OP 第9話 【バケモノ】
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校舎からここまで距離があるはず……だが、はっきりとした地鳴りがこちらにまで伝わってきた。
『警報! 警報! 学院本館にて事故が発生! 安全確認のため、敷地内にいる生徒に強制転送を行います。場所は中央広場、放送終了から二十秒後より────』
朝の放送とは打って変わって切羽詰まった音声案内に、胸騒ぎを覚える。……まさか、本当に『彼』じゃないよね?
放送が終わってきっかり二十秒後、足元が青く光を放つ。学院側が発した強制転送用の魔方陣だ。普段魔法に直接触れる機会が少ないので、こういう働きかけには毎度戸惑ってしまう。実際は自分が何もしなくても、ただ立っているだけで転送が完了されるんだけど……。もちろん、今回もそうだった。
中央広場は、学院の中心にある広い公園のような場所。上品そうなベンチや机、花を咲かせた低木なんかがあって景観がいい。休むには持ってこいだ。さらに学院の中心ということもあり、『学院本館』『学生寮北棟・東棟』『王立図書館』など、学院の大体の施設に直接アクセスできることから利便性も高い。今回、ここが召集場所にされた理由もそういうことだ。
続々と召集されてくる生徒たち。学年、クラス順に並ぶよう指示され不安そうな顔をしながら整列を行う。みなを覆うよう、シールド魔法をかけるのだ。他クラスが続々とそろう中、私の所属クラスは……二人ほど欠けていた。一人は予想がつくが……もう一人は?
それに、事故が起きたという本館を見てもそれらしい形跡が見当たらない。が、館内からかすかに、物を壊す音が聞こえてくる。もうひとつ、ボソボソ聞こえてくるこれは……言い争い?
そう思うもつかの間、本館から何かが飛び出してきた。
同時に凄まじい衝突音が聞こえてくる。
「────────────ッ!」
少し遅れて巻き上がる砂埃。騒然とする現場。
音がしたその先。叩きつけられてバラバラと崩れる壁には、何やら人影がもたれかかっていた。
「……え?」
そこにいたのは、同じクラスの生徒。
……ではなく、ジオだった。
ちょっと待って。爆発事故を起こしたのは彼ではなかったのか? あれほど異常な状態を見せておいて……なぜ、彼がやられているのか……? それに、先ほどとは違って『目が黒くない』。
と、今度は本館の割れた窓から、片足を引きずってヨロヨロ歩く人影が現れた。
「クソっ……なんて奴だ……」
ビスだ。ジオの友人。いつも彼のそばにいた獣人だ。
彼は肩で息をしながら、壁で項垂れるジオにゆっくりと近寄る。
「……」
「ビス。お前……何を?」
ビスは少し離れた場所で足を止め、立ち尽くしたままじっとジオを見つめている。ジオも壁に寄りかかりながらゆっくりと立ち上がり、彼を見つめた。……見つめるといっても、そこに友好的な雰囲気は感じられないけれど。
互いに睨み合ったまま。まるで時間が時間が止まったみたいだ。周囲の人たちも何をするでもなく、ただ彼らを見ている。
「──なぁ、みんな! 頼む、聞いてくれ!!」
私たちの方に振り向いた獣人、その表情。その泣き出しそうな顔からは、悔しさと悲しさ滲んでいる。
「こいつ、ジ、ジオは…………このネルセンスの城下町を、丸ごと破壊するつもりなんだよ!!」
「!?」
静まり返る現場。
ジオがこの城下町を破壊しようとしている? 意図が理解できない。あまりに突拍子もない話だが……それを否定する証拠がないのも事実だ……。
「おい、お前……一体何言ってんだ……? どこの噂話だ、それ……」
「噂話? ……何言ってんだ、ジオが自ら俺に話したことじゃねぇか!!」
「っ、はぁ!??」
静かさを突き破るように繰り広げられる口論。話に齟齬が起きているようだ。
ビスは再度こちらを振り向き、荒らげた口調である人物に呼びかけた。
「なぁ、オレたち聞いたよな? エルノゥ!!」
「……!」
ビスが呼びかけた先に向かって一斉に視線が動く。そこにはタレ目に薄紅色の瞳、マホガニー色の長髪を靡かせるエルフの少女がいた。そういえばあのテストの時、ビスたちの傍にいた気がする……。
「えと……エ、エルは……」
急に視線を感じたからか、顔を真っ赤にしてうつむいている。かなりうろたえている様子だ。その様子にちょっと同情してしまう。
「エル! 俺ら聞いたろ!? 聞いたよな?」
「え、えと………っ」
「…………」
表情を強張らせ、声を震わせるビス。その右手は強く握られている。
……沈黙の中向けられる眼差しに耐えられなくなったのか、ついに彼女が口を開いた。
「聞いた……聞いたよ! ジオくんがそう、話してるのっ!」
広場中に響き渡る声。再び視線がジオに移る。
「っ……」
彼は過呼吸のような声をあげたかと思うと、目を見開きいたまま固まってしまった。
反論するでもなく、その虚ろな瞳を揺らしている。
「エル聞きました……! ビスくんと一緒に……ほんとうですっ!!」
「な? 悪いがそういうことだ、とぼけるのも大概にしとけ」
ざわつく生徒達。方針を固めるためか、教員たちも話し合いを始めた。
今。暴走してしまったジオをビスが制止している状況なのだろうが……何だろう、どうも引っかかる。ビスのあの態度。友人を必死に止めようとしているというより、相手の罪を暴いてやろうと言わんばかりの態度ではないか? さっきまで涙目で話していたヤツが、『とぼけるのも大概にしとけ』~なんて言葉を使うとは思えない。
……それに、気になる点がもう一つ。実は先ほどからエルノゥとその友人たちの会話が聞こえてきているのだけど……。それもちょっと、おかしい。
『……え、ヤバ! いつのまにビス君と仲良くなったの!?』
『えっと……け、”今朝”だよ! 待っててもラーナ達来ないから、寮から学院付近まで三人で一緒に登校したの……』
『え~~抜け駆け!? 羨まし~……』
……いや、絶対におかしい。
今朝、彼らと一緒にいたのは私なのだから。
エレベーターに相乗りしたことをきっかけに、学院近くどころか教室の近くまで同行していた。確かにジオとビスはいたが、あの場に彼女はいなかったはずだ。「実は昨日だった」なんて嘘をつこうにも……いや、まずそこで嘘をつく意味が分からない。
「どういうこと……?」
明らかに何か、ずれている。傍から見れば彼の方が正しく見えるのだろうが……。
と、ビスはジオの方に向き直ったかと思うと……壁によりかかる彼に迫っていく。群衆の会話に紛れて、微かに会話らしいものが聞こえてきた。