OP 第1話 【魔法が普通で当たり前な世界】
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『──学院より続報。王都ネルセンスの城下町にて暴れていたデーモンの群れについてですが──』
まだ少し肌寒い朝。布団にもぐったまま、寝ぼけ半分でその放送を聞いていた。
私のようにねぼすけな生徒を起こすためか、朝の放送にしてはえらく音が大きい。いつもの四割増しだ。うう……。
『先ほど、王都派遣のエルフの魔術団体によって鎮圧が完了しました。寮内の施錠魔法を解除します』
『学生寮にいる生徒は各自、学院への登校を開始してください。なお、一限目は三十分遅れて……』
矢継ぎ早に話される情報の山。とてもじゃないが、起き掛けに聞く量ではない。
「つまり……今から登校してくださいってことだよね……?」
えらく長い校内放送を聞いていたが、つまりそういうことである。なぜこうも分かりにくく説明するのだろうか……。
仕方なしに布団から出て、とりあえず一回、伸びをしてみた。うーん、やっぱり眠い!
そう感じるのは朝日を浴びていないからかな。ぴっちり閉め切っていたカーテンに近づいて、両手で力いっぱい開けてみた。
「うわ!!」
カーテンのレールが鳴ると同時に、窓から閃光のような刺激が! 目が痛くて、思わず一歩下がる。閃光魔法を受けるモンスターの気持ちがよくわかる。
……いや、ちょっと大げさだったかも。煌々と照る朝日に目が順応してくると、次第に外の様子が見えるようになった。冷たい風を肌で感じられるほどの余裕もでてくる。
私の部屋があるのは十二階。この学生寮自体が城下町の端の方にあるから、窓から顔を出すだけで街中を一望できた。
どうやら遠くの方にある民家が数軒燃えているようだった。王立ギルド団体の五、六人が消火作業に当たっている様子がうかがえる。
「さっきの放送、これのこと……」
なるほど、城下町は朝から大変だったらしい……いや? 団体の出動人数を見るに、案外大したことなかったのかな?
もう少し目を凝らしてみると、さっきまで”燃えていた”であろう黒コゲの民家が目に入った。その数二十……いや、三十軒くらいだ。しかし火の気はなく、既に鎮火しているようだった。
ここで一つ、疑問が生まれる。
デーモンが鎮圧されてから、まだ十分くらいしか経っていない。そんな微々たる時間で、三十軒にも及ぶ消火作業が終わっている。
そんな早業、現場にいるたった六人だけで可能なのだろうか?
……まあ、答えは単純で。『可能』なのだ。そして、その『可能』な理由もまた、単純なものだ。
「やっぱり、魔法って便利だなぁ」
『魔法』。
そう。
この世界に生きる生物はみな、魔法が使えることが当たり前なのだ。
それは、ここ王都ネルセンスに限った話ではない。世界中の話。
かつてこの世界における魔法は、機械や人力で何かをする補助程度の立ち位置でしかなかった。今で言うバフ、デバフ魔法や回復魔法。世に出ている魔法は、そういった実用的なものが大半を占めていた。
確かに攻撃魔法も存在していたが、「相手をちょっと息苦しくさせる」とか「足が重くなる」みたいなデバフ魔法の延長程度のものだ。だから嫌がらせくらいにしか使われていなかった。
しかし。
ある日を境に、魔法の研究が急成長を遂げた。その日とは────。
「未だに判明して……ないのデス!」
どやっ!
……自身の長い白髪をくくりながら、鏡の前でキメ顔をしてみせる。歴史担当の先生の真似だ。
とにかく、その日以来魔法学は成長を続け……そして今日、この世界は何でも魔法で賄えるようになったのだった。
先ほどの消火作業がいい例だ。彼らは魔法をつかうことで大量の水を生み出して、効率的に消火を行ったのである。
それどころか、彼らはとっくに消火作業を終えて、今は壊れた建物の修繕作業に入っている。もちろん、魔法を使って。
魔法に頼りきりなのもいかがなものか、そう異論を唱える専門家も少なくない。しかしその専門家も結局、魔法がなければ生きていけないのだ。
ここはそういう世界。魔法が全てを支配した、便利で空虚な世界。
制服に着替えて、授業で使う教科書や魔導書などをリュックに詰め込む。……と、廊下からドタドタと足音が聞こえてくる。みんな登校し始めたようだ。
「……うん、バッチリ!」
胸元にフリルの着いた白いブラウスに、コルセットと一体型になった黒のスカート。この上品な服装が、ネルセンスの指定制服だ。
さて、あとは勢いよくリュックを背負って、靴を──
「……ぐえっ!!」
……あまりの重さにバランスを崩してしまう。靴箱にぶつけた額を庇いながら、改めて靴を履いた。そうして手際よく靴紐を結んで……。
ゆっくりと、部屋の扉を開けた。