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03 家族との対面

         ◆



「これは旦那様。ようこそいらっしゃいました」


 数日後、親方に呼ばれて店の奥に行くと、あの金髪の貴族がいた。アルは丁寧に挨拶をして頭を下げた。テーブルの上には金貨が詰まった袋。親方は笑顔で言った。


「喜べ、アル。こちらの貴族様がお前を雇いたいそうだ。お前は頭も見栄えも良いから、きっと立派な従者になるぞ。達者で暮らせよ」


(とか何とか言って。売りやがったな)


 心中で毒づきながら、アルは考えた。いよいよ影武者か。いずれにしても選択権は無い。そのまま全財産が入った肩掛け鞄だけを持って、馬車に乗せられた。


「探したぞ。なぜ待たなかった?」


 貴族は仏頂面で訊いてきた。アルも負けずにぞんざいに返した。


「申し訳ございません。6時の鐘までに戻らないと、夕飯抜きなもので。いつまでも待てとは言われてませんし。それで、私と瓜二つの坊ちゃんの所へ行って、何をすればよろしいので?」


 突然、金で良いようにされたのだ。怒って殴るような主人だったら逃げてやる。だが貴族は眉間にシワを寄せて、


「…実は君の本当の親に頼まれた」


 と言った。アルは男の緑の目を正面から見た。


「両親は死にました。地滑りで」


「それは養い親だ。君の本当の父上と母上、兄上は健在だ。まずは私の話を聞いてほしい」


 タレーラン侯爵と名乗る貴族は、アルの出生の秘密を語った。



         ◆



「俺が第二王子だって。どう思う?チップ」


 アルは王都の侯爵邸に連れてこられた。豪華なベッドの上に胡座をかいて、相棒に話しかけると、チップは大きく首を振った。


「詐欺に決まってる。逃げよう。今すぐ」


「確かに俺は絶世の美少年だけどさ。変態に売り飛ばすなら、こんな芝居打たないよ。侯爵自ら迎えに来てくれるなんて、本当っぽくないか?」


 白い鼠はアルの肩に駆け登り、耳元で怒鳴った。


「目を覚ませ!孤児が王子だなんて、そんなうまい話があるもんか!」


「大丈夫だよ。両親ってやつに会ってみようぜ。やっぱ違うってなったら、侯爵閣下に画家の工房を紹介してもらおう。あ、劇団も良いな!王都だったら何にでもなれるな!」


「アルって本当、前向きだね…」


「母さんが見てみたいんだ。絶対美人だよ。賭けても良い」


 アルはバタリと後ろに倒れた。ふかふかで気持ち良い。チップはもう何も言わなかった。最後はいつも、アルの好きにさせてくれるのだ。


「おっ?」


 その時、部屋がグラグラと揺れ始めた。アルはチップの上に覆い被さった。揺れがおさまると、臆病な親友は身震いを一つした。


「ああ、怖かった。最近、地震多いね」


「そういや、2日にいっぺんくらいあるな。女神がご機嫌斜めなんだろうよ。さあ、寝よう。明日は、お城で感動の対面だ」


 アルは布団に潜り込み、まだ見ぬ家族を想像してニヤニヤした。


(父さんは『会いたかったぞ、息子よ』とか。母さんは『苦労をさせてごめんなさい(涙)』かな。兄貴は『やあ、そっくりだ!面白いな!』って感じか)


 その夜は、一家四人でピクニックに行く夢を見た。花咲く野原で同じ顔の兄と遊び、ぼやぼやした顔の両親はそれを見守っている。実に楽しい夢だった。



          ◆



 今、目の前に両親と兄がいる。なのに床しか見えない。なぜなら、向こうは椅子に座り、アルは跪いているからだ。


 重々しい声が聞こえた。


「面を上げよ」


 アルは顔を上げた。数メートル先に、赤い髪の貴族と銀の髪の貴婦人、その横にアルそっくりの少年がいる。あの肖像画のモデルだろう。驚いたように目を見開き、弟をじっと見つめていた。


「これよりは第二王子として遇する。名前は、何だったか?」


「アルです」


 横に立つ侯爵が答えた。王は少し考えて、


「ではアルベールと名乗れ。今夜から夕食を共にせよ。下がって良い」


 と言って手を振った。侯爵に促され、アルは豪華な応接室を出た。そのまま王子宮という別の建物に行き、10人家族でも暮らせそうな広い部屋に置いて行かれた。


「思ってたのと違うな。新しい奉公先に来たみたいだ」


 独りごちると、侯爵があつらえてくれた上着のポケットから、チップが顔を出した。


「言わんこっちゃない。仕方なしに、嫌々引き取ったのが見え見えだったよ!出て行こう!虐待されるに決まってる!」


 先ほどの一幕がよほど頭にきたのだろう。凄い勢いで捲し立てる。しかしアルは豪華な部屋を見物しながら、相棒を説得した。


「まあ待て。母さんを見たかい?銀の髪に紫の目の、超絶美人だったじゃないか!領都のナンバーワン嬢の百倍綺麗だった。声も綺麗に違いない。逃げるのは、母さんの声を聞いてからでも遅くないよ」


「マザコンめ」


「男はみんなマザコンなの。父さんだって緊張してたんだよ。兄貴も同じ顔を虐めるもんか。今はギクシャクしてたって、いつか仲良くなれるさ」


「王子として生きていくつもり?」


「侯爵も言ってたろ。のんびり好きにしてろって。美味い飯にもありつけるし、ふかふかのベッドで眠れる。もう働かなくて良いんだ。いずれ領地の一つも貰えるだろう。一国一城の主人だぜ!」


 そうだ。これは身を立てる絶好の機会だ。父さんと、その後を継ぐ兄貴の後ろ盾があれば、順風満帆、大貴族だって夢じゃない。広大な領地に麦をいっぱい植えて、孤児院にたっぷり寄付をして。母さんみたいな美しい令嬢を妻に迎える。アルの未来はバラ色だ。


「そう上手くいくかな。君の父さんを悪く言いたくないけど、何か魂胆がある気がする。きっと、アルを利用するつもりだよ」


 疑り深い親友は半眼でアルを見た。


「あれかな。遠くの国の王に、身代わりで献上するってやつ。お婿に行くなら女王か。結構じゃねぇか。女王陛下の愛人だって。尽くせば領地か財産くらいくれるぜ。さあ、心配ばっかかしてないで新しい住まいの探検に行こう!」


 アルは陽気に言い、ドアノブを回したが、開かない。ガチガチと音を立てていたら、廊下から声が聞こえた。


「開きませんよ。夕食まで部屋にいてください」


 いきなり監禁だった。


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