そして彼はここにいる
一時間後、変身した時と同じで念じれば戻れることに漸く気がついた。
「も、戻った···」
「長かったわねー」
「お前が横から余計なこと言うからだろ」
俺はもうくたびれきって、地面に寝そべる。
色々ありすぎてて、今はもう何もかも忘れて眠ってしまいたい。
とりあえず、問題は全部片付いたし···。
「って、忘れてた!!」
俺は眠気を振り払ってガバッと身を起こした。
「どしたの?」
いつのまにかぴたっと俺の横にくっついて座っている月夜が聞いてくる。
「どしたの?じゃねぇよ!!イェレッシュだ。イェレッシュ!!あいつ、逃げっぱなしじゃねぇか」
変身した俺の姿に驚いてどっかに逃げちまったけど、よく考えたらあいつも立派な犯罪者だ。ある意味蜘蛛以上に野放しにして良いわけがない。
しかし、月夜はのほほんと、
「あー、あいつね
まぁ、だいじょぶなんじゃないの?」
「んな、呑気な···」
「だいじょうぶ。お姉ちゃんに任せなさい」
誰がお姉ちゃんだ。どう見てもお嬢ちゃんだろ。
と、思ってると、月夜がずいっと距離を詰めてきて、
「つべこべ言わずに、寝ろや」
どすっ
腹にボディブローを喰らい、俺は地面に伏した。小柄な身体のどこにそんな力があるんだ?
「でもまぁ、頑張った。頑張った。あんた、なかなかやるじゃないの」
やかましい。余計なお世話だ。
俺は全然安らかじゃない眠りに落ちていった。
疲れきって、悪夢も見ないくらいに。
目が覚めて、次の日。
俺と月夜は漸く街に入れた。
帝都とかに比べたら小さいのだろうが、俺の住んでいた村よりはずっと大きい。
けど、前の街のようにじろじろ見られない。多分、俺の格好が前ほどボロボロじゃないからだろう。それだけはイェレッシュに感謝だな。
俺は手近にいたパン屋の親父に声をかける。
「すみません。ちょっと聞きたいんですけど」
月夜をつまみ上げて、
「こいつの家を知りませんか?」
「は」
と声を上げたのはパン屋じゃなくて月夜だ。
「なんでいつもペンダントじゃなくて、あたしの家の方を聞くのよ?」
「当たり前だろ」
月夜は一瞬驚いた顔をしてから、すぐにくしゃりっと笑った。
「あんたって、馬鹿ねぇ
いや、馬鹿なくらいに人が良いのかしら」
「········」
俺は憮然とする。
色々と言いたいことはあるし腹は立つのだが、こうやって笑う月夜の顔は、悔しいくらいに愛らしく見える。
余談だが、変な噂を耳にした。
俺たちが町に着く前に、とある男が蔦でぐるぐる巻きにされた状態で町の隅に転がっていたらしい。
全身ボロボロのその男は即座に逮捕された。
ご丁寧に顔面にそいつの手配書が貼り付けられていたのだ。
その男が町に入る様子を目撃した奴は皆こう言ったらしい。
その姿は、何か、見えないものに投げ込まれたようだった、と。




