OP 第5話 【魔法なんてなくても十分戦えるから】
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「──いた!」
気配の感じたその瞬間、長剣を素早く横に振った。
「そこだっ!!」
『ッ!!』
一瞬、剣を握る左腕が重くなって──スッと軽くなった。肉を斬ったときのあの、鈍い感触だ。
それにひるむこともなく、その場から走り去った。今回のテストでは一分一秒の遅れが命取り。何をどう斬ったかなんていちいち確認できない。
……剣先をちらっと見た。剣に付着した血痕が、風を受けて尾を引いている。……あのずるっとした感触と、完全に刃が振り切れた感覚。胴体か足かを斬ったのだろう。道が狭かったことも幸いした。
獣類やゴブリンなどのモンスターは足さえ切断してしまえば無力化できる。つまり討伐判定だ。彼らに切断された足をくっつけられるほどの魔力はないからだ。
トドメを刺さないのは可哀想だけど、ただのお人よしにはなりたくない。
これが私の戦い方。エルフの元々の特性を深化させた俊足と、剣を瞬時に振るえるよう鍛えた怪力、そして剣術を組み合わせることで、魔法にはできないトリッキーな戦い方ができる。
お陰で、落とし穴などの罠は何事もなく突破することができた。活かせる場面は少ないものの、物理攻撃ができる点もメリットだろう。
魔法が主流となった今の時代、剣術は今や廃れた技術となっている。せいぜい、物好きな貴族が遊びで習うくらいだ。
「あれ……ここにいるモンスター……そんなに強くなくない?」
最初のモンスターをチェックすることで、大体だが付近に生息するモンスター全体の強さを測ることができる。
今回の場合、剣たった一振りだけで脚を切断できた。これまでのテストとは打って変わって、かなり弱めのモンスターが配置されている。身構えていただけのことはあり、拍子抜けだ。
「ってことは……討伐よりも速さを上げることに力を入れなきゃ」
恐らく、このことに気付いた生徒から行動が変わってくる。私と同じく速さを優先していた生徒たちはともかく、討伐を優先しようと考えていた生徒達も、速さを優先するようになって勢いを上げてくるだろう。自身の実力を把握できているか、こういう部分にも表れてくる。
「急がないと……!」
その後も矢継ぎ早にモンスターが現れるが、遅れを取らないようモンスターを切り倒していく。
やっぱり、斬る時の感覚がすごく軽い。雲を斬るよう……といっても過言ではないくらいだった。私はこれを直接感じ取れるのでいいが、他の生徒のメインウェポンは魔法、遠距離攻撃だ。
モンスターの強さを高く見積もってしまうほど、強力な魔法を使うのでタイムロスに繋がる。剣士と違ってモンスターを直接手にかけるわけじゃないので、オーバーキルしていても気付きにくい。なんてよくできたテストなんだろうか。
他の生徒はどこにいるのだろう。耳を澄ませば他生徒の物音が聞こえるかと思ったが……何も聞こえない。恐らく、現時点では特殊魔法で情報をブロックされている。
どれくらい走っただろうか。時間の感覚がなくなってきた、丁度その頃──さっきの道よりも広く、開けた場所に出た。
「ここ……中間地点だ!!」
感極まるのもほどほどに、周囲の状況と、この奥に繋がる太い一本道を確認する。足元の芝は……踏まれた形跡がない。誰かがいた気配もない。
それはつまり、まだ到達者がいないということを指す。例のニンゲン、ジオの姿も見えない。
「もしかして!?」
このままいけば……本当にトップになれるんじゃないの!?
「……いける!」
このテストの様子は学院の端々で生中継されているらしい。見てる側は参加者全員の状態を把握できるのだ。見ている分には楽しそうだが、当事者はたまったものじゃない。
……とにかく、観られているならなおさら怯むわけにいかない。再び右足を踏み込み、再加速を試みた。
一本道になってからは道幅が二、三倍ほど広くなる。先ほどの剣一振りで倒す当てずっぽう戦法は使えないだろう。討伐はほどほどに……と言いたいところだが、少々心もとない。数的に足りるかどうか……。どうしよう、どこかで寄り道をして……?
