身だしなみ
「いやー、助けていただきありがとうございます」
あの後すぐに俺が岸に引き上げた男性は、頭を下げる。
金に近い茶色い髪に、青い瞳。すっと伸びた鼻筋に大きな目。年齢は俺より少し上だろうか。村じゃお目にかかれなかったような美形だ。
「まぁ、バセットが近づかなきゃ落ちなかったし」
「はいはい。そうですね」
月夜の謙遜(?)に俺はやさぐれる。
男は服を着替え、連れの女性と共に月夜が起こした焚き火を囲んでいる。
「私はイェレッシュ、こっちが」
「デスリップ、です」
女性が初めて声を発した。白い肌をした清楚な雰囲気の美女で、正直俺の好みである。イェレッシュと並ぶとまさに美男美女で、少し羨ましい。
「あたしは月夜
そこのでかいのはバセット」
「でかいの、って···」
ぞんざいな説明だな。おい。
イェレッシュが俺を示して、
「何故彼は川に浸かったままなんですか?」
「この人着るものがなくて」
「裸で暮らしてるみたいに言うな。って、そういえば俺の服はどこに····」
言いかけて、気づいた。
さっきからぱちぱちと焚き火の中で燃えているのは―。
「燃やすなぁ!!」
大分濡れていたはずなのに、何故かみるみる灰と化していく自分の服に、思わず川から飛び出しそうになってなんとか踏み止まる。さすがに下着姿で女性の前に出るのは気が引ける。
「ちょっと待て!!ほんとに何してくれてんだ!!一生川に住めってか!?」
「裸で暮らせば万事解決」
「するか!!」
「あのー、私の持っている服でよければ···」
俺と月夜の言い合いに、イェレッシュがおずおずと割り込んでくる。
「良いんですか?」
「はい。私、行商をやっておりまして。衣類も余分にあります。助けていただいたお礼に、是非」
「それは···」
彼が川に落ちた原因は俺なので、申し訳なさを感じたが、このまま水棲生物になるわけにもいかない。
「お願いします」
服をもらえたのはありがたい。
が、
「ぱっつぱつねぇ」
着替えた俺を見て月夜が感想を漏らす。
イェレッシュがくれたのはシンプルな白いシャツと黒いズボン。
だが、一番大きいサイズでも胸元が苦しいので三つほどボタンを外している。胸筋を露出してるみたいになったが、仕方ない。
「童顔なのに、体はムキムキなのよねぇ」
「顔関係ねぇだろ」
「まぁ、セクシーってことで良いじゃない」
「やかましい」
「お似合いですよ」
イェレッシュが気を遣ってくれる。
久しぶりに身だしなみを整えたが、えらくさっぱりした気分である。本当は背中まで伸びてしまった髪もばっさり切ってしまいたいが、残念ながらハサミまではイェレッシュも持っていなかった。合成獣になって体質が変わったのか、髭が全く伸びなくなったのが幸いなような、ちょっと寂しいような気がする。まぁ、元々そんなに伸びる体質じゃなかったけど。
「髪、なんとかして切れねぇかな」
ぽつりと漏らすと、
「あたしが切ってあげるよ!ただ、首まで一緒にやっちゃうかもしれないけど、気にしないでね!」
そう言いながらナイフ持って追いかけてきた月夜からは全力で逃げた。