第3話 ホーンラビット
タンセンの森に入った瞬間から異様な空気が漂うのを感じる。
森の奥からすごい熱気が放たれているようだ。
「この奥にいるのか……」
「レイジ、今更引くわけないだろうな?」
「当り前だ」
森の奥に向かうにつれて草木が燃えている、さらに奥はもはや焼け跡。
「森そのものを燃やして来てるのか」
焼け跡をたどっていて分かったがホーンラビットはこの森を抜けて王都への公道を目指しているようだ。村に向かっていないのは幸いだが危険なことに変わりはない。
後ろからこちらに向かって走ってくる足音がしてきた。俺達は少し警戒したが飛び出してきたのは村の狩猟会の人達だ。
「レイジにテオ?ここで何をしているんだ!?」
「何って見たらわかるだろ、森をお散歩してるのさ」
「まさかホーンラビットに?危険だ、今すぐ村に戻れ!お前たち二人がいたとしても何も変わらない!!」
「待ってください、レイジも俺も生半可な気持ちでここには来ていません。どうか俺達も一緒に戦わせてください!」
テオの頼みに狩猟会の人は顔を俯かせる。
「戦いだったらよかったんだ。戦いなんてもんじゃない、あれは災害に巻き込まれてるだけなんだぞ!?」
「それでも俺達は行きたいんだ」
「……分かった」
ホーンラビットは森の少し開けた、否森を燃やして切り開いた場所で狩猟会と警護団の人達が足止めしていた。
ここに来る途中もそうだったが、あたりにはこれ以上被害を拡大しないようにと集めてきた砂が撒かれて、ホーンラビットはその中心にいた。
「でけえ……」
ホーンラビットは大きくても大型犬くらいだったが今目の前にいるホーンラビットはあたりの木々とほぼ同じくらいの大きさだ。
「ギュルワアアアアア!!」
ホーンラビットは雄たけびを上げながら、その角の先に大きな炎の球を作る。
「来るぞ!!」
人々が一斉に簡易的に作り上げた土嚢の防壁に身を隠す、放たれた炎の球はそのまま防壁を破壊してそこにいた人たちも吹き飛んだ。
「見ろ、こんな調子でまともに近づくことすらできないんだ!」
確かにこれは災害に巻き込まれているというのも間違いないくらいに酷い。
「矢は?」
しかしテオは冷静にそう聞く、
「矢なんて刺さっても浅い、しかも炎で燃やされてしまう」
確かにホーンラビットの体は炎を放っている。後ろを狙って矢を放っている者もいるがその熱気に阻まれて勢いを失ってしまっている。
「なるほどわかりました」
テオはポケットから首飾りを取り出して着けた。
「テオ、どうする気だ?」
「心配するな、狩人の力を貸してもらうだけさ」
テオはそう言って狩猟会の人が持ってた弓と矢筒を取り上げる。
「あ、おいテオ!!」
そして首飾りに触れながら祈り始める。
「森を駆け巡り、生きとし生けるものの命を、時には育み、時には狩る者の魂よ、我が呼びかけに答えたまえ。【英霊招来】!」
不思議なオーラがテオを包む。テオは弓を構えて弦を引く、
「【アローショット】!」
放たれた矢は先ほど放たれていた矢よりもより強い力で熱気を突き破ってホーンラビットの体に深く刺さった。
「ギイヤアアアアアア!!」
さすがにこれは効いたのだろう、ホーンラビットは叫びながら暴れだす。
「よしいける!」
テオはそう言って次々に矢を放っていく、しかし2本目以降テオに気づいたホーンラビットが矢を薙ぎ払ってしまう。
「さすがにこちらに向かれると分が悪いな」
「テオ、俺がこいつの注意を引き付ける!」
さすがにテオにだけ良いところを取られるわけにもいかない、
「レイジ頼むぞ!」
防壁から身を乗り出して近くにあった石を拾い上げてホーンラビットに投げつけた。
「おいホーンラビット、俺が開いてしてやる!」
石を投げてくる俺なんて無視するかと思ったがホーンラビットはこちらの方を向いて唸った。
「こっわ!ほらこいつを食べてみろよ!」
俺はホーンラビットが口を開いたタイミングで石を奴の口に投げる、狙い通り石は口の中に入ってホーンラビットは石を吐き出そうとする。
「【アローショット】!」
その間に後ろに回っていたテオが矢を放ちホーンラビットにダメージを与える。
「ギュウウウウウウ!!」
ホーンラビットは更に怒り、こちらに角を向ける。
「やっべ!!」
さすがにあの炎の球をまともに食らえばひとたまりもない。とにかく俺は奴から離れるため走り出す。
「レイジ伏せろ!【アローショット】!」
ホーンラビットが炎の球を放つ瞬間テオが矢を放ち狙いをずらす、
「うわー!」
放たれた炎の球は俺の後ろに着弾したがその爆風に俺は吹き飛ばされてしまう。
「レイジ大丈夫か!?」
警護団の人が俺に駆け寄って来る。
「あちち、なんとか……」
「しかしあれだけやってもまだ全然動いてやがる……」
そうテオの放った矢は確かにホーンラビットにダメージを与えてはいるがそれはほんの少しに過ぎない。奴を倒すにはこんなことを後何十回も繰り返さないといけないだろう。
「何とか急所に当てていくしかないだろうな……」
俺は再び奴の前に飛び出す。
「おらホーンラビット、まだ俺は生きてるぜ?」
そう言いながら石を投げつける。しかしホーンラビットはこちらに向いているものの怒りもせずじっとこちらを見つめているだけだ。
「なんだ?さすがに疲れたのか?」
しかしそんな期待はすぐになくなる、ホーンラビットは吠えその角に炎の球を作り上げる。
「またか!だが今度も射抜いてやる!」
テオは早々に矢を引き始める。だが俺は何か漠然とした不安が湧き上がってくる。
何かおかしい、魔物というのは基本的には賢いのだと狩猟会の人達は何度も言っていた。その知能は時には人間の想像を超えたことをしてくる。
奴が二度も同じようなことをするだろうか?その考えはぐるぐると頭を廻るがいまいち繋がらない。
そうこうしているうちにホーンラビットは炎の球を完成させていた。
「グワ!」
ホーンラビットは炎の球を真上に放った直後手で勢いよく炎の球を叩いた。
次の瞬間、炎の球は弾けた。そして小さな無数の火球が辺り一帯に降り注いだのだ。
「うわあああああ!!」
「くそ、みんな逃げろおおおおお!!」
悲鳴があちらこちらから聞こえてくる。
「なっ!?」
俺は思わず息をのんだ。奴がホーンラビットが笑っていたのだ。