OP 第8話 【力の制御ひとつできない愚か者】
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「う゛ぐっ……!!!」
突然、身体が押さえつけられたような感覚を覚える。其れもひとりじゃない。『二人』だ。状況が理解できないまま、必死に声の先を見た。
上空から降りてきたうち一人は私の手を魔法で縛り上げ、もう一人は素早く身体を押さえつけている。完全に私を拘束している状態だ。
……どれだけ力を入れても身動きひとつ取れない。一体何が……起きている?
緊急事態に陥っているものの、なぜか頭は冷静で、意識もはっきりとしていた。
「っ……」
押さえつけられた頭を無理やり上げ、ローブの男を睨みつける。主導者はきっとこいつだ。もっと警戒しておくべきだった……!
「……は!? ちょ、ガブ! ……はともかくラファまで?! おっ、おやめなさい!! 停止、停止ーーーっ!!!」
……え?
予想に反して……いや、予想は的中しているのだが、彼らをけしかけた本人であろう男は異常に慌てている様子だ。大声で必死に止めようとしている。
それに気付いた一人が素っ頓狂な声をあげた。
「オリィ様!?」
「彼女はターゲットでもなければ、僕に危害を加えていたわけでもありません! 直ちに拘束を解きなさいっ!!」
「わあ、も、申し訳ございません……」
「……え? え?」
……。
「ラファ! ガブ! 直ちに戻りなさい!」
彼がそう叱責すると、ラファ、ガブと呼ばれた二人はさっと身を引いて、ローブの男の左右に陣取った。そこで初めて二人の容姿が見えた……と思ったが、やはりローブを羽織っていて中が見えない。
「大変失礼いたしました。お怪我はありませんか?」
「あ、えっと。全然平気ですよ! どうかその……気にしないで」
……と、同時に彼に対する不信感が急激に増した。初対面の相手に対して、あんな乱暴な拘束を行ってくる人物。当然印象は良くない。人を従わせている様子からも、何らかの組織の者なのだろうか。
「ええとですね……この二人は使い魔みたいなものでして。まれに誤作動を起こしてしまうんですよ。ガブは元々誤作動が酷かったですが、まさかラファまでとは……何かあったのですか?」
声のトーンを落としたまま、二人を詰問する彼。ラファと呼ばれた人はすくっと立ったままだが、ガブと呼ばれた人は、ローブ越しからも分かるほど項垂れていた。しばしの沈黙の後、ラファの方が口を開いた。
「いえ、その……何と申し上げたらいいか」
「なんとなく……なんですよね」
「……」
彼らの返答に沈黙してしまった。それはそう、まるで答えになっていないのだから。
しかし彼はしばらく黙った後、肩を竦ませてから、仕方ないかといわんばかりの言葉を返した。
「……まあ、誤作動ですから。そうでしょうね」
「ハイ……申し訳ありません」
先ほどまで怒っていた様子とは打って変わって、えらく大人びた返答に少し驚いてしまう。どこか人間味がないというか。
と、ローブの男は再びこちらに向き直ったかと思うと、まっすぐこちらを見つめてきた。
「……それで……いえ、こんな事故の後に本当に申し訳ないのですが、これだけ聞かせてくれませんか」
それが僕らの使命なので、と言う。
「『魔力を制御できていなさそうな、黒白目をした人物』を知りませんか?」
「!」
……知っている。
黒白目。白目の部分が黒くなっている目のことだ。とても理性が残っているようには見えない、濁った瞳。
今でも、恐怖と共に目に焼き付いているその状態。その人物に心当たりしかなかった。
「おや……何か知っていそうですね」
「い、いや……」
本来なら、「はい知っています」と正直に答える所だろう。このよくわからない組織のお兄さんに彼の居場所を教えて、手渡してしまえばいい。それで全て解決だ。
……だけど。
「……ちょっと知らない、ですね」
「おや、本当に?」
「いや~、知らないです! ホントに」
……ジオについて。もう一つだけ引っかかる点があった。
彼はなぜ“友人グループを避けて”まで、素性も分からない私に現状を訴えてきたのか?
テスト終わりの彼は、待っていた仲間たちを無視して私に接触を試みてきた。
困り事があるなら普通、気の置ける仲間なんかに相談するものではないのか? 間違っても、大して親しくもない相手に頼ることはないはずだ。仮に仲間に心配されたくなかったという理由なら普段通り気さくに話をするはずで、無視を決め込む理由もない。
何か……仲間に隠さねばならないことがあったのだろうか。
だから、彼の異変を目の当たりにした私にだけ“助けを求めてきた”のかもしれない。
多分、彼は“助けを求めている”。
彼のした行動全てに意図があるとしたら。
攻撃性のない時限式魔法、その一件でそうだと確信した。
多分、本人も意図していなかったような何かが起きている。
それを知ったうえで、彼を助けるかどうかは別だ。そもそも私に助けられるのかどうか、何をどう助ければいいのか分からない。
……しかし、この『ローブの男』に受け渡すのも違う気がした。
あれほど乱暴に拘束してくる集団だ。どんな目に合わされるか分かったものではない。
この話はいったん保留する。全ては彼に……ジオに、話を聞いてからだ。……態度によっては容赦なく突き出すつもりだけど!
「そうですか」
上手くごまかせた……のだろうか? ローブの男とその取り巻きは一歩後ろに下がったかと思うと、左手を腹部に当て、深々とお辞儀をしてきた。……それも、三人全く同じタイミングで。統一がとれているというより、不気味さが勝った。まるでプログラムされたロボットみたい……。
「お時間をいただきありがとうございました。お嬢さんもどうか、お気をつけて」
「え、ええ。こちらこそ。魔法を解除してくださり、ありがとうございました」
「また、お会いしましょう」
彼はそう言うと、取り巻きを連れて私の横を通り過ぎていく。
……その前に、どうしても聞きたいことがあった。
「……あの! ちょっと待って」
「……はい?」
「その……あなたの探している『魔力を制御できていなさそうな、黒白目をした人物』って、何なんですか?」
「ふむ。そうですね……」
「自分の力ひとつ制御できないような、愚か者ですよ」
彼はそう鼻で笑い、足早にこの場を去っていった。
その場所には、白い羽根が一枚落ちていた。
***
……。
ローブの男の後ろ姿が見えなくなってすぐだった。
校舎からの方角から、地鳴りと共にすさまじい爆発音が聞こえてきたのは。