1-1.消された未来
「坂本龍馬が暗殺されなければ、日本の未来はどう変わっていたか?」
松田涼介はパソコンの画面に映る資料を見つめながら、深い溜息をついた。龍馬の暗殺が明治維新に与えた影響について、これまで何度も考えてきたが、答えは出ない。すでに歴史に刻まれてしまった出来事を変えることなど、不可能だとわかっているからだ。
だが、彼の中でその問いはますます強まっていた。
「もしあの夜、龍馬が暗殺されずに生きていたら……」
研究室の薄暗い光の中、彼は一人呟く。これまで蓄積してきた膨大な資料の山は、坂本龍馬の一生と彼が果たした役割について、詳細に書かれている。幕府崩壊を加速させ、明治政府の基礎を作り上げた龍馬の影響力は計り知れない。だが、それだけに彼の死が残した空白もまた、途方もなく大きかった。
松田は椅子にもたれかかり、机の上の資料に目を走らせた。歴史学者として、自分は過去に手を加えることなどできない。ただその過程を解明し、記録するのが仕事だ。しかし、松田は心の奥である感覚を拭いきれなかった。歴史に関する膨大なデータを解析していると、どうしても「もし」の可能性に囚われてしまう。
その時、彼のスマホが震えた。画面を見ると、教授の名前が表示されている。
「松田くん、少し話があるんだが。今、研究室にいるかね?」
教授の声はいつもと変わらないが、どこか含みのある調子だった。松田は何か大きな知らせを予感し、すぐに応じた。
「ええ、います。すぐに伺います。」
電話を切ると、彼は急いで教授の研究室へと向かった。廊下を歩きながら、松田の頭の中では坂本龍馬の姿がぼんやりと浮かび続けていた。歴史の偉人が、まるでその瞬間を待っていたかのように――。
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松田が教授の研究室に入ると、そこには彼の恩師である中島教授が書類を手にして待っていた。教授は古風な木製の机の向こうから彼を見つめ、軽く手招きした。
「入れ、松田くん。君に興味深い話を持ってきた。」
松田は座り、教授の前に差し出された書類を受け取る。それは、ある政府機関が関与する極秘プロジェクトについての簡単な説明が記されていた。表紙には「歴史改変実験計画」とだけ書かれている。心臓が高鳴るのを感じながら、松田は教授の説明を待った。
「君も、今の歴史研究に限界を感じているだろう。過去の出来事をただ分析するだけでは、何も変わらない……だが、もしもその過去に直接干渉することができるとしたら?」
教授はニヤリと笑った。その言葉に松田は耳を疑った。タイムトラベルの実現――それはフィクションの話でしかなかったはずだ。だが、教授の真剣な表情を見る限り、冗談ではないことは明らかだった。
「冗談ですよね?歴史に干渉するなんて……」
松田は半信半疑のまま質問したが、教授は静かに首を振った。
「いいや、冗談ではない。実は最近、我々は小規模な歴史改変実験に成功したんだ。それも、龍馬が暗殺された夜についての実験だ。」
松田の体が一瞬固まった。
「……どういうことですか?」
教授は静かに席を立ち、窓の外を見つめた。
「これから君に見せたいものがある。もし君が受け入れるならば、だが……」
その言葉に、松田は内心の動揺を隠せなかった。坂本龍馬――自分が研究の中心に据えてきた人物。彼の運命に触れる機会が訪れようとしているのか?それは、研究者として魅力的すぎる提案だった。
「私は、ぜひ参加したいです。」
松田の言葉に、教授は満足げに頷いた。
「では、これから君に具体的な計画を説明しよう。君が坂本龍馬の暗殺を防ぎ、歴史がどのように変わるかを観察する役割を担うことになる。」
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この瞬間が、松田の人生における「分水嶺」であった。それが、全てを変えてしまう決断の始まりだとは、この時はまだ気づいていなかった――。
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