光の女王の消失
夜が明けた。
塔の上に座りながら世界を見つめていた。
二人で。
「本当にいいのか?」
「うん」
僕の問いに君は頷く。
君がこの城を離れたいと言ったのはつい先ほどのことだ。
「元々思い入れもないしね、こんな国」
「それ、女王としてどうなんだ?」
「女王? まさか本気で言っているの?」
「まさか」
睨む君に僕は肩を竦める。
君は光の女王などと世間では呼ばれているが、それに何の意味と価値もないことなんて僕が一番分かっている。
君は女王の血も引いていないしその器量もない。
そして崇高な目的も、死すら厭わない野心も、人々の幸せを願う無垢な愛さえもない。
君は君だ。
長い時の果てにようやく自分自身になれた僕の恋人でしかない。
「あなたこそ本当にいいの? 王にならなくて。私がちょっと演じればすぐに私の夫になれるよ?」
「王になってどうするんだよ」
「さぁ? だけど、親愛なる私達の父は王座を求め続けていたわね」
「そうだな。まったくもって理解出来ないな。何がいいんだか。王なんて」
「好きなだけ女の子を抱けるよ? 望むだけ」
「カミラ」
「きっと私だけじゃ飽きるよ? だから……」
僕はため息をついて君を抱き寄せる。
馬鹿なカミラ。
わざわざ自分を傷つけてまでこんなことを言って。
「冗談でもつまらないことは言うな」
君が息を飲み、そして消え入りそうな謝罪をする。
「……ごめん」
「そんなに僕は信用出来ないか?」
君は無言で首を振る。
呆れつつも理解する。
もし僕が君と同じ立場ならきっと同じ事を聞いていただろうから。
仮に一心同体とさえ思えても結局のところは他人だ。
だからこそ、ありえない可能性だって不安になる。
これからずっと我慢を強いるのではないかと考えだすと怖くて仕方なくなる。
それ故の問いだろう?
分かっているよ。
理解するよ。
だけど、あまり聞きたくはないかな。
それに重い空気は嫌いなんだ。
散々吸ってきたのだから。
「まぁ、でも。君が国に未練がないのは嬉しいかな」
「どうして?」
ゆっくりと開いた僕の両腕から離れながら君が問う。
「だって、もしこの国に居たいって君が言い出したら、僕もここに居なくちゃいけないじゃないか」
「ずっとここに居たのに?」
「ずっとここに居たからさ。分かるだろう? 僕と君をこんなにも苦しめ続けたこの場所なんて一瞬だって居たくないさ」
「そうね。だけど、私達はここで出会ったんだよ?」
「物は言いようだな。なら残るか?」
「残るわけないじゃん」
二人で笑う。
二人とも同じ気持ちなら、もう確認の必要もないか。
「それじゃ、決定だ。この城をとっとと出よう」
「だからそう言ってるじゃない」
僕が立ち上がる。
君もすぐに立ち上がると思って。
「カミラ?」
しかし君は僕を見上げるだけだった。
「どうした?」
すると君はくすりと笑う。
「女王様が国を捨てるわけにはいかないでしょ?」
君が望んでいることを悟った僕は大きくため息をついた。
「君、今いくつだよ?」
「うるっさいな! さて……女性に歳を聞いてはいけませんよ。ローレン様」
「はいはい。それは失礼しました。それでカミラ様、私に一体何をお望みなのでしょうか?」
君は言う。
あの時と同じ言葉を。
「私を攫ってよ。誰も追いかけて来れないほど遠い場所に私を連れて行ってよ」
茶化したいと思った。
恥ずかしがる君を見たかったから。
茶化してやりたいと思った。
だけど、君が顔を真っ赤にしているから。
「かしこまりました。女王様」
僕だって恥ずかしさで顔を赤くしながら君を抱き上げる。
すると君は両手で顔を隠しながら声を漏らす。
「結構恥ずかしいね、これ」
「お前がやりだしたんだろ……」
「お前って。あんた、今、お前って言った?」
「お前もぼ……俺のことをあんたって言ってるじゃん」
「こんな恥ずかしいこと素面で言えるわけないでしょ」
口調まであの頃のようにする。
意識したわけじゃないのに。
本当にあの頃の続きのようだ。
「あーもう。とっとと誰も追って来られないところに連れてって! 見られたら一生の恥だよ、これ!」
「はいはい……」
どうにも締まらないやり取りをしながら僕は君を抱えて進む。
新しい世界へと。
駆けだした。
お読みいただきありがとうございました。
これより第七章となります。
ですが、この章は半ばエピローグに近いものとなります。
偉大なる夜により運命から解放された二人。
永遠を生きる二人がどのような旅をするのか。
全てではありませんが、少しだけ覗いていただければ幸いです。




