1-4. 幕末への跳躍
松田の心臓は激しく鼓動していた。坂本龍馬、歴史の中で何度も見てきた人物が、目の前にいる。彼は自分が夢の中にいるのではないかと錯覚するほど、その光景に圧倒されていた。
「お客さん、どうしたんや?えらい緊張してるようやけど。」
龍馬の声に、松田はハッと我に返った。目の前の龍馬は、歴史書で知る通りの快活な笑顔を浮かべていたが、この後に彼を襲う運命を知る松田の胸中は複雑だった。
「す、すみません……」
松田はつい口ごもってしまったが、すぐに頭を整理し、龍馬に近づいた。時間がない。彼を救わなければならない。だが、どう伝えればいいのか?未来から来たなどという話をどう説明すれば良いのか。
「実は……ここに刺客が来る予定なんです。もうすぐ、あなたを襲おうとしているんです!」
松田は、半ば衝動的にそう言ってしまった。龍馬は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにその顔は柔らかな笑みに変わった。
「はは、そりゃあ大変やな。けど、わしは大丈夫や。そんなん、毎日のように聞いとるわ。」
龍馬は冗談めかして笑う。彼は日々、命を狙われている状況に慣れてしまっていた。松田の警告も、ただの脅しや噂程度にしか感じていないようだ。
「でも、今夜は違うんです。本当に危険です。信じてください。」
松田は龍馬の肩を掴み、真剣な眼差しを送った。その様子に、龍馬は少し表情を硬くした。
「そうか……君、何者や?そんな真剣な顔で言われると、冗談にも聞こえんわな。」
龍馬は松田を見つめ、少しの間を置いて考え込んだ。
陸奥陽之助も、松田を不思議そうに見つめている。彼の存在に疑問を持ちながらも、すでに状況は切迫していた。松田はどうしても真実を伝えなければならないという思いに駆られた。
「私は……この時代の人間じゃないんです。」
その言葉が発せられた瞬間、部屋の中の空気が凍りついた。龍馬と陸奥は互いに顔を見合わせ、松田をじっと見つめた。
「どういうことや?君、何を言うとるんや?」
龍馬は困惑しつつも、その目には強い好奇心が宿っていた。松田は迷った末に、少しだけ真実を話すことに決めた。
「信じられないかもしれませんが、私は未来から来ました。あなたが今夜襲撃され、命を落とすことを知っています。私はそれを防ぐためにここに来たんです。」
松田の声は震えていたが、真剣さは伝わっていた。龍馬の表情は徐々に険しさを帯びてきた。
「未来……から?ほんまかいな。けったいな話やけど……」
龍馬は頭をかきながら、松田をじっと見つめ続けた。信じ難い話ではあるが、彼はどこか松田の言葉に真実味を感じているようだった。龍馬は、現実的な常識を超える考え方を持っている人物だった。異常な状況を楽しむ心もあったのかもしれない。
「もし、それが本当なら……わしはどうしたらええんや?」
龍馬は松田に向かい、真剣な表情で問いかけた。松田は、ついに龍馬が自分の話を信じ始めたことを感じた。
「まず、この場所を離れましょう。すぐにです。刺客たちが来るのはもうすぐです。」
松田がそう促すと、龍馬は立ち上がり、陸奥にも目配せした。
「わかった。逃げる準備はしとこうか。」
龍馬は陸奥に軽く指示を出し、松田に向き直った。
「君、名前は何ちゅうんや?」
松田は一瞬ためらったが、正直に答えた。
「松田涼介といいます。現代の……歴史研究者です。」
龍馬はその答えに軽く頷いた。
「松田くんか。ほな、わしの命を救ってくれるってわけやな。面白い。」
龍馬の言葉が終わった瞬間だった――建物の外から、何者かの足音が聞こえてきた。松田の背筋に冷たいものが走る。いよいよ刺客たちが動き始めたのだ。
「来た!」
松田はすぐに龍馬に警告したが、龍馬はすでに動き出していた。彼は素早く部屋の片隅に身を潜め、陸奥もそれに従う。
松田も部屋の隅に身を潜めながら、心臓の音が耳に響くのを感じた。いよいよ、その瞬間が訪れようとしている。歴史を変えるための運命の分岐点が、目の前に迫っていた。
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