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OP 第3話 【ずっと抱いていた劣等感】

ページを開いてくださりありがとうございます!

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初投稿で不慣れな点も多いかと思いますが、よろしくお願い致します!


コメントの方も、気軽にして頂ければと思います!

「それでは、この後行われる実技テストについてですが――」


 朝方……ちょっとした事件はあったものの、授業はいつも通り行われた。

 今日はこのあと学院入学生対象の実技テストがある。ここ一か月の技能を測るもので、私たち生徒にとってはかなり重要なテスト……なのだが。どうも担任の説明が耳に入ってこなかった。


『ソフィアさんってさ――――――なんで、魔法が使えないの?』


 クラスメートに言われた何気ない一言。それがずっと引っかかっていた。彼も悪気があったわけではないだろう。純粋に気になったからきいてみた、だけだと思う。思うのだが……。

 ……それに、『魔法が使えない』のは今に始まったことじゃない。これは生まれつきの体質なのだから。


 魔法を使うためには“魔力回路”が必要だ。これは循環器系の一種で、この世の生物のほとんどに、これが備わっている。

 しかし、私の身体にはそれが備わっていないらしい。魔力回路が機能してない訳でもなく、回路自体が存在していないと分かったときは担当の先生に酷く驚かれた。人体改造でも施さない限り、私が魔法を使えるようになることはないというのだ。生命活動に支障はないと言われたし、実際に具合が悪くなったこともない。


 私は”ソフィア=ミュオソティ”。魔法が使えない、ちょっと変わったエルフだ。


 このことを自身で自覚する分には全然いい。けれど、その事実を真正面から指摘されると……さすがに辛かった。普段は気にしないのだけれど、今回は特に気分が悪かった。劣等感を突き付けられたようで、自分が普通じゃない子なんだと思ってしまう。


 この体質で生まれて辛くないと言えば、嘘になる。周りの人たちが私に近寄ってこないのも、珍しいものを見るような視線を向けてくるのも、要はこの体質のせいだ。お陰で今日まで普通じゃない生活を送ってきた。


 「――で、テストは十二のグループに分かれて行います。グループ分けは入学試験時の成績で決められ――」


 確かに、私は魔法……というより、普通に対して大きな憧れを抱いている。それは物心ついた頃からのもので。学院に入った今もなお色あせないほどの、強い憧れだ。


 だけど、これだけは勘違いしないでほしい。

 私は魔法が使えるようになりたいわけではない。ないものをねだったところで、現状は何も変わらないのだから。身体を丸々改造でもしない限り、そんなのは絶対に叶わないことだ。

 魔法が使えないのならどうすればいい? 人生の半分以上はそんなことを考えていたと思う。おはようからおやすみまで、おやすみから夢の中まで、散々考え抜いて、ついに一つの結論にたどり着いた。


 そう、魔法を何かで代用してしまえばいい。


 突拍子もない考えだと思うかもしれないが、可能なのだ。それは、戦術を扱う名門として名高いネルセンス学院に合格できた実績と……『これ』が、すでに証明してくれていた。

 『これ』を魔法の代わりにできているからこそ、私はこうして胸を張っていられるのだ。


「――ちょっと、ソフィアさん!」

「あ……え!?」


 なに!? ……思わずめちゃくちゃデカい声が出た。まさか名指しされるなんて。頭が真っ白だ。


「まるで話を聞いてなさそうですし、心ここにあらずって感じでしたけど……」

「……え、ええ~! そんなことないですよ」

「あら、そうですか? では……先ほど行った連絡事項の内容、いくつか挙げてみてください」

「え!?」


 まずい、終わった。

 ここまで詰められてしまえば、もうごまかしようがない。ど、どうしよう。とりあえず分かっていることだけ話そうか……。


「えと、なんか……実技テストをやります!」

「それから?」

「あえー-ー---……」


 声の語尾が上がっていくにつれて、担任の表情が明らかに曇っていく。だって聞いてなかったんだもん! 話を聞いてない方も悪いけど、話が長すぎる方も悪いんじゃないかな?! こうなればもう、腹をくくるしかあるまいっ……!


「以上です!」

「……」

「…………」


 教室内が静寂で満ちる。


「……ソフィアさんが話を聞いてないなんて、珍しいこともあるのね~……」


 担任が眉間を抑える。よし、勝った。

「いいですか! もう一度説明しますので、話を聞いてなかった他の皆さんもしっかり聞いてくださいね」

「……はーい」

 周りからどう思われてるかはともかく、乗り切れたので百点だ。日頃、真面目に授業を受けていたのが幸いした。

 担任はあちらに向き直り、黒板の文字を指でなぞり始める。


「今回の実技テストは、皆さんの実践力を見極めるために行われます。まず……」


 ……まあ、やっぱり長かった。要約すると……。


 試験会場は森の中。「誰よりも早く森から脱出する」ことが課題内容だ。もちろん、早く戻った生徒ほど評価は上がる。簡単に言えば障害物競走だ。

 道中にはトラップやモンスターがわんさか用意されていて、トラップに足をすくわれたり、モンスターによる攻撃で動けなくなった時点で失格。それまでの評価で成績が判断される。

 ワープ魔法や他生徒の妨害、道を引き返すのも禁止。さらにさらに、モンスターの討伐数も評価に含まれるらしい。従ってモンスターをスルーして突き進む、所謂ゴリ押し戦法は通用しない。


 テスト時は各生徒十二のグループに分けられる。入学試験の成績と、これまでのテストの成績で振り分けられるらしい。私はAグループ。成績優秀者ばかり集められているので、個人戦とはいえ、人の流れが読みにくくなることが予想される。


 私たち生徒はこれまで四つほどテストを受けてきた。そして今回が五つめ、最後のテスト。これまでの総合結果で、授業を受けるクラス分けが決定する。今の成績なら、最上位クラスも夢ではないだろう。


「それでは三十分後。各自グループとルートを確認してから、学院本館の裏庭に集合してくださいね」


 今回もきっと大丈夫。そう信じて『これ』を手にとり、私は速やかに教室を後にした。



 ***


 箒に乗った生徒たちが、次々に私を追い越していく。楽しそうだなあと思う一方、落下事故とか起こしたら大変だろうなあ……なんてことを、とぼとぼ歩きながら考えていた。足から伝わる芝生の感触は、どこか馴染み深い。


「はい、全員そろってますかー。みなさん、Aグループで間違いないですかー」


 気だるそうな声とともにひょろっとした猫獣人が現れた。評価担当の教員だ。

 周囲にいる八人の生徒達は思い思いに準備運動をしたり、作戦を練っている。恐らく私と同じ、Aグループに選ばれたメンバーだろう。

 学院の裏庭とはいえ、他グループがどこにいるのか分からないほど広い。森のある土地を丸々買い取っているのだから、当たり前っちゃ当たり前だ。


 最後のテストだけあって油断ならない。どういう立ち回りで突破しようか、敵の討伐方法は……そう考えていたら、近くに見覚えのある顔を見つけた。

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