初戦突破
イリヤとランドルは幾度と刃を交えていた。2人は同じ武器種である片手剣を使っていて、激しくぶつかり合う金属音が闘技場に反響する。勇者と戦士はパーティー内ではほぼ同じ役割をこなす似た職業である。違う点があるとすれば勇者は魔法を使用できるという点だけだろう。
戦士となって歴の長いランドルは、全く隙を見せないイリヤの剣技に舌を巻いていた。一撃一撃の重みは男と比べたら感じられないが、身軽で身体能力が高く体の柔軟さも相まってあらゆる角度から攻撃を仕掛けてくる。上から、右から、かと思えば今度は左から。とにかく手数が多く、ランドルにとっては厄介な強敵だった。さらに魔法と剣技を組み合わせて使い、剣が頬を掠めたかと思えば魔法が展開され、その魔法を避ければ避けた先に剣撃が繰り出される。
この女、間違いなく強い!
さすがは勇者に選ばれるだけある、というわけか。とランドルは感心した。
だが、ランドルにとっても闘技大会に出場したからには簡単には負けてられない。相手が全力でくるのなら、こちらも全力で出さねば失礼というもの。最初から負けと決めつけて手を抜くというのはあまりにも興醒めだ。
ーーー手数で勝てないなら力技で勝つ!
ランドルは大きく振りかぶりイリヤの剣を外へ弾き飛ばす。弾き飛ばされたイリヤの剣は弧を描き少し離れた地面へ突き刺さった。武器が手元から離れ、丸腰となったイリヤは思わず視線を飛ばされた剣の方に向ける。
「もらった!三連斬り!」
その一瞬を見逃さなかった。これをチャンスとしたランドルは三連斬りを繰り出す。その名の通り素早く三連続で切り掛かる片手剣のスキルだ。斬り込みを入れた後素早く切り返し、再び斬りつける技。隙がなく、一瞬で多くの手数があるので使い勝手の良いスキルだ。丸腰で、防ぐ手のない今のイリヤにとってこの技は避けられないだろう。そう、ランドルは踏んでいた。
しかし、その意に反しランドルの剣はあっさりと防がれる。
「武器だけが頼りじゃないんだよ?」
ランドルの剣技を防いだのは、普段剣を収めている鞘だった。ニッコリと余裕の笑みを浮かべるイリヤはその鞘でランドルの剣を受け止め、そして逃さぬうちに手のひらをかざし魔法を展開する。
「炎の玉」
超至近距離で放たれた炎の玉はランドルを直撃し、燃える熱さに襲われる。一度体制を立て直そうと後退りしイリヤと距離を取った。しかし逃さないと言わんばかりに空いた距離を詰め、立て直す間も与えず更に追い討ちをかける。
「氷の刃!」
かざした手のひらからいくつもの氷の刃を形成し、ランドルへ向かって飛ばしていく。それはランドルを狙っているというより、逃げ道をなくすかのように彼を先回りして地面に刺さっていった。
逃げ場がなくなったランドルは再び剣を握る手に力を込めて反撃に出る。いくつかの氷の刃を剣で弾き、大きく跳躍した。そしてその勢いを重量に乗せて剣を振り下ろす。
「はああああっ!」
———確実に上を取った!これで決めるなんて考えるな。僅かでも良いから隙を作れ!
「これは受け止められないね」
対するイリヤはこれを受け止めるには力の差があると考え、後ろに下がりその攻撃を避けた。受け取り手のいなくなった剣撃はそのまま地面へと叩き付けられる。
「まだだ!」
今度はランドルが追い詰めるようにイリヤに攻撃を仕掛けた。形勢逆転だ。距離を詰めながら次々と繰り出される攻撃。それをイリヤはひらひらと躱す。ランドルは一向に剣先で捉えることができず、次第にその剣の軌道に苛立ちが混ざっていった。
それを、イリヤは決して見逃さなかった。
「剣が乱れてるよ!」
振り下ろされた剣を自身の後ろにいなし、鳩尾に鞘で鋭い一撃を入れる。
「がはっ……!」
そしてイリヤは柄を取り、ランドルから剣を奪い取った。そのまま大きく振り上げ、にっこりと微笑む。
「また形勢逆転、だね」
その言葉と同時にくるりと剣を反転させた。柄頭をランドルの首に向けて振り落とす。どんっ、と鈍い音が響いた。
地面に音を立てて倒れる。見上げるとイリヤは息ひとつ乱していない。武器を奪われたランドルにはもう、反撃の手段がなかった。
「…………降参だ」
地面に仰向けになったまま両手をあげ、投降のポーズを見せた。
「ちょうどだったな」
そこにセトと桝花も合流する。どうやら向こうの戦いも終わったようだ。
———同じように地面に伏せている仲間を見て、完敗なのだとランドルは悟る。
「試合終了ー!勝ったのは『勇者イリヤパーティー』!」
審判の興奮した声が闘技場に響く。その声と共に、イリヤたちの試合の勝敗がついた。「よし!」とイリヤが嬉しそうに拳を握る。
「……なあ、どこでその剣術を身に着けたんだ?」
地面に伏せたままのランドルが、純粋な疑問を投げかけた。冒険者歴の長いランドルだが、イリヤの剣術は見事なものだった。どこでどうやって身に着け、誰に師事したのか戦士として気になっての疑問だった。
その質問にイリヤは表情に一瞬の陰りを落とす。しかしすぐに笑顔を貼り付け、落ち着いた声色で答えた。
「勇者になったばかりの頃、ある人に習ったんだ」
イリヤたちの試合を、ルイスたちは闘技場の観覧席から見物していた。
「流石に初戦は突破したか」
ルイスは頬杖をついてつまらなさそうに呟いた。その声に周りに侍らしている女たちが甘い声で反応する。
「さすがは勇者と言ったところかしら。人数の不利を覆したわね」
「それにしてもあのエルフ族……もしあいつらが勝ち上がれば私達にも厄介よ」
カミラも元勇者パーティーとしてイリヤと一緒に旅をしていた魔導士だ。そこら辺にいる普通の魔導士よりも経験値がずっと上である。
その凄腕の魔導士カミラが、エルフ族をそう評価した。
「そいつは面倒だな……」
イリヤのことだ。必ず決勝戦まで勝ち上がってくる。そうすれば当たるのは自分たちだ。
「エルフ族を潰すのは難しい……だが」
ルイスは冷たい視線をセトに向けた。いかにも優男で、先程の試合も囮を任される程度だ。戦闘力は大したことない。ただの盗賊に違いない。
「あの盗賊を試合前にヤるぞ。殺さなくていい。あくまで不慮の事故で試合に出れなくしよう」
ニタリと下卑た笑みを浮かべる。その卑怯な提案に、他の女も「賛成〜♡」と、猫なで声を上げた。




