決勝戦-1
いくつかの雑談のネタが過ぎた頃、会場の案内係がイリヤたちの控え室に迎えに来た。いよいよ決勝戦の開幕だそうだ。先ほどまでの和気藹々とした雰囲気とは打って変わってピリッと緊張が走る。
「いよいよ決勝だね。ルイスたちには負けないよ……!」
「当たり前だろ。あんたを追放したことを後悔させてやれ」
「無論、手加減などするつもりはない。イリヤに優勝を届け、あの者たちに我らの力の差を見せつけてやろう」
それぞれの想いが強く握る拳に現れる。
控え室を出て闘技場に向かうと、観客の熱気がイリヤたちを歓迎した。反対側、イリヤたちと対角の控え室から出てきたルイスはひどくイリヤを睨みつけている。
ーーー早く試合をしたい、早くイリヤをこの手で叩きのめし、大勢の前で屈辱的な醜態を晒してやりたい。昨晩、可愛い自分の彼女たちがあの盗賊にやられた恨みは勇者の信頼で払ってもらう。あの盗賊が何者かは知らないが、イリヤの力量はつい最近まで共に冒険をしていたから把握している。イリヤを先に倒し、パーティーを崩す。
殺気にも似た鋭いルイスの視線がイリヤを射抜く。対するイリヤは一切視線をそらさずじっと見据えていた。
「さあさあ!会場のみなさま大変お待たせしました!いよいよこの武闘大会も決勝戦の時となりました!」
司会者が大袈裟な身振りで観客を煽った。観客席からは「待ってました」と言わんばかりの、まるで地響きのような歓声が湧き上がる。
「決勝まで勝ち上がったパーティーの紹介をしましょう!まずは勇者と共に旅をしていた実力者揃い!ルイスパーティー!そして対するは勇者率いるイリヤパーティー!その名に違わない圧倒的な強さを今大会では魅せてくれました!決勝戦でも期待です!」
会場から大きな拍手と怒号に近い感性が響く。それは地面すらも揺らしてしまうのではないかと錯覚してしまうほど会場全体に轟いた。
「さあさあ観客の皆様が盛り上がったところでーーー冷めないうちにさっそく試合を魅せてもらいましょう!両者心の準備は良いですか?」
司会者の問いに両パーティーが頷く。それを受け取り、司会者は側を持つ手をパーティー間に振り下ろし、
「それでは準備は整ったということでーーー試合開始!」
試合開始の合図が鳴る。その声と同時に素早くルイスはイリヤに攻撃を仕掛けた。対するイリヤはそれを剣で受け止めしばしの睨み合いのあと弾き返す。今度はイリヤが剣を振り翳しルイスが受け止めた。鳴り響く金属音から2人の攻防の激しさが伝わる。
その時。
「聖なる槍」
ルイスとの間に聖魔法が落とされる。イリヤは反射的に後ろに退避し、イリヤとルイスの間に距離が生まれた。彼の後方を見ればアラーナが控えている。おそらく僧侶である彼女がルイスの補助に回るのだろう。パーティー内で最も戦闘力の高いルイスに治癒を始めとした補助魔法が豊富な僧侶職が付くのは自然な作戦の流れだ。
開始早々始まる攻防に観客席は大いに盛り上がりを見せる。しかしその会場を轟かせる歓声も、闘技場の中心には届かないほどイリヤたちは深く目の前の相手に集中していた。
「作戦通りイリヤは俺とアラーナでやる。お前たちはそれぞれあとの2人を抑えていろ」
ルイスがパーティーに指示を出す。その指示を飲み込み他の3人は頷いてそれぞれの配置についた。
セトの前に立ったのは武闘家のリンジーと弓使いのジョアンナだった。2人は昨晩のことがあってか、セトのことをじっと睨みつけるように見据えている。弦を引き絞るジョアンナの視線は鋭い殺気を帯びていた。
一方桝花の前にはカミラが立っていた。カミラは身の丈ほどある魔法杖を装備し桝花を睨みつけている。
「我の相手は魔導士の小娘か」
桝花はその視線に怖気づかず、余裕の笑みすら浮かべていた。
