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偉大なる夜の下で  作者: 小雨川蛙
【一章】
1/36

 

「どうすればいいのか、もうわからない」


 薄ら寒い風の音の中に君の声が混じった。

 まるで自分の所有物であることを主張するかのように、君が僕の身体につけた数え切れないほどの傷が疼く。


「わたし。どうすればいいんだろう」


 僕が敗北した日、君に無理矢理嵌められた首輪が重くなった気がした。


 苦しい。

 まるで君の嘆きと哀しみ、そして絶望が僕自身のものになってしまったかのように。

 

 硬く冷たい石で出来た寝台の上で君は虚ろな顔のまま窓から覗く朝焼けで霞む月を見つめていた。

 平時のように侮蔑しながら僕を痛めつける君の姿はそこにはない。


「ほんとうに。もう、どうすればいいのか、わからない」


 繰り返された言葉が君の真実であるのだと僕は受け入れたくなかった。

 だから僕は無言で寝台から離れ、この牢屋の中で君から最も遠い鉄格子の付近に座り込んだ。


 すると。


「いかないで」


 君は子供のような震えた声で身を起こして、ふらり、ふらりと風に揺れる枯草のように頼りない足取りで僕の隣へとやって来る。

 君の白い体は外の光を受けて薄青く染まっていた。

 まるで人間でないことを訴えるように。


「ひとりにしないで」


 見たこともない君の表情に僕は震えた。


 恐ろしかった。

 君を憐れんでしまいそうで。


 恐ろしかった。

 僕が抱かなければならない君への憎悪が消えてしまいそうで。


 これは夢だ。

 夢を見ているんだ。


 そうでないとおかしいだろう?

 何故、全てを手に入れたはずの勝者である君が苦しみ、全てを失ったはずの敗者である僕が哀れんでいるんだ。

 だからこれは夢なんだ。


 そう。

 きっと、君に甚振(いたぶ)られ、まさに死んでいこうとする刹那に僕が見た夢。

 僕は必死に自分へと言い聞かせる。


 そんな僕の心中を知ってか知らずか、君は僕にしがみつくように抱き着く。

 

 夢では決してありえない温もりが僕の身体を包んだ。


「わたし。どうすればいいの?」


 僕の胸板に顔を当てながら君はさめざめと泣き続けていた。

お読みいただきありがとうございました。

二人の主人公の行末をゆっくりと見守っていただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
何と言う感性なのでしょう! 勝者と敗者の心情に於ける逆転。 もって生まれた家同士の宿命。 まるでロミオとジュリエット? 今後の展開に予想や想像の余地を許さない、意表を突くオリジナリティの作風が強み…
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