丸間友花.A
大学の講義にも出ず、俺と友花はアパートの部屋で朝から晩まで性を貪り尽くしている。俺も友花も四六時中裸で、だいたいにおいて互いの体に絡まっている。互いの体のもっとも気持ちのいい部分を触り合っている。友花の中に入る。友花は甘ったるい呻き声を漏らし、俺を強く抱き返し、ときが来るとは小さく痙攣してすべてを搾り取ろうとする。
驚愕だった。俺と友花の関係は高校進学後も続き、さらには申し合わせて勉強に励み、同じ鳥山大学にすら合格できた。俺と友花は付き合ってこそいなかったが、親友ということで、何をするにもいっしょで片時も離れられないような間柄になっていた。大切な相手だったのだ。慈しみ合うというようなことはなかったが、相方がいないと落ち着かないのなんのって。いっしょにいれば延々とつまらない話をして笑っていられた。驚愕だと言うのは、そんな俺と友花は体の相性も抜群だった。抜群どころの騒ぎではなかった。抜群という言葉以上の超越さを表す単語を知らないのでもう抜群と言うしかないのだが、とにかく最高だった。入れた瞬間に爆発した。友花も初めてだったにも関わらず脳を沸騰させていた。溶けた脳味噌が穴という穴から出てくるんじゃないかと本気で思ったくらいだった。
高校まではそんな関係じゃなかった。大学に進学したところで、別に俺達は変わらないと思っていた。少なくとも俺はそう思っていた。友花はメチャクチャ気の合う親友で、いっしょにいると楽しすぎるし、ずっと傍でなんか喋っていてほしいとだけ思っていた。酒を飲んでしまった。まだ十八なのだが、アルコールをゲットして俺の部屋で飲んだ。別にそこまで酔っ払ったわけじゃない。でも、アルコールを摂取したという高揚感が漠然と俺達を狂わせた。ちょっとやってみようかということで試してみたら、もうダメだった。とてつもなくよかった。いや、実は俺は高校時代に同級生三人と経験したことがあったんだけど、全然違った。まったく種類の異なる別物の行為をしてるのかな?と錯覚するぐらい雲泥の差があった。友花の中は俺のためだけに形作られているんじゃないかというぐらい俺の形と合致していた。締めつけもキツすぎず物足りなさすぎずの絶妙な加減をついてきており、非の打ちどころがなかった。おまけに友花自体がエロい。昔から、こいつもしかしたらムッツリなのか?と思うことがあったけど、その通りだった。口や手の使い方が上手い。上手いというか、やはり俺好みだと言った方が的確かもしれない。とにかく俺を喜ばせることに特化している。
友花の方も俺に大満足しているご様子だった。初めてで痛くもあっただろうに、連続で俺を求めてきた。友花が思いがけずよすぎて秒殺されてしまっていた俺はめくるめく間に精を吐き出さされてグロッキーだったが、友花はいつまでも疼きが治まらないようで、けっきょく仕方なく俺が手や口で処理してやった。友花は俺の拙い愛撫でも異様なほどに喘ぎ、実際的に達し、なんだかテクニシャンにでもなった気分だった。でもわかっている。俺と友花の相性が最大級に良好なだけなのだ。俺はテクニシャンになったわけではなく、俺のこれは友花にしか効かない。俺の指や舌が友花にフィットするように作られているに過ぎない。
けれど、そんなことはどうでもよかった。友花としかしないんだから、俺の技が他の女子に通用するかなんて考える必要がない。友花だけでいい。友花さえ満足させられればそれでいい。
六月のある朝、目を覚ますと友花がもう馬乗りになっている。というより、友花に乗られて目が覚めたんだろう。ぐっすり眠っていたにも関わらず俺は硬くなっており、既に友花に収容されてしまっている。友花が腰を揺する。それだけで脳細胞が少し死ぬ。
快感に俺が呻くと、友花が「おはよ」と皮肉っぽい笑みで言う。
「おはよ」と俺も言う。
「いま入れたばっかり?」
「いま入れたとこやよ」
友花の声は艶かしい。この生活が始まってから、友花はずっとこうだ。友花の声を聞くだけで俺は下半身に力を感じてしまう。
「動いていい?」
「いいよ」
