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この3人だから

 イリヤたちは順調に予選を勝ち進んでいった。苦戦することなく、むしろ試合を重ねるごとに3人の連携が上手く行くようになっていき、準決勝を迎える頃にはここまでしっくり来るものなのかと驚くほどに綺麗に連携を取れるようになった。パーティーで戦う、ということがこれほどまでに楽しいものだと感じたのは3人とも初めてだった。

 その準決勝も難なく突破した。最後に相手パーティーの魔導士を倒したときは興奮が治らなかった。それほど試合が楽しかった。この3人で出場したからだろう、と思うとイリヤは少し嬉しくなる。

 決勝戦は明日行われるらしい。なんでも、最も盛り上がる決勝戦は、進出した各パーティーのコンディションを整え、より白熱した試合を観衆が求めるからだ。確かに決勝戦で魔力切れや体力切れなどで微妙な試合というのも、決勝戦の場では興醒めだ。エンターテイメント性を求められる武闘大会であれば尚更。

 そして予想通り、決勝戦で当たるのはルイスの率いるパーティーだった。ルイスたちの強さは本物で、それはイリヤもよく分かっていた。彼らの試合を観戦していても、無駄のない動きで悔しいが強いと認めざるを得ない。


 「現勇者パーティー」vs「元勇者パーティー」の決勝戦。


 この組み合わせは多くの観客の期待を寄せられているようで、今日の試合が全て終わった今も会場は興奮冷めやらぬ状態が続いている。「明日の試合楽しみにしてるよ!」「明日は勇者を応援してるからな!」なんて、一般の観客や他の出場者たちからたくさんの声援をかけられた。一方で、その話題の中心であるもう片方の「元勇者パーティー」ルイスたちは既に会場から去ったあとだったようだ。準決勝を終えてから姿が見えなかった。

 たくさんの応援を背に受けながら、イリヤたちは会場を後にする。


「明日は楽しみだな……群衆の前であ奴らに恥をかかせてくれるわ」

「俺も間違って殺さないように気を付けないと」

「なんか怖いこと言ってない!?ルール違反はやめて!?」


 宿への帰り道、2人の会話から物騒なワードが聞こえてきて、その目も冗談ではなく本気だった。イリヤの口から思わず変な声が出てしまう。


「まあ冗談は置いておいて、俺らはあいつらを許せないんだよ」

「うん……ありがとう」

「だから明日のために今日の試合ではある程度温存してた。あいつらに一泡吹かせてやるぞ」


 くしゃりとセトの大きな手で頭を撫でられる。一瞬の出来事だったがその手のひらからは暖かく、心地よい体温が伝わった。イリヤの頭がすっぽりと収まるほど、セトの手のひらは大きかった。


「そうだね。ありがとう」


 未だ撫でられたところが暖かい。その暖かさは安心するもので、まるで氷が溶けていくようにじんわりと全身に広がっていく。もしかしたら自分でも気がつかないうちに緊張していたのだろうか。


「よーし!明日に備えて美味しいものを食べるよ!ほら早く!」

「おい待て背中を押すな!」

「イリヤよ、我は美味い肉を食べたい」


 緩む口角を誤魔化すようにわざと明るい声を出す。照れ隠しにしては少しわざとらしかっただろうか?


◆◇◆


 宿へ帰る途中に見つけたレストランで食事を済まし、店を出る頃にはもうすっかりあたりは暗くなっていた。本当はもう少し早めに店を出る予定だったのだが、闘技場帰りの客が店内に多くいてここでもたくさんの人に声をかけられた。その一人一人を相手しているうちにあっという間に時間が過ぎていっていた。


「あんなに応援してくれる人がいるって嬉しいねえ」


 レストランでの出来事はイリヤにとって非常に嬉しいものだったらしい。表情から察するに至極ご満悦のようだ。観客の期待を一身に背負ってなお緊張というものはないらしい。


「予定より帰るのが遅くなっちゃったけど、みんな今夜はしっかり休んで明日に備えようね」

「我はもう眠い……イリヤよ早く帰ろう」


 女子2人は夜道をまるで姉妹のように楽しそうに歩いていた。その少し後ろを遅れてセトが着いていく。しばらく歩いた後、ぽつりとセトが呟いた。


「悪い、先に帰っててくれ」

「ん?どうしたのセト。さっきのお店に忘れ物?」


 振り返り訊ねる。その表情は真剣さを帯びていた。何かあったのだろうか、と小首をかしげる。


「いや、少し夜風に当たりたいだけ」

「え、なに、どうしたの?何かあったの?それともさっき何かされた?」


 イリヤにとって予想外の返答に、なぜそうしたいのかと捲し立てる。桝花も不思議そうな表情をしている。セトはその勢いに押されながらも「違う」とはっきり否定した。


「俺はあんたらと違ってしがない盗賊なんだよ。緊張してんだ察してくれ」

「……セトが緊張?あんなに強いのに?」

「あんたは俺を過大評価しすぎだよ」


 そんなに遅くならないようにするから安心してくれ、と言い残しセトは来た道を戻っていった。そこまで言うのならとイリヤと桝花も顔を見合わせて宿への帰路に就く。






ーーーその、2人の後ろ姿を見届けた後、セトはポケットから1枚の折り畳まれた紙切れを取り出した。


 これは会場を出たあとすぐに転送魔法で送られてきたものだ。ピンポイントで狙った場所に転送魔法を使え、なおかつイリヤと桝花に気取られずにこれをできるということは、この紙切れの送り主は相当の手練れであるという証拠だった。送られてすぐにその紙切れに書かれていることを読んだが、その内容はセトの神経を逆撫でするには十分だった。


「さてどうするかな」


 再度その紙切れを開いて視線を落とす。その紙切れには乱雑な字でこう書かれていた。


ーーー勇者イリヤの秘密を明日の試合でバラされたくなければ、今夜二十二時に十五番通りに1人で来い。

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