人は見かけによらない
道中大きな事件もないまま、俺たち四人は街まであともう少しというところまでやってきた。
が、
「日ぃ、暮れちゃうね」
月夜が言う。
草原はすでに赤く染まりだしている。はっきりした時間はわからないが、暗くなるのにそう時間はかからないだろう。
「どうしよ?このまま街まで歩こうか」
「うーん」
俺一人なら本気で走ればすぐに着きそうだ。おまけに今は夜目が利く体質でもある。
しかし、今は月夜やデスリップがいる。灯りのない草原を歩き続けて、もしはぐれでもしたら大変なことになる。
「今日はここで野宿の方が良いでしょう」
イェレッシュが言った。デスリップも頷いて同意を示す。
「じゃあ、薪と食べ物集めて来ないとね」
月夜がそう言うと、
「いや、もう暗くて危ないから、僕とバセットさんとで行ってきますよ」
と、イェレッシュが言うが、
「いやいや、あんたたちが行っちゃうと、あたしとデスリップさんここで二人だけになっちゃうでしょ?
獣とか出てきたら危ないし、イェレッシュさんはデスリップさんとここに残りなよ。バセットとあたしで行くから」
いやいやいや、獣出ても平気だろ、お前の場合。と、俺はこっそり思ったが、デスリップのことは心配だったので何も言わなかった。
「うん、まあ、そうですね」
なんか曖昧ではあるが、イェレッシュが頷いたので、月夜は俺の腕をとった。
「この辺りは、野生の豚が出るそうなんで気をつけてください」
「わかったー」
月夜はひらひらと二人に手を振る。
「頼むわね。ボディーガード君」
「·······」
だから、お前一人でも大丈夫だろ。
「バセット、これは?」
「その草は食えるけど、そっちの実は採るなよ。毒があるから」
辺りに生えてるものを指して聞いてくる月夜に、俺も辺りを探りながら応える。
「ってか、旅してるなら食えるもんくらい覚えとけよ」
「あたし、毒食っても死なないもん」
「また、そういうことを。大体、そのサキュバスっていう設定、意味あるのか?」
「意味も何も事実だし」
「だってサキュバスって、もっと色っぽい···いや、なんでもない」
笑顔のまま無言で近づいてくる月夜が怖かったので、黙る。
月夜は人差し指をぴっと立てて、
「人は見かけ通りとは限らないわよ」
「そういう話でもないような···」
言いかけて、俺は立ち止まる。
狂暴そうな野豚が、向こうからこちらに突進してくるのが見えた。
普通ならパニックになっても良いところだが、
「うおっと」
俺は咄嗟にその突進を両腕で受け止めていた。
合成獣の動体視力のせいか、今の俺には野豚の突進も余裕で見きれる。
それに、力も今は俺の方が強いのか、野豚にいくらぐいぐい押されてもなんともない。
月夜は弾んだ声で、
「ちょうど良かったね。肉も手に入ったよ!」
「え?食うの?」
良いけどさ。別に。
俺はとりあえず野豚を地面に投げ飛ばした。