……と、背後から微かに。
それでも確実に、草を踏みしめる音がひとつ聞こえてくる。
「っ……もう!?」
正直、予想外だった。魔法使いの過半数は移動速度が遅いと踏んでいた。攻撃の際に詠唱が必要なためだ。どれだけ簡単な詠唱でも、全力疾走しながら唱えることは難しいだろう。詠唱を求められる魔法使いと、詠唱なしで攻撃ができる剣士。どちらが速いかは想像に容易い……はずだった。
「……けど、この距離ならまだ!」
これくらい離れているなら二、三体は討伐できるだろう。それだけ稼げたら安全圏だ。
少し進んでみると、待ち構えていたかのようにモンスターが道を遮ってきた。獣族だ。
「おっ! っと……はぁっ!!」
左手に剣を構える。確実に狙いを定めて、去り際に一撃斬り込んだ。相手は獣族。真正面から、しかも自ら襲いに来てくれるので、とても戦いやすい。
しかし中間地点以降、少しモンスターが強くなっているようで、一撃では仕留めきれなかった。
『グ……』
「……」
膝に剣を食い込ませたままの獣族が、こちらを睨んでくる。早く刃を抜かないと追撃できない。
「うぐ、抜けない……」
──と、鋭い爪が振り上げられるのが見えた。
「ガアア!!!」
「っ────!!」
見開かれたまつ毛の先が、切り裂く爪に触れる。
「……ひっ」
……間一髪だ。眼球を狙った攻撃。もし直撃していたらと思うと……。
「ッ!!──」
このままじゃ剣が抜けない。それなら────。
「この……ッ!!」
『ガ……アグァッ!!!』
剣を食い込ませるよう、腹に回し蹴りを入れた。
獣族の身体を、刺さった剣ごと吹っ飛ばす。獣族が背中から木に叩きつけられると同時に、鈍い音が響いた。
「……」
剣を回収するため近づいてみる。動かない。なんとか仕留めたようだ。が……。
「時間、結構取られちゃったな」
追手の足音が着実に近づいてきている。もう一体討伐しておきたいところだが、この様子では……。
それに、背後から何やら変な気配感じる。……恐らく『彼』だろう。先ほどのトップへの執着具合からも、相当焦っているのではないか。
「急がなきゃ……」
項垂れる獣から目をそらしながら、そっと剣を抜いた。
立ち止まっている暇はない。
***
「ううん、あと少しで出口があるはずなんだけど……」
命がけの障害物競争もいよいよ終盤。私は変わらず先頭をキープしていた。
……しかし、少し奇妙なことも起きていた。
先ほどから彼の足音が聞こえてこない。情報がブロックされたのか、それとも彼がモンスターに苦戦しているのか、罠にハマってリタイアしたか。背後で何が起きたか分からないまま、黙々と走り続けていた。
何はともあれ、あとは駆け抜けるだけだ。討伐数が少ない気もするが、点はなんとか足りるだ──────。
「っ!?」
思わず足を止める。
頭の横、何か掠った。背後から来た、とんでもない速さの『何か』が。
「な、に……?」
手汗が噴き出る。
私の真横を通った『黒い何か』は、わずか数メートル先で轟音を鳴らして、爆発した。
震える身体を抑えて、振り返る。
「……見えない」
見えないといっても、背後に誰もいない訳ではない。
『私の背後が、黒い煙幕で覆われている』。
「これなに、罠? 罠なのかな、いや違う、一体何なの、これ──」
思考を巡らせながら、じっと目を凝らす。誰も見えないのはおろか、何かの足音すら聞こえてこない。罠やモンスターにしてはあまりにも威力が高すぎる。生徒の仕業だとしたら──いや、生徒の妨害は禁止だったはずじゃ?
