3-4.密談
夜の京都、松田たちは迫り来る暗殺者の脅威に備えて宿の中で静かに待機していた。龍馬は冷静を保ちつつ、陸奥や松田と共に作戦を練り直していたが、その雰囲気はどこか緊張感に包まれていた。
龍馬を狙う刺客の動きは確実に近づいている。松田は宿の一室に龍馬と陸奥と共に集まり、今後の行動について密談を始めた。
「松田くん、刺客の動きを知っている君の意見を聞かせてくれ。どう動けばいい?」
龍馬は深く座り込んで静かに問いかけた。松田は、その問いかけに一瞬戸惑いながらも、自分が知っている限りの情報を整理し始めた。
「歴史を考えれば、彼らは待ち伏せの形を取ってくる可能性が高いです。正面からの攻撃は避け、あなたが予想外の動きをすることで、奇襲に備えるべきです。」
松田は、自分の知識とこの時代での経験を総合して、できる限りのアドバイスを龍馬に伝えた。
「ふむ、確かに奴らは慎重に動くはずや。正面突破は避けたいところやな。」
龍馬は少し考え込みながら頷いた。
「けど、どうやら今回は、ただ待っているだけでは乗り切れんようやな。こっちからも仕掛けていかんと、奴らに先を読まれる。」
龍馬の言葉には覚悟がにじみ出ていた。彼は、命を狙われながらも後ろに引くことはしないという姿勢を崩さなかった。
「陸奥、信頼できる者たちは今どこにいる?」
龍馬は陸奥に向き直った。陸奥は即座に報告した。
「すでに周囲の見張りは配置済みです。志士たちは宿の外に待機しています。あとは龍馬さんの指示次第です。」
陸奥の言葉に、松田は少しだけ安心した。彼らは、ただ守られるだけでなく、自ら戦う準備を整えている。
「よし、それで十分やな。奴らが動いたら、すぐに応じられるようにしておこう。」
龍馬は笑みを浮かべ、松田に視線を向けた。
「松田くん、君がこの時代に現れたことは、偶然ではないのかもしれん。わしが生き延びるために、君がここに来たんやと、そんな風に感じるんや。」
その言葉に、松田は少し戸惑った。自分が未来から来たことを完全に信じているわけではない龍馬が、そんなことを口にするとは思ってもみなかった。
「でも……龍馬さん、僕がこの時代に来たことで、歴史が大きく変わり始めています。もしかしたら、あなたを救ったことで、未来に混乱が生じるかもしれない。」
松田は自分の懸念を素直に口にした。未来から来た者としての責任、そして過去に干渉することで引き起こすかもしれない予測不能な結果――その重荷が、彼の心を圧迫していた。
龍馬はしばらく黙って松田の話を聞いていたが、やがて優しい微笑みを浮かべて答えた。
「松田くん、未来がどうなるかは誰にもわからん。君が知っとる未来も、変わるべきかもしれんし、変わらん方がええかもしれん。けど、今この瞬間、わしらがやるべきことは変わらんのや。」
その言葉には、龍馬がこの時代を生き抜く覚悟が込められていた。未来を恐れず、結果をどう受け止めるかよりも、今の行動が大切だという信念がはっきりと伝わってくる。
「わしが死ぬべきやったとしても、君がここに来た以上、それはもう関係ない。わしらは新しい道を進むしかないんや。」
龍馬の言葉に、松田は少しだけ肩の力が抜けた。未来を知っているがゆえの不安を抱え続ける彼にとって、龍馬のその言葉は一種の救いだった。
「……わかりました。僕も、あなたのためにできる限りのことをします。」
松田は、龍馬の言葉に応え、もう一度自分の使命を再確認した。この時代に残り、龍馬の命を守る――それが、今の自分にできる最大の責任だ。
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その後、龍馬と陸奥はさらに具体的な作戦について話し合いを続けた。松田はそのやり取りを見守りながら、頭の中でいくつものシナリオを思い描いていた。自分がこの時代に残り続けることで、未来はどう変わるのか――その答えはまだ見えていなかったが、今できることをするしかないという覚悟が、松田の中にも芽生えつつあった。
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夜も更け、密談は終わりを迎えた。松田は部屋に戻り、一人ベッドに横たわったが、心は休まらなかった。龍馬を救ったことで生じた歴史の「誤差」は、どこまで広がるのか。そして、未来がどのように変わるのか。その疑問は、松田の胸を苦しめ続けていた。
「本当に……このままでいいのか?」
松田は目を閉じながら、その問いを何度も自分に投げかけた。だが、答えはまだ見つからなかった。彼が未来に戻るべきなのか、それともこの時代に留まるべきなのか――その決断は、刻一刻と迫っていた。