友花がゆっくりと、溢れ出ているぬらつきも利用しつつ腰を動かし始める。上手いかどうかを判断するにはサンプルが足りないが、ともあれ友花の腰使いは滑らかだ。陸上部だったから走り高跳びのバーを飛び越す動作っていうのを間近で見たことがあるんだけど、あの一瞬のしなやかさを凌駕するほどに、友花の腰は波のようにくねる。芸術的でさえあり、この腰の動きだけでビデオが作れそうなくらいだ。もちろん視覚的な官能さだけでなく、俺に与えてくる刺激も格別だ。友花自体は穏やかな波だけれど、その内部では大変なことが起きている。俺は圧迫され擦り上げられ引っ張られ、早く中身をぶちまけろと急かされる。この刺激に最初は苦労したものだった。なんせ、友花がちょっと腰を引いただけで俺はぴゅっと出てしまうんだから堪ったもんじゃない。気持ちいいのはすばらしいことだが、俺がこんなにスピードキングだったら友花が欲求不満に陥ってしまう。俺としても、こんなに速いのは本望じゃない。できるだけ長い間、友花を楽しんでいたい。若さに任せた回復力だけでは限界がある。だって俺達は一日中やっていたいんだから。なので俺はひたすら鍛えた。鍛えたといっても、ただ回数を重ねただけなのだが、それでも効果はあったらしく、今では適度な時間の我慢なら利くようになった。我慢である。我慢しているだけなので、気を抜くとすぐに暴発してしまう。
「拓郎」と友花が声をかけてくる。
「気持ちいいね」
「エロ」と俺は言う。
「拓郎もやん。カッチカチやよ。ちょっと痛いくらいなんやけど」
「痛いん?」
「嘘や。痛くないい。もう私ん中は拓郎の形やから、全然痛くないよ」
「…………」本気でエロすぎて俺は目眩がしてくる。
気持ちに任せて友花の腰を掴み、突き上げるように一発動かすと、力の抜けた友花が崩れ落ちてくる。俺の顔のすぐ傍に友花の顔が来る。
「気持ちいい」と言われる。
「そればっかりやな」と返す。
「それしかないもん」と友花。
「気持ちいいしかない」
気持ちいいしかない。それ以外には何もないのに、俺と友花は大学に行かず、延々と励んでいるのだ。取り憑かれたように。同じ快楽の繰り返し。しかし飽きが来ない。今ある快楽を食べ尽くしたら、すぐまた次を用意しようとしてしまう。やめられない。抜け出せない。そうだ、まさに抜け出せない。俺は友花に入ってばかりでなかなか抜け出せない。一日の内、外に出ている時間の方が短いんじゃないだろうか。なんなら食事中も入っていたりする。友花も、俺が入っていないと隙間があるような気がして落ち着かないと言っている。
「永遠に気持ちよくしてやるわ」
俺は腰を上下させる。上へやるたびに友花の体が少し跳ねる。
「してや」と友花が甘えた声を出す。
「ほれ、ほれ、ほれ」
友花が鼻から抜けるみたいな声を漏らし、それから言う。
「拓郎、好き。好き。好き」
「なんや? 俺のこと好きなん?お前」
初めて聞いた。ちょっとあまりにも意外で俺の腰の動きが止まる。好きって言い合ったり確認したことって今までにない。まあ付き合ってるわけじゃないので当たり前なのだが。
友花が鼻白んだふうに目を細める。
「好きじゃないわ」
「はは。なんじゃいや」
「盛り上げるために言っただけやん。はよ腰動かしてや」
「なるほどなあ」
はいはい。
「……でも、拓郎とするのは好きやよ」
「それは俺も好きや」
「大好き」
「ほやね。大好きやね」
「一生しとりたい。ねえ拓郎。一生して」
「一生してやるわ」
って言うけど、現実的な話、このままでは一生し続けるのは不可能だ。俺も友花も大学生で、講義はおろかバイトも休んでいるため収入もない。食材を買って繋がって食材を買って繋がってしていてはやがて所持金を失うだろう。親からの仕送りもあるけど……でも、その前に大学の方はどうなる? 自主休講しすぎている。おそらく、既に確定的に落ちてしまっている単位があるはず。そうなると留年? いや、そう簡単には留年になんてならない。けど、この生活を夏休みまで続けてしまうと、そうなりかねない。そんなことを考えながらも俺の意識は先端に集中しており、硬度を維持しているのはもちろんのこと、暴発する気配もない。
「拓郎、拓郎」
と友花が呼ぶような喘ぐような。
たぶん喘いでいるんだと判断し、俺は改めて「友花」と呼ぶ。
「大学どうするう?」
「拓郎行ってきてや」と言われる。
「行って、私の分もやってきてや。出席とか」
「そりゃできる講義もあるけど、無理な講義もあるやろ」
「ほしたら拓郎だけ行ってきて、卒業してや。ほんで私のこと養ってや」
「はあ? なんで俺がお前を養わないかんのやって」
「ほしたら私と毎日できるよ」
「ああ……そうか」
