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01 双子の誕生

昔、名作の主人公は、孤児設定が多かったですね。母を訪ねるマルコとか、ペリーヌ物語とか。ラピュタのパズーや未来少年のコナンみたいに、1人で逞しく生きる子供に憧れました。アルもそんな子です。よろしくお願いいたします!

          ◆



「お美しい王子様です。陛下にそっくりな赤い髪と水色の瞳の」


 産婆が赤子を差し出した。王妃は長い分娩に疲れ果てていた。初産で、その上双子だったのだ。


「もう一人は?」


「残念ながら…」


「そう…」


 駄目だったか。双子は難しいと言うから。せめて、顔が見たい。産婆に頼んだら、遺体はすでに神殿に送ったと言われた。皆の喜びに水を差さないように、弟の存在は伏せるそうだ。


 腕の中でスヤスヤ眠る赤子を見ながら、王妃は思った。


(可哀想な子。お墓も無いなんて)


 兄王子はカイエンと名づけられた。死んだ方は名も与えられなかった。



          ◆



 数ヶ月後。ヴォルカン王国東部で大規模な地滑りがあった。山裾の村が土砂に飲まれて消えた。その直後、たまたま通りがかった旅人が、ただ一人の生き残りを見つけた。鮮やかな赤毛と澄んだ水色の瞳の赤子だ。


「窓から揺籠が押し出されたのか。運が良いのか悪いのか。お父もお母も死んじまって」


 彼は赤子を最寄りの孤児院に預けた。しかし地滑りの件を領主に知らせなかったので、長い間、村が無くなったことに誰も気づかなかった。


 赤子は『アル』という名前をつけられた。



         ◆





 アルは10歳で働き始めた。奉公先は、国で二番目に大きい街の飛脚問屋だ。読み書きが達者で目端も効くので、水商売の女やその客達に贔屓にされている。


「何言ってんだよ。俺が美少年だから、おねーちゃん達が可愛がってくれんのさ。人生顔だよ。顔」


 今もご指名の配達で色街を走り回っている。ベストの内ポケットから白い鼠がピョコっと頭を出すと、アルにしか聞こえない声で言った。


「相変わらず羨ましいほどの自信だね。そんなら役者にでもなれば良かったのに」


「なれねぇよ。王都にしか劇団は無いんだから。本当は絵も得意だから、画家の工房とかに行きたかったなぁ。でもまあ、飛脚も悪くないよ。心づけがたんまりもらえるし。今日だけで銀貨5枚は稼げたぞ!美味い物食っていこうぜ、チップ」


 チップはアルの相棒だ。心配性だから、あれこれ口を出してくる。


「独立資金を貯めるんじゃなかった?」


「大丈夫さ。今に俺の顔見たさに街中の娘が文通を始めるから。そうなりゃ、ポケットはお捻りでパンパンだ!ああ、良い顔に産んでくれた美人の母さん、ありがとう!」


「よく言うよ。見たこともないくせに」


「ああ。地滑りで埋まっちまった。死んだ両親の為にも、たくさん子供持たないとな。その前にでかい飛脚問屋開いて、可愛い嫁さん見つけなきゃ…やっぱ金は貯めとこう」


「うん。ナンバーワンのお姉さんにお菓子もらったでしょ。十分だよ」


「そうだな」


 アルは親友の助言に従い、買い食いの誘惑を断ち切った。今日の仕事を全て終え、菓子を食べながらブラブラと高級商店街を冷やかしていた時だ。道の真ん中に何か落ちていた。


「見ろよチップ。金入れだ」

 

 拾い上げてみると、高そうな革の袋だ。重い。アルは振ってみた。


「金貨だな。良い音…」


「うっとりしない。役人に届けよう」


 鼠が至極真っ当な提案をしたら、賢い少年は首を振った。


「役人がパクっちまう。最悪、俺が盗った事にされるかも。まだ落とし主は近くにいるはずさ。この紋章が手がかりだぞ、チップ君」


 少年探偵は辺りを見回した。大きな通りに馬車が何台も停まっている。その一つに、金入れに刻印されたものと同じ紋章がついていた。


「あれだ。ひとつお届けして、謝礼を期待しようじゃないか」

 

「貴族だよ?やめた方が良いと思うけど…」


 相棒は渋い顔だが、アルは金に目が眩んでいた。


「大丈夫さ。殴られそうになったら逃げりゃ良い」


「…」


 チップはポケットに潜り込んでしまった。アルはその馬車に近づき、御者に声を掛けた。事情を話し、金入れを見せると、御者は主人に取り次いでくれた。


 馬車の扉が開き、立派な紳士が降りてくる。アルは恭しく財布を捧げた。


「落とし物でございます。旦那様」


「ありがとう。よく私のだと分かったな」


「旦那様の徳でございましょう。失せ物が必ず戻る相をしていらっしゃいます」


「上手い事を言う小僧だ」


 紳士は金入れから金貨を1枚取り出して、アルの顔前に差し出した。


「ありがとうございます!旦那様に女神の祝福がありますように!」


 少年は満面の笑みを浮かべ、金貨を押しいただいた。その顔を見た貴族は、


「デンカ?!」


 と言って、アルの二の腕を掴んだ。そしてそのままヒョイっと馬車に乗せてしまう。


「何をやっているんです?護衛はどこに?…おい!ひとまず屋敷に行ってくれ!」


 馬車は走り出した。訳が分からないまま、アルは貴族に連れ去られてしまった。


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