骸に吸い込まれていく。

 そして、そのままその残骸をこちらへ投げつけてきた。


 なりふり構わない手口も、スティールブラッドのあいつとそっくりだ。

 そう思いながら、右へブーストを吹かす。


 瞬間、銃撃。

 シャングリラの右腕に直撃した。

 アサルトライフルを持っている方の腕が、使い物にならなくなった。


 エラー音がけたたましく鳴り響く。

 だが、これが狙い目だ。

 いくらMAの残骸とはいえ、重量はバカにならない。

 それを投げたわけだから、当然関節負荷がかなり高くなる。結果として腕はほぼ使い物にならなくなるといっていい。


 同時に、こちらの腕も使えない。

 つまり、どちらも腕をパージして重量を減らすしかない。

 同時タイミングで、腕をパージした。


 相手はアサルトライフル、こちらはコンバットナイフ。射程だけ見れば、確かにあちらに分がある。

 だが、相手が距離を詰めてきた。


 考えられることは唯一つ。

 弾切れを起こした。


 いや、そう考えるのは早計か、と何かが一瞬囁いた。


「俺が奴なら……」


 そう言った直後、背筋がゾクッと来たのを感じた。

 相手は弾切れを起こしていない。

 相手は確実に零距離で仕留める方法にシフトしている。

 そう考えられたのだ。


 あいつも、そういう騙す手口をよくやっていたから。


 ならば、こちらの手は一つのみ。


「おい、残ってる余計な装甲全部外せ!」


 そう言って、シャングリラに付いていたアーマーを全部パージした。

 残るは、フレーム部分のみ。


 一気に、フットペダルを踏み込んで加速させた。

 Gが襲い来る。


 だからなんだと思った。


 相手が、やはり撃ってきた。

 一発でも当たれば終わる。

 だが、左右にスラスターを吹かしながら、避け続けた。


「いい加減、くたばりやがれ!」


 飛んだ。

 そして、相手のMAの胴体に、見事にナイフが突き刺さった。


 だが、コクピットには刺さっていない。

 案の定、相手のコクピットブロックがパージされ、相手が出てきた。


 予想通りの、ツラだった。

 だからこちらも、コクピットを開けて外に出て、眼の前の相手と対する。


「よぅ、シャングリラの」

「よぅ、スティールブラッドの」


 互いに血だらけになりながら、対峙していた。

 実に、五年ぶりの再会になる。


 散々やり合ってきた、あの抗争相手だ。


「おめぇのことだ、感づいてただろ?」


 相手から聞かれて、エッジ22は鼻で笑った。


「分かりやすいんだよ、てめぇの動きはよぉ。なりふり構わねぇクセに、無駄に腕だけはある。同時に後先考えねぇ。うぜぇとは思ってたぜ」

「てめぇも同様だ。後先考えねぇで行動するクセがあるのはお互い様だろうが、あぁ?」


 見事に言い当てられている。

 それが余計にうざいと感じる。


 同類なのだ、俺達は。そう、心が告げている。


「てめぇとの戦いも終いにしてやるよ」


 相手が腕を鳴らしてから、構えた。

 殴り合いで決着をつける。


 思えば、検挙されてこの方、決着がまだ付いていない。

 だから、こちらも首を回した後、構えた。


「終いになんのは、てめぇの方だぁ!」


 互いに大地を蹴った。

 赤い月。それがまるで血の抗争をそのままに再現しているようにエッジ22には思えた。


 だから、互いに叫ぶ。


「「死ねぇぇぇぇ!」」


(了)

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