俺は友花と結婚しなくちゃいけないのか。まあでも、そうなるよな。そうしないと好きなときに友花に入ることができなくなる。別に愛し合っていなくても、親友同士で結婚しても問題ないよな。お互い、好きな人がいるわけでもないんだし。それに周りから見れば俺と友花は付き合っているように映るだろう。だったら結婚したとしても変な目で見られたりしないだろう。いや、違う。そういう話じゃない。
「でもお前、俺が大学行ったら、誰とするん? この部屋で一人やぞ?お前」
「拓郎としかせんよ、私」
「ほしたら俺が大学行っとる間、できんくなるな、お前」
「それは困るわ」
友花は絶望的に言う。
「ほしたらどうする?」
「ほしたらとりあえず大学休もっさ。ほしたらずっとできるやろう?」
「できるけど、大学卒業せんだらお前のこと養えんぞ」
「それは養ってほしいけど……」
「……お前は働かんのか?」
「私が働けるわけないやろ。だいたい私、拓郎とこうしとらんと寂しくて生きてけんわ。拓郎が入っとらんと、なんか体痒くなるし」
「え、それなんかやばくねえ?」
「や、大丈夫や。こうして拓郎おってくれるし。……はあ、気持ちい。拓郎、もっと動かしてや」
「動かしとるよ」
俺は腰を軽く突き出す。
「でも、ほしたら俺が大学行ったら体痒くなってくるってことやん? やばいやん」
「やから大丈夫やって。大学卒業までまだ四年あるんやし、とりあえず休んどこ? 少し休んでも四年間あるんやし平気やろ」
「いや……」
何をしていても必ず四年で卒業できるんなら問題ないが、そうじゃない。一年間なにもしなければ、そのあとちゃんと四年間勉強しなきゃダメに決まっている。というか、無断で一年間休んだら下手したら退学だ。その前に親のところへ連絡が行くんだろうけど、それもそれでまずい。俺達が大学へも行かず違うことに打ち込んでいるのが……俺自身を友花に打ち込んでいることが明るみになってしまう。
「お前、大学の仕組みわかっとるか?」
「だいたいわかるわ」
と言うが、友花の目は今ハートで、とてもじゃないが知性に期待ができない。たぶんIQは一桁だろう。
「そんなんどうでもいいさけ、もっと気持ちよくしてや」
でもこの現状、早めに打破しておかないと取り返しのつかない窮地に追い込まれそうじゃないか? 起きがけから友花に包まれて腰を振っている俺が言うのもなんだけど。
どちらかというと友花の方がまずそうだ。友花は大学へ行く意思すらない。そして、獰猛なまでに俺を欲している。加減を知らない。まるで覚えたての男子中学生が毎晩ティッシュを無駄にするように。
「あー、ダメや」と友花が息を吐く。
「一回いってい? ダメや。無理」
上半身を起こすと怒濤の腰振りを始め、俺の鍛えた我慢力を軽々と突破してくる。
俺の方も一瞬で決壊する。
「あ、友花……俺も出るって。出てまう」
「いいよ、出しねや」
「いや、ダメやって」と言っている間に友花は到達してしまい、腰を病的なまでにひくつかせて仰け反る。
その二次災害で俺も搾り出されてしまう。いつもは友花から抜いて出すようにしていたのに、友花がいきなり動いて、しかも馬乗りになっているもんだからどうしようもできなかった。やばいやばいやばい、中、と思いながらも、もうどうせ出してしまったんだから同じだ、と俺は友花の奥に擦りつけて最後の一滴までを堪能させてもらう。友花はさらに甘美な声を上げて全身で俺を揺すり、力尽きる。
「あはっ、はあ、はあ……」
友花は呼吸を乱しながらも笑っている。
「気持ちい。死にそうや。今なら死んでもいいわ」
俺も青息吐息。
「中に出てもうたんやけど……」
「大丈夫や」と友花はあっさりしている。
「なんもならん」
「安全日……?」
「いや、知らん」
「知らんて……」
「大丈夫やって。大学入ってから生理来とらんし。生理来とらんてことはなんにもならんてことやろ?」
「俺にはわからんけど」
いろんなケースがあるだろうから一概には言えないんじゃないだろうか。でも、一気に眠気がやって来て、そんな些事、どうでもよくなる。友花がキスしてくるのを返していると、だんだんまぶたが落ちてくる。意識が薄らぎ、下半身に余韻の電流だけが残る。それだけが浮き彫りになる。正直、今の一発はメチャクチャ気持ちがよかった。友花が大丈夫だと言うんなら、次からは抜かずに最後までやるようにしよう。大学……。大学は次に目覚めたときにでも、どうするか考えよう。