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月夜の獣  作者: 八重花
9/11

決着

 目の前が、熱い。

 それは、感情の昂りのことではない。

 物理的に、俺の目の前は今、燃えている。

 というより、口から炎が放射されている。

 なんだこれ!?と叫びたかったが、口から火ぃ吐いているので叫べなかった。

 燃える蜘蛛が悲鳴を上げる。

 やがて、力尽きた蜘蛛は、ぐしゃり、とその場に崩れ落ちた。

 そこで漸く俺は火を吐くのをやめる。

 ぎぎっと月夜の方を向いて、

『なにこれ』

「いやぁねぇ。合成獣って火ぃ吐くものよ」

『初耳だよ!』

「あー、合成獣って、竜の能力が入ってるから、感情が高ぶると火を吐けちゃったりするらしいよ」

 かなりいい加減な説明をされた。

『ううううう』

 呻き声に、振り返る。

 蜘蛛だ。まだ生きている。

 とどめをさすべきか悩んでいると、蜘蛛はガバッと顔を上げて、

『なんで邪魔するんだ!!

 我は、ただ、腹一杯飯が食べたいだけなのに!!!』

『·······』

 つい先程まで、蜘蛛は恐ろしい化け物だった。

 それが今は、駄々をこねる子供のように見える。

 すると月夜はすたすたと蜘蛛に歩みより、

「なんか事情あるなら、夜は長いし、聞いてやるよ」

 蜘蛛は少し考えて頷くと、

『では、大人しく喰われてくれ』

『やだよ』

『何故だ···。喰われるくらい良いではないか』

 死ぬからだよ。喰われたら。

 蜘蛛はなんだかやさぐれた口調で、

『そもそも、人間がなかなか森の奥に来ないのが悪いのだ···

 人里離れた森の奥で生まれて二百年、女郎蜘蛛の誇りを捨て、木の実や草まで食べたが、常に空腹だった』

 まぁ、このサイズの奴が腹一杯になれるくらい木の実採ってたら、森が消えるわな。むしろ、そんな食生活でよくここまで育ったもんだ。

『だから、イェレッシュという輩が森に迷い込んだときは、漸くチャンスが巡ってきたと思った。しかし、そこで、奴を利用して町を襲おうと欲をかいたのが間違いだった』

 つまり、そこで欲をかかなかったら、イェレッシュはその場で喰われていたと。

『漸く腹一杯になれると思ったのに·····』

 うなだれる蜘蛛を見ていると、なんだかとってもやりづらい。

 思えば、こいつのしたことはイェレッシュに比べたら悪事とは言い難い。

 俺はさっき食った野豚のことを思い出す。

 人間だって肉が食べたければ狩りもするし、罠も張る。

 そう考えると、蜘蛛の行動は自然にのっとった行為とも言える。

 しかし、だからといって街を襲うのを黙認するわけにもいかない。

 かといって、このまま蜘蛛にとどめをさすのも気が引けるし···。

「よし。こうしよう」

 月夜がどこからか、二本の短剣を取り出す。

 三日月のように曲がった形をした変わった短剣で、どちらも金色に輝いている。

「とうっ」

 ざくっと、二本の剣が蜘蛛の足に刺さった。

『おいおいっ!』

 俺は慌てるが、

『おお···』

 蜘蛛の体が、縮んでいく。みるみるうちに、普通の蜘蛛と変わらないサイズになった。

「こうすれば、少ない量でお腹いっぱいになれるでしょ」

 蜘蛛は自分の体を大分細くなった足でぺたぺたと触る。月夜が何かしたのか、俺がむしった二本の足も元通りになっている。

『···感謝、する』

 これで蜘蛛が街を襲う必要はなくなった。

 良かった、のだが、

『··········』

 そんなことができるなら、最初からやってくれよ。

 言い様のない不満に、さっき蜘蛛に叩きつけられた傷が痛むのを感じた。

 蜘蛛はその辺の砂利を拾うと、

『はぁ···こんな小石でも腹一杯になれるものなのだな』

 いや、ちゃんと食えるもん食えよ。と、言いたいが、蜘蛛があまりにも感動しているので水を差せない。

『こうなれば、貴様らと戦う理由は何もない。我はこの地で、思う存分草や実で腹を満たすとしよう』

 肉でなくて良いのか?、と思ったが、今までそんな食生活だったせいで、今さら肉食にはなれないのかもしれない。とりあえず、人や動物が襲われないだけよしとしよう。

『では、さらばだ』

 元妖怪の蜘蛛はそう言い残すと、草原をしゃかしゃかと這っていった。

「ばいばーい」

『うん、まぁ、元気で』

 釈然としない思いを抱えて、俺は前足を振る。

 これで一件落着、ではない。

『···俺はどうやって戻るんだよ!!』

 蹄つきの前足を見て、今の自分の状態を思い出す。

 そう。今も俺は合成獣の姿のままである。

 バセットは答えを知っていそうな相手に詰め寄る。

 月夜は少し考える素振りを見せてから、

「確か、三回回った後、空中で一回転すれば良かったような」

『よしっ!』

「まぁ、それは単にあたしが今思い付いただけなんだけどね」

『おいっ!』

 今回の物語は三人称でお送りする予定だったのですが、予想よりバセットの脳内ツッコミが多かったので、急遽一人称に直しました。

 直し忘れがあったらすみません。

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