不安は絶えないが、今はとにかく森の出口を目指すしかない。方向が分からなくなる前に脱出を
「みつけた」
「ッ!!!!」
煙幕の奥から聞こえてくるこの声。間違いない。
「ジ、オ……」
「どうした、走らないのか?」
彼は私の目を見たまま、微動だにしない。
その瞳は黒くて暗くて、これじゃまるで──。
「走 ら な い の か ?」
「あ……」
あまりの恐怖に足がすくんで、胃液が上がってくる。こんな緊急事態に教員たちは何を? ほかの生徒たちはどうなったの? 私は────。
「……や、な、何なの、っほんとに!!」
殺される。
テストでいい点を取るためじゃない。死なないため、助かるため、ひたすら走る。絶対おかしい。あんなの正気じゃない。
幸い、終盤だったので罠の設置はなかった。あったのかもしれないけど、気付けなかった。道中のモンスターも何もかも無視して、とにかく走った。
「っ……また魔法弾が……」
煙幕の奥から容赦なくすっ飛んでくる『魔法弾』。彼が得意としている闇属性のものだ。明らかに私を狙っている。
「コイツ……」
木々を活かしてなんとか避けていくものの、かなり体力を使う。
……と、私が避けた魔法弾が、その先の隠れていたモンスターに直撃していることに気付いた。
「ついでにモンスターも討伐……ってこと?」
いや、違う。
禁止行為であると知っていながらも、彼は堂々と進路妨害してくる。そして、私が避けた魔法弾は全てモンスターに当たっている。そして、私と一定の距離を保ちながら魔法弾を放っている……。
つまり、『モンスターを狙っている風を装って、私に流れ弾を当てようとしている』のだ。
万が一私が被弾しても、「俺はモンスターを狙っていました。事故です」と言い訳ができる。煙幕で視界を悪くしているのもそういうわけで。
「なんてヤツ……」
そこまでして一位が欲しいのか。私に負けるのが悔しいのか。
何はともあれ、ニンゲンとはこうも汚い生き物なのだ。
「……あ」
……しかし、走り続けていれば自ずと出口が見えてくる。前方に一筋の光が差し込んできた。
「出口っ! あった!!」
ああ、やっと終われる。さすがの彼も、人目に触れる場所で攻撃を仕掛けてくることはないだろう。
後ろは振り返らない。絶対に。
光が束になって、こちらを迎えてくれる。この中に入れば助かる!! さあ、早く──!!
「ぎゃっ」
右肩に、激痛が走る。
バランスを崩した私は、その高スピードを保ったまま……顔からのめり込むように転倒した。
「─────!」
痛い。痛い!! 痛い!!!
……けど、追いつかれたらまずい。身体、起こさないと。
でも……私、腕がない? 動かない。右腕、私の────。
「────ソフィアさん!! 大丈夫ですかー?」
……?
この声……確か、最初にいた教員……。
「もうすぐゴールって時に滑り込んできて……何か、どうしたんです? 躓いたんですか?」
「……いや、違う!! 逃げて、私のすぐ後ろにアイツが──」
「後ろ……?」
何とか正気を取り戻して、教員と周りにいた生徒たちに注意を促す。が、なぜかみんなキョトンとしている。アイツ……ジオは?
「……? 君、ジオくんですよね?」
「……はい、そうです」
「ええ、お疲れ様でした。順位は劣りましたが、モンスターの討伐数はずば抜けて優秀でしたよ」
「……」
どういうことだ? あの殺気が嘘のように、今は至って落ち着いている。あれだけ進路妨害をしていたのに、周りも一切それに触れないなんて……。
他の生徒も森の中から続々と帰ってきていた。みんな無傷で、何事も無かったかのように……。
疲れた~なんて、軽口を叩いていた。