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第4話 超特急で突撃

 勝てない

 その一言は言ってしまえば終わりなのかもしれない。しかしこの惨状を見て俺はそう思ってしまったのだ。

 火球はホーンラビットの近くにいた俺には来なかったがそんなのんきなことを考えている暇はなかった。

 ふとズボンの裾が強く引っ張られていることに気づく、裾を引っ張っているのはトリンだ。

「トリン!?お前ついてきてたのか!?」

 そう言えばあまり気にしていなかった。トリンは更に強く裾を引っ張る。おそらくここにいては危険だと言いたいのだろう。その証拠にホーンラビットはこちらに向けて腕を振り上げている。

「ありがと!」

 俺はトリンを抱え上げてその場から離れる。ゴーレムなのでトリンはかなり重かったがなんとかホーンラビットの攻撃をかわせた。

「トリン、テオも頼む!」

 トリンは大きくうなずいてテオの方に向かう。俺はとにかく近くにあった土嚢袋から砂を燃えている場所に振りまいていく。

「レイジ!もういい!!今は逃げるぞ!」

「でもあいつはどうすんだよ!?」

「どうするも何もどうにもできないだろう!」

 確かにもはやこんな状況ではホーンラビットを倒そうなど誰も考えていない。

「騎士団を待つ他なかったがこれが限界なんだ、分かってくれ!」

「それ以外に、なんかないのか?」

 俺とテオがここに来てまだそんなに時間は経っていない、騎士団の方はまだかなり時間がかかるはずだ。

「そうは言っても……、いや待てよ……」

「何か思いついたのか?」

「そうだ!ナツキがいた!」

「ナツキ!って誰だ?」

「サウン・ナツキ、ちょっと変わった学者でタンセンの森の奥に小屋を建てて暮らしているはずだ」

「学者ぁ!?学者なんて何の役にも立たないだろ?」

「いや、ナツキはこの森の生態系を調べて法器を作っているんだ。あいつなら今すぐにでも行けばどうにか騎士団が来るまでの足止めする物がある!」

「んー、なんかよくわかんねえけどとりあえずそのナツキって奴にホーンラビットの事を伝えればいいんだな?」

「ああ!」

「分かった!俺が突撃する!それまでみんなで何とか立て直してくれ!」

「頼んだぞレイジ!ああ、逆逆。そっちまっすぐ行けばいいんだ」

 俺は全速力で走りだした。


 どれくらい走っただろうか。息が切れて立ち止まって前を見るとすぐそこに小屋があった。

「ここが……」

 俺は扉を叩いて、

「ナツキさん、いますか!いるんなら助けてください!」

 そう呼びかけた。すると扉が開いて中から赤髪の眠そうな顔の男が出てきた。

「うるさいなぁ、もう少し静かにできないのかい?」

「あ、あんたがナツキさんか?」

「そうだけど?」

「お願いだ!助けてくれ!!今ホーンラビットが狂暴化しててヤバいんだよ!」

「知ってるさ、今朝から爆発音が聞こえてるからね」

「え、知ってたのかよ!だったらなんかあいつを倒せる方法とかないのか?」

「まずは中に入りたまえ」

 そう言われて俺は小屋の中に入る。

 小屋の中はテオの地下室を思い出させるような感じだ。

「どうぞ」

 ナツキさんは一番近くにあった机の上にマグカップを置く、中には何やら黒い液体が入ってる。

「コーヒーと言ってねここによく来る髭男の商人が買わせて来るんだよ」

 試しに一口飲んでみる、すると強烈な苦みが舌を襲い思わず吐き出してしまう。

「うげえー!」

「苦いだろ、僕も最初はそんな感じだったが慣れてしまえば美味しいものだよ」

「へえ、……ってそうじゃなくて!」

「分かってるさ、あのホーンラビットを倒す手立てなら今補給中でね。そろそろ満タンになるだろう」

 そうして少しの間待っていると扉が叩かれる。

「ん、終わったようだね」

 ナツキさんが扉を開けるとなんとそこから小さいがドラゴンが顔を出す。

「グルルルル?」

「客人だ。補給は終わったんだろう?そうかありがとう」

(ドラゴンと話してるのか?)

「そう言えばまだ名前を聞いてなかったね。まあいいや君、少しは手伝ってもらうよ?」

「ああ、はい」

 小屋の外に出てナツキさんについていくと森には似つかわしくない木製の荷台に乗った大きな鉄製の法器があった。

「これってまさか?」

「そう戦争なんかでよく使われる戦車ってやつさ。さっき話していた髭男の商人から買ったこれを使う。とは言え僕一人ではこれは運べないから押すのを手伝ってもらうよ」


 戦車はやはりかなり重く押していくのに時間がかかる。しかしこんな所で弱音を吐いたところで何も変わらないのでとにかく精いっぱい押していった。

「よしここら辺なら大丈夫だな」

 ナツキさんがそう言って足を止める。

「大丈夫って何が?」

「見たまえここから先はそれなりに開けている。戦車に乗ってよく捕まっておくといい。走らせる」

 俺はナツキさんの言う通り戦車に乗った。

「発進!」

 ナツキさんがそう言うと戦車は誰の力を借りることもなく勝手に進み始める。

「おお、すげえ!」

 はじめはゆっくりだったが段々とスピードを上げていく。

 しばらく走ってるとさっきよりも強い熱気が向かい風として吹いてくるのを感じる。

「ほう、ここまで足止めできてるとはなかなかやるね」

 戦車のスピードが落ちていく、そして戦車はホーンラビットがいる場所に着いた。

「せ、戦車!?ナツキ先生なのか!?」

 まだ残っていた人達が驚いて言う。

「テオ、テオはどこだ!?」

 ホーンラビットの付近を見ると未だに弓矢で戦っていたテオを見つける。

「テオ!!」

「ナツキ先生!その戦車で早くホーンラビットを倒してくれよ!」

「待て、法器の狙いが定まってないしエネルギーの最終調整をしないとこの森諸共吹き飛ばしかねない」

「ナツキさん俺テオを助けに行ってくる!」

「そうしてくれ。何にしろあそこにいたら巻き添えをくらう」


 俺はテオのもとに駆け付ける。

「テオ!ここから離れるぞ」

「はあはあ、待ってくれレイジ、あと少し、あと少しでこいつは……」

「何言ってるんだテオ!?」

 テオは何かにとりつかれたかのように弓の弦を引き絞る。しかしなんとその右手には矢が握られていない。

「おいテオ!しっかりしろよ!!」

 とにかく俺はテオの両脇から手をまわして引っ張る。

「待ってくれ、まだ、まだ……」

「テオ……」

 なんとかテオを戦車のある所まで引きずって来る。

「威力はこのくらい絞れば大丈夫か……。おやお友達の調子は随分と悪そうだね」

「ずっと戦ってたからかこんな状態になってて……」

「少しばかり力を使いすぎて酔ってるようだね。しばらく休ませれば治るさ。さてこっちは準備できた」

 ナツキさんは法器に何やら操作して起動させる。

「エネルギー10%、照準一致、メガブラスト発射!!」

 ナツキさんがそう叫ぶと法器より緑色の大きな光が放たれる。光はホーンラビットに直撃して次の瞬間爆発した。

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