カミラにとって今装備している魔法杖は、彼女の所持する装備の中で最も火力の高い武器である。エルフ族であり圧倒的な魔力の持ち主である桝花相手には、短期決戦に持ち込みたいからだ。戦いが長引けば魔力の量でカミラには勝ち目がなくなる。魔法杖を装備せずとも素手で魔法を発動することはできるが、魔力の扱い、精密さ、火力面を比較すれば装備するのとしないのとでは差が出てしまう。勇者勇者という特別職のイリヤを除き、人間が魔法を高火力で精密に発動させるなら武器を所持することが普通だ。武器を所持せず戦闘するとなれば相当血の滲む訓練を積む必要がある。
対する桝花は武器など装備していない。彼女たちエルフ族にとって、人間とは違い武器を介さずとも精密で高火力な魔法を己の指先のみで展開することができるからだ。
そういった点もカミラは桝花のことが気に入らなかった。血の滲むほどの努力をして、ようやく身についたものがエルフ族は生まれながら自然にできてしまうのだから。カミラはこの試合で桝花を打ちのめし、人間でもエルフ族に勝ることができると証明したいと強く思っている。
その思惑を、桝花は充分に感じ取っていた。
「来い、小娘。格の違いを見せてやろう」
「その余裕なカオ、すぐに燃やし尽くしてあげるわ!」
カミラの魔法杖の先端に魔力が集まる。その魔力は炎を形成しそれは桝花に向かって放たれた。
「炎の玉!」
「水の鞭」
放たれた炎を水魔法で打ち消す。本来、攻撃魔法は防御結界で防ぐのが一般的だ。攻撃魔法を攻撃魔法で受け、それを打ち消すなど、相手より魔力が勝っていないとできない芸当だった。しかしカミラはこのようなことは予想しており動揺の色は見えなかった。エルフ族ならこれくらいは当然してくるだろう、と踏んでいたからだ。
「魔法を魔法で打ち消すなんてさすがね。でもこれはどうかしら?大爆破!」
魔法には相性がある。炎属性は水属性に弱く、水属性は氷属性に弱い。また、氷属性は炎属性に弱く、
また、爆破属性はどの属性よりも有利に立ち回ることができ、圧倒的な攻撃力を持った魔法だ。その爆破魔法が桝花の周りを取り囲み、会場を轟かせ爆ぜる。
けれど桝花は一切の動揺を見せずひどく落ち着いた声色で詠唱した。
「水の鞭」
カミラの爆破魔法はあっさりと打ち消された。
先ほどと同じ魔法、威力も同じ、けれどどの属性を上回る爆破魔法を打ち消すには充分の魔力。下級魔法で簡単に打ち消せるほど、人間とエルフ族の間にある圧倒的な魔力の差。
カミラは悔しさのあまり奥歯を噛みしめる。辛うじて装いだけは冷静さを保っているようだった。
「まだ終わってないわよ!大爆破・四連!」
その名の通り連続で魔法を展開する。一度防御しただけではすぐさま次の魔法が襲い掛かるため、普通の展開速度では全てを防ぎきることは並の魔道士では不可能だ。
観客も四連続の魔法展開に、その行く先を息を呑んで見守る。
爆破の衝撃で土煙が舞った。それは一瞬で桝花の姿を覆い隠す。
少し経ってからわずかに会場を流れる風が桝花を覆う土煙を晴らしていく。そこには先ほどと変わらず泰然自若と佇む桝花の姿があった。傷ひとつない桝花に会場全体が湧く。
「連続詠唱か……なかなかやるな。さすがはイリヤと共に旅をしていたというだけある」
桝花は先ほど同様下級の水魔法で全ての攻撃を防ぎ切った。それがどういう意味を示しているのか、カミラは嫌でも察していた。圧倒的な力量の差。
「これで終いか?」
鼻で笑いカミラを煽る。その桝花の舐めた態度に、カミラはついに保っていた冷静さを失った。魔法杖を蓮花に突き出し、上級魔法を唱える。
「ふ……ッざけるんじゃないわよ!灼熱の炎!」
会場が異常な暑さに包まれる。肌を撫でる熱風は熱い、というより「痛い」に感覚が近かった。
杖先から展開される巨大な炎は、真っ直ぐ勢いをつけて桝花の方へ飛んで行った。熱気の塊は蓮葉なの身の丈以上ある。桝花はそれを一切避けようとも、防ぐような素振りも見せなかった。
(これを避けないの……!?どうして!?)
余裕ともとれる桝花の態度に、カミラは思わず動揺する。迫る炎の大玉を桝花はじっと見据え、そして。




