2-3.勝海舟との接触
松田が京都の街で謎の男に遭遇した翌日、龍馬は松田に対して「ある人物に会いに行く」と告げた。坂本龍馬の動きに詳しい松田には、その「人物」が誰であるかすぐにわかった。勝海舟――幕末の大きな舞台裏で、政治的手腕を発揮し、日本の未来を担った男だ。
「勝海舟に会うんですか?」
松田は驚きながら龍馬に尋ねた。勝海舟との接触は、龍馬の未来にとって重要な出来事の一つだ。勝海舟の協力なくして、龍馬の倒幕運動は成功しなかったかもしれない。
「せや。今後の話を詰めるためにも、海舟さんと話す必要があるんや。」
龍馬は軽い調子で返したが、その瞳の奥には鋭い計算が見え隠れしていた。松田は緊張感を抱きながらも、その瞬間を目撃できることに内心興奮していた。勝海舟という歴史のキーマンと会うことで、さらに新たな運命の分岐点に近づいているのを感じた。
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数日後、松田は龍馬、陸奥と共に勝海舟が滞在している東京の屋敷へ向かった。幕末の混乱期、江戸はまだ新しい時代の到来を知らない街だが、そこには既に時代の息吹が感じられた。松田はその歴史的な空間に足を踏み入れるたび、少しずつこの時代に巻き込まれていることを実感していた。
勝海舟の屋敷に到着すると、龍馬はすぐに勝との対面が許された。松田も同席を許され、勝海舟と直接顔を合わせることになる。屋敷に入ると、勝海舟が書物を読みながら、落ち着いた表情で松田たちを出迎えた。
「おお、龍馬か。よう来たな。」
勝海舟は穏やかな笑顔で彼らを迎えた。彼は政治的な駆け引きに長けた人物だが、その穏やかな態度の背後には深い知略が隠されている。
「勝先生、久しぶりです。今日は大事な話をしに来ました。」
龍馬は勝海舟に礼をしながら、本題に入る準備をしていた。
勝海舟は松田をちらりと見て、少し怪訝そうな表情を浮かべた。
「その若者は誰だ?」
松田は一瞬固まったが、龍馬がすぐに間に入った。
「彼は、松田涼介といいます。わしの新しい仲間です。少し訳ありですが、信頼できる男です。」
勝海舟は再び松田に視線を向け、しばらく黙ったまま観察していた。その眼差しは鋭く、まるで松田の内面まで見透かそうとしているかのようだった。松田はその緊張感に圧倒されながらも、何とか微笑みを返す。
「ふむ……まあ、龍馬が信じているなら、私も信じよう。」
勝海舟はそう言って、松田の存在を受け入れるように頷いた。だが、松田の背中には冷や汗が流れていた。自分がこの時代に本来存在しない人間であることを、彼が気づいているのではないかという疑念が頭をよぎった。
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しばらくして、龍馬は勝海舟に対して、自身の考えを語り始めた。幕府の崩壊が近づいていること、そしてそれに伴う新たな日本の未来について。松田はそのやり取りをじっと聞きながら、歴史が動いている瞬間を目撃しているという感覚に包まれていた。
「幕府はこのままでは崩れるでしょう。徳川の力は、すでに失われつつあります。それを支える新しい体制が必要です。」
龍馬は真剣な眼差しで勝海舟に訴えかけた。だが、勝海舟はその言葉を冷静に受け止めつつも、考え込むように視線を落とした。
「確かに、幕府の力は弱まっている。だが、新たな体制を築くには、まだ多くの準備が必要だ。徳川が崩壊すれば、それに続く混乱は計り知れない。新政府がそれを制御できるかどうかもわからん。」
勝海舟は慎重な姿勢を崩さず、龍馬に反論した。その言葉には、政治的経験と現実を見据えた判断が込められている。
「そうかもしれません。けど、今動かないと手遅れになるんです。わしらが倒幕の先頭に立つことで、混乱を最小限に抑え、新しい時代を切り開けると信じています。」
龍馬は一歩も引かず、自分の信念を訴え続けた。その強い意志に、松田もまた引き込まれる。歴史を変えるという大きな責任を背負った龍馬の姿は、まさに「分水嶺」を象徴しているようだった。
勝海舟はしばらく黙っていたが、やがて深く息をついて言った。
「……わかった。お前の覚悟は伝わった。私もできる限りの支援をしよう。」
勝海舟のその一言は、幕末の歴史における重要な瞬間だった。龍馬が倒幕を実現するために欠かせない協力者が、ここに一人加わったのだ。
松田は、この瞬間が歴史の大きな転換点であることを直感的に理解した。だが、その背後に潜む不安も同時に感じていた。龍馬の命を救ったことが、本当に正しい選択だったのか。これから訪れる未来が、どのように変わってしまうのかは、誰にもわからない。
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その夜、松田は勝海舟の屋敷を後にし、龍馬や陸奥と共に街道を歩いていた。月明かりが静かに彼らを照らす中、松田は龍馬に話しかけた。
「勝先生は、あなたの考えに賛同してくれましたね。」
松田の言葉に、龍馬は満足そうに頷いた。
「うん、まあ、あの人も慎重やけど、わしらに賭けてくれる言うたからな。これからが本番や。」
その時、松田の胸にふと不安がよぎった。勝海舟は政治的に重要な役割を果たす人物だが、彼を巻き込むことで、これからの歴史がさらに大きく変わる可能性がある。もし、自分の行動が予測不可能な未来を引き起こしてしまったら……。
「どうした、松田くん?」
龍馬が松田の沈黙に気づき、問いかけた。
「いえ……ただ、未来がどうなるか、少し気になってしまって……。」
松田は曖昧に答えたが、その不安は消えなかった。
龍馬は軽く笑って言った。
「未来がどうなろうと、わしらがやるべきことは変わらん。とにかく、前に進むしかないんや。」
その言葉は、松田にとって一つの救いだった。歴史が変わろうとも、龍馬の信念は変わらない。それがこの時代を生きる人々の強さなのだろう。
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