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決勝戦-4

 試合開始後、セトは対戦相手のリンジー、ジョアンナからの鋭い視線を受け止めていた。彼女らは昨晩の出来事を、まるで恨んでいるかのようにその表情には怒りともとれる感情が浮かんでいる。


「あんたらの力量は充分理解した。あんたらじゃ俺には勝てないよ」


 セトはあえて相手を煽るように言った。少し顎を前に突き出し、視線は下に見るように。相手を見下すようなその仕草に、リンジーは手を強く握り目に見えて怒りが湧いていた。悔しそうに舌打ちをし、あくまで冷静さを装い「まだ試合は始まったばかりだ」と言い放つ。しかしその声色は少し震えており、装った冷静さは全く意味を成さない。


「始まったばかり?……ああ、なるほど」


 セトは少しだけ考える素振りを見せて、一人納得したように頷く。そして一気にリンジーとの距離を詰め、腰に差している短剣を抜いた。


「あんたたちにとって昨晩のことは無かったことにしたいのかな?」

「黙れ!」


 顔を真っ赤にし、声を荒げた彼女にもう冷静は残されていない。繰り出された攻撃を受けとめ、やや乱暴気味に振り払う。だが戦闘において「冷静」は最も重要と言っても過言ではなく、相手の挙動、腕の向きから次に来る攻撃、僅かな隙も見逃さぬように必要不可欠だ。どうやらこの武闘家の女は少々感情が昂りやすいらしい。


「安心しなよ。昨日の事は誰にも言ってないから不正がバレるの心配はしなくていいよ。あ、それよりも入念に用意した罠を見破られた挙句、返り討ちに遭った方がみんなには知られたくないかな?」

「---ッうるさい!」


 感情に任せた大振りの足技。動きが単調で動作も非常に読みやすく、セトはひらりと軽く躱す。躱した先に矢が放たれ、セト目掛けて真っ直ぐに線を描いた。ジョアンナの援護だ。上手く躱した隙を狙ったようだが、セトは簡単に銃で撃ち落とした。


「お前のせいでルイス様の期待に応えられなかった!ルイス様の期待を裏切ったことになるのよ!」


 激昂したリンジーの声は本人は気付いていないかもしれないが、どこか焦りを含んでいた。昨夜の襲撃は彼女たちの独断ではなく、ルイスの指示だったと今の台詞から読み取れる。ルイスが何のためにセトを襲撃したかは彼には分かりかねるが、イリヤへの嫌がらせに近いものだろうと予想が付いた。そこまでしてイリヤを嫌う理由は何だろうか。

 セトにはどうしてもルイス率いるパーティーに違和感を拭えなかった。勇者パーティーとしての栄誉を捨てたことではない。女全員のルイスに対する態度だ。ルイス「様」と敬称を付けて呼ぶ事も気になる。桝花の「好意というよりも洗脳に近い」という見解はあながち間違いではないのかもしれない。


 ひとつだけ、イリヤと他の女たちとの違いがあった。それはイリヤがルイスに対して無関心だということだ。

 仮にルイスがパーティー内でハーレムを作りたいのなら、自分に全く好意を持たないイリヤは目障りだろう。もし桝花の見解が正しければルイスはパーティー内の女を洗脳したことになる。方法までは分からないが、異常なまでのルイスへの好意と敬愛には納得がいく。イリヤについては、もともとルイスがイリヤを嫌っており洗脳しなかったのか、それとも勇者という特殊な職業によりイリヤには洗脳が効かなかったのか。どちらにせよ彼女がルイスのことを他のパーティメンバーと比べても特別に思っていなかったのは確かだ。彼女は全員に同じくらい仲間のことを思っている。


(いずれにせよロクな人間じゃないな)


 セトは深くため息を吐いた。私利私欲のために仲間に洗脳をかけ、気に入らなければパーティーを追い出し、彼女の使令の邪魔をする。到底許される行為ではない。

 どんなきっかけがあって洗脳しようと思ったのかはセトにとって、どうでも良いことだった。同じパーティーの仲間のため、自分を拾ってくれたイリヤに恩返しをするために戦う。それは相手が誰であろうと変わりはない。


