第6話 後始末
「なッ!?どこに行った?探せ!!」
「無駄だ、恐らく次に私たちの前に現れるのは敵対者としてだ」
ヴァルチスさんがゼファーさんをそう静止した。
「し、しかし!」
「ゼファー、この件は早々に国王様に報告するべき事。速やかに帰還する」
「……、分かりました」
ゼファーさんの指示によって騎士団が素早く帰還の準備を始める。
「さて」
そしてヴァルチスさんとナツキさんはあの二人が残した瓶を手に取っていた。
「これは……」
「信じられない……」
瓶の大きさは手で持てるような一般的な物だが俺はその中身を見て驚いた。
瓶の中にはなんとホーンラビットが入っていたのだ。
(嘘だろ?)
そもそもホーンラビットはいくら小さいサイズでも赤子でなければあの大きさの瓶には入らない、しかも身体の一部とかではなく丸々入れられているのだ。更に注目するのはホーンラビットの様子である。ホーンラビットの体は燃え続けあの狂暴化した個体を思い起こさせるかのようだ。
「どうなっているんだこれは?」
「これはもしや魂?」
「え?ホーンラビットのですか?」
思わず驚いて聞いてしまう。ヴァルチスさんは俺の方を見て頷いた。
「しかもおそらくこれは君たちが消したというホーンラビットの魂だろう」
「しかしどうしてこれを我々に?」
「見ろ、炎は出続けているが本体は何の動きもなさない。おそらくだがもう使い物にならないと判断したのだろう」
そもそも魂がこんな感じで取り出すことができるものなんだろうか。
「非常に興味深いがこれは……」
「ヴァルチス様、帰還の準備が整いました」
彼女の後ろからゼファーさんが声をかけてきた。ヴァルチスさんは手に持っていた瓶を何故か俺に持たせてきた。
「うむでは急ぎ帰還しよう。ではナツキ、すまないが我々はこれで失礼させてもらうよ」
「はい、先生。お元気で」
あっという間に騎士団は去って行ってしまった。
「ええど、ナツキさんこれ……」
「後を任されたみたいだね、それは僕の方で預かっておこう。明日にでも君の友達と一緒に私の研究所に来るといい」
「あ、え?ちょっと!」
瓶を俺の手から取り上げたナツキさんは戦車に何やら操作している。
「あ、そういえばまだ名前を聞いていなかったね」
「え?ああ、レイジ、レイジ・ジャルドです」
「レイジ君だね覚えておくよ。じゃあ」
「え?いやだからちょっと!ってはっや」
戦車に乗ってナツキさんは研究所に戻っていった。
森の被害は予想していたよりもかなり抑えられたようだ。警護団と狩猟会の人達と共に村に帰ってきた俺は村の入り口で見慣れた少女を見つける。
「レイジ!」
「ルナ……」
「もう心配したんだよ!?ホーンラビットが狂暴化して馬車が出られないのに森にテオと二人で行くなんて……」
「悪かったな」
「テオは?」
「ちょっと疲れてて、ゲーテさんが家まで運ぶらしい」
その後ルナのお説教のようなものを受けてなんとか家に到着、両親も今回の事を心配していたようで俺の顔を見た時はすごく安どしていた。
翌朝、テオは目を覚まして元気に俺の家に来るくらいだった。そして二人で村長のところに行く。
「レイジ、テオ。今回、お前さん達二人がなんとか頑張ったおかげで森の被害を抑えることができた。そこは感謝するが今後はあまり無茶をするではないぞ」
「村長俺達二人はつい最近とは言えもう成人の身、無茶かどうかは自分達で決めます」
テオがそう反論する。
「そうじゃの。しかしお主らにはその身を心配する者達がおるのを忘れてはいけんぞ?」
確かにあの状況は俺達二人が解決したわけではないし最悪死ぬ可能性もあったのだ。それを考えれば村長の言っていることももっともな事である。
「それとお主らの出立は3日後になった」
「分かりました」
村を出るのが3日後になったので思いのほか時間に余裕ができた。
そんな訳で俺達二人はナツキさんのところに行くことにした。
森の様子は昨日とは違った意味で静かで緊張感に満ちている。昨日の件で森に生息していた魔物にもある程度影響があったのだろう。
「早めに用事を済ませて帰った方がよさそうだな」
テオも森に訪れた変化を感じたのかそう言って歩き出す。
とは言え道中魔物に出くわすこともなくナツキさんの研究所に着いた。
扉をノックすると中から青い色のドラゴンが顔を出して驚いた。
(そう言えばあの人ドラゴン飼ってるんだったな……)
「クローガ、客人だ。入れてやれ」
クローガと呼ばれたドラゴンは顔を引っ込めて俺達を通す。
「よく来たね二人とも、狭いが座りたまえ」
小屋の中は昨日と変わらず、俺達二人は近くにあった椅子に座った。
「そっちのお友達は初めてだったね、僕はサウン・ナツキ」
「初めましてテオ・ユーゲントと言います」
「それでナツキさん、僕たちに何の用があるんですか?」
「君たちに聞きたいことがあってね。ズバリ君たち二人はナイフ村を出る気なのかい?」
俺とテオはお互い顔を見た後、俺が答えた。
「一応そのつもりです。というか3日後に村を出立する予定です」
「やはりか、君たちには何か輝くものがあると見た僕の目は間違っていなかったんだな」
「それで俺達が村を出る事が何か?」
「村を出て何をする気だい?」
「えっと、今度やる騎士団の入団試験を受けるつもりです」
「騎士団に入るのかい!?んー、少し当てが外れたような気もするがまあいいか。そんな君たちに僕からプレゼントをしようと思ってね」
「プレゼント?」
「そう、入団試験では使えないが本気で入るんだったらかなり役に立つだろう」
そう言ってナツキさんは奥にある部屋に消えって行った。
しばらくするとナツキさんは鞘に納まった剣とかなり大きな錠を持って戻ってきた。
「こっちがレイジ君、これがテオ君かな」
俺の前に出されたのは鞘に納まった剣の方だ。
「抜いてみてもいいですか?」
ナツキさんは静かに頷く、俺は鞘から剣を抜く。すると細身の刃が現れた。
「レイピアですか」
「そうさ、ナイフ村はその名前の通り近くの鉱山から取れる鉄からナイフの生産を元々生業としていた。最近は要所のお得意様に献上するくらいだがその鉄を使って作ったんだ」
「ナツキさん鍛冶もできたんですね」
「いや、さすがに刃の方は専門の方に打たせてもらったよ」
「それで俺のこれは?」
テオが錠を手に取る。
「それはそこにいるドラゴン、クローガを連れていくのに使う」
「え?」
「どういうことですか?」
「クローガが君を気に入ってね。君と共に戦いたいそうだ」
え?俺のレイピアに対してテオへのプレゼントすごすぎじゃね?