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第2話 ひーとふるーつ

 家を出たのは良いがさすがにまだ出発までに時間はある。

 せっかくなので体でも鍛えながら待つかと思ったがこういうときだけ妙に時間の流れが遅く感じたりするもので一通りトレーニングを終えても日はまだ昇ったばかりだった。

「暇だしテオのとこにでも行くか」

 そう決めてテオの家に行く、あいつの家はそれなりに稼いでる商人なので家も村では一番デカい。

 テオのお母さんからいつも通り地下室にいると聞いて階段を下りる。テオはいつも地下室で何か研究してるのが好きなようで旅立ちの今日でもそれは変わらないようだ。


 地下室の扉を開けて中に入ると床には散漫した金属の部品のようなものの数々、机に煩雑に積み上げられた資料と本、そして部屋の中心の実験台のあるものに集中してこちらに気づいていないテオがいた。

「テオ、今度は一体何をしてるんだ?」

「……ん?あー、レイジかすまんなついついこいつをくみ上げるの夢中になってて」

 テオが熱心に見つめていたのは赤い土の塊、いやあいつがただの土の塊なんかを研究してるわけでもないしこれは……、

「これもしかしてゴーレムか?」

「そう、成人のお祝いに貰ったんだ」

 ゴーレム、岩や土で形成したボディを持つ魔力で法器だ。王都のような場所では力仕事はこのゴーレムが担ってくれるため大変便利がいい。商人であるテオの親でもゴーレムを買うのは少々手を出しにくいものだと思っていたがかわいい息子のために奮発したんだろう。

「いや、ゴーレムにしちゃちょっと小さすぎるんじゃないか?」

 しかしこの土塊から作り上げるにしてもよくて俺達よりちょっと小さい子どもの大きさになるだろう。

「ふふ、今やゴーレムはヒト型だけじゃないんだ。このゴーレムは【ドッグゴーレム】つまりはイヌ型のゴーレムなのさ」

「犬型!?」

 なるほど確かにそれならこの大きさなのも納得がいく。

「しかもこれはカルム山脈からとれたといわれる魔法の粘土だからかなり良いやつなんだ」

「それで今の内に組み立てておこうとしてたのか」

「そう、これなら騎士団に持ち込んでも構わないからな」

 騎士団の入団試験の科目の一つである戦闘試験では自身の実力を見せつけるという名目から試験官さえ認めればどのような持ち込み物があってもいいという決まりがある。当然そこで計られるのはゴーレムではなくその人物の実力であるためゴーレムで試験を合格したとしても実力が共わなければいずれは脱落する。

「それで間に合うのか?」

 今目の前にある土塊はどう見ても犬の形をしていない。これから組むにしても少し時間がかかりすぎるようにも思えるのだが……。

「ああ、後は型にはめ込んで練成すればいいだけだからな」

 そう言ってテオはイヌ型の鋳型を指さす、つまりは内部を作り上げて外部は勝手に形成してくれるわけだ。


 タンセンの森では早朝に起きた爆発音を聞いたナイフ村の狩猟者と警護団が爆発現場にいた。

「これは……」

「いったい何があったと言うんだ……」

 そこの周囲だけ緑は燃やされ、焦げた匂いが当たりに充満している。他の木や草に燃え広がっていないだけましなほどだ。爆発した場所の中心であると思われる場所には黒焦げの死体がある。

「この角……、ホーンラビットだ」

 かろうじて残っていた角のようなもの、それはこの死体がこの森に生息する大きな角が特徴の魔物のホーンラビットであることを指示していた。

「しかし魔法使いが悪ふざけでこんな事をしたともおもえないが……」


 それは突然であった、黒焦げになったホーンラビットの死体が突如として起き上がった。

「!?」

「!!、ジンさん下がって!」

 ジンと呼ばれた狩猟者は慌ててその場から離れる。

 ホーンラビットの死体は黒から元の赤色の毛を見る見るうちに取り戻していく。

「何なんだこれは!?」

「アンデットか!?」

「いやいくら森の中だと言っても日は昇ってる!!アンデット化するわけがない!」

 ホーンラビットが不気味な笑みを浮かべた……ように見えた次の瞬間、再び爆発と共にホーンラビットは巨大化した。


 まただ、何かいやな感じがした。振り返っても地下室の扉が見えるだけで何もない。

「よし、完成だ!」

 テオの方を見るとそこには赤いイヌ型のゴーレムが完成していた。

「名前を付けないとな【トリン】、トリンだな」

「トリン?なんかいまいち合わないような気がするが」

「いやこういうのは感覚が大事だ。トリン、よろしくな」

 テオの呼びかけにトリンは口を開閉させて答えた。さすがに鳴き声までは出せないらしい。

「そういえばそろそろ馬車が村に来るんじゃないのか?」

「ああそうだな」

 俺達の乗る馬車はテオの父親が商売として村と王都を行き来するのに乗せてもらう。そのため最速でも馬車は昼間に村を発つ予定である。


 テオと一緒に村長の家に行くと何やら村の警護団の人達が村長と話していた。

「それじゃ間に合わないんじゃないのか!?」

「そうは言っても今から王都に救援要請を出すからの、それまでそちらで頑張ってもらわんとの……」

 どうも深刻そうな内容のようだ。テオの方を見て出直すかとつついてみたがテオは行こうと集団を指さした。

「あのー、お話し中悪いんですけど村長。俺たちの乗る馬車ってまだ来てないの?」

「レイジ、テオ……。すまんがお主らの乗る馬車は村に来れんかもしれんのじゃ」

「え?」

 村長から詳しい話を聞くとタンセンの森でホーンラビットが突如狂暴化して、そいつは狩猟会や警護団だけでは手が付けられないくらい強いそうだ。

「今しがたゲーテに頼んで王都の騎士団に救援を依頼したが今日中に到着したらいいくらいなんじゃ……」

 この村から王都への道に出るにはタンセンの森を抜けないといけない。ホーンラビットの暴走が本当であればテオのお父さんであるゲーテさんもかなり危ない賭けをしている。

「とにかく狩猟会と警護団でホーンラビットをなんとか足止めしとるがそれもいつまで持つか分からんん。最悪この村を捨てないといけん」

 村長がそこまで言うとは余程の事らしい。

「じゃから今日は諦めなされ」

 これ以上村長を説得したとしてももう馬車は王都