「あんたらが何のために俺を襲ったかは知らないが、俺に傷ひとつ付けられなかったのはあんたらの実力不足だろ?責任を俺に擦り付けるな」


―――装填・精密射撃。


 銃を構えリンジーの鳩尾を狙い一発撃つ。怒りに支配されたリンジーは無防備で、反応する間もなく後方へ吹き飛んだ。


「リンジー!」


 ジョアンナは咄嗟に彼女の名前を呼んだ。掠れた声で「だいじょうぶ」と返事があったが、鳩尾に強い衝撃を与えられたことで息を詰まらせているようだった。幸いにも戦闘不能になるほどのダメージは無く、しばらくすれば復帰できそうだった。すぐにリンジーの前に立ち、彼女が息を整えるまでの時間を稼ぐ。


「私が相手だ!炎の矢(ブレイズアロー)!」


 炎を纏った矢がセトに向かって弧を描いた。しかしそれも簡単に魔法銃で撃ち落とされる。


「まだまだ!炎の矢(ブレイズアロー)!」


 すかさず連続で矢を放つ。弓使いの矢は現物だけでなく自身の魔力で構築することができる。これは弓使いの固有のスキルであり、このスキルを上手く使うことで矢をわざわざ番えずとも次の射撃に素早く入ることができる。構築と言っても本物の矢ではなく、魔力の塊のようなものでしばらくすれば消えてしまうが攻撃の手数が増えるため非常に有効なスキルだ。

 ジョアンナはこのスキルを使い次々とセトに矢を放った。しかし1本残らず撃ち落とされてしまい、どれもセトには届かない。が、一見無意味に見えるこの攻撃も、ジョアンナにはある狙いがあった。それはセトの魔力切れ。つまり厄介な飛び道具と戦闘スキルを両方封じることが目的だった。

 カミラ曰く、盗賊の魔力量などたかが知れている。スキルと魔法銃であれば、魔力の消費量は魔法銃の方が圧倒的に上だ。積極的に魔法銃を使わせて早々に魔力切れを起こさせる。リンジーの戦線復帰もだが、これがジョアンナのもうひとつの狙いだった。

 ちょうど背後で守っているリンジーから「もう大丈夫」と目配せで合図があり、彼女は隙をついていつでも攻撃を仕掛けられるようタイミングを伺っている。


(リンジーの息も整った。なら……あたしがリンジーのために隙を作る!)


矢の雨(アローレイン)!」


 空から無数の矢が降り注ごうとする。それさえも魔法銃で撃ち落とそうとセトの視線が僅かに上に向いた。その時、


「ムーンサルト!」


 セトが降り注ごうとしている矢にほんの僅かに気を取られた隙を狙い、リンジーは素早くセトの前に飛び出した。これは体は後方に宙返りしながら脚で蹴り上げる技だ。この強烈な蹴りは脳まで揺れるような錯覚を起こし、食らえばかなりダメージが高い。彼女は日頃から武闘家として体の柔軟は怠っていない。体のしなやかさがバネになり蹴り上げるスピードが上がり、その分威力とダメージが増幅する。リンジーにとって自信のある技だ。

 もちろん、矢の雨(アローレイン)が降り注ぐ中リンジーが突っ込めば彼女にも矢が刺さり軽傷では済まない。だから敢えて矢の降り注ぐ着地点をわずかにずらし、リンジーには当たらないようジョアンナは調整していた。セトには気付かれない程度のほんのわずかな位置取り。実際、セトがこのことに気付くには一瞬の時間がかかった。


(武闘家の女が飛び出してきた?俺の位置には矢が落ちてくるんだぞ。仲間を切り捨てて捨て身の作戦か?)


 一瞬、そんな考えが頭をよぎった。セトもまた初戦で捨て身(に見せかけた)作戦を取っており、対戦相手の動揺と隙を誘ったからだ。だがあの時は桝花の防御魔法がありセト自身は無傷だった。しかしこの場合はふたりとも防御魔法を使える役職ではなく、あの時のような手は使えないはず。なら何故、この武闘家の女は今飛び出してきた?

 

(そうか、矢の着弾点がズレているのか!)


 それに気付いたセトは敢えて自分からリンジーに近付き、蹴り上げられた脚を両手で受け止め押し出すように振り払った。その背後、数秒前までセトのいた場所には無数の矢が地面に刺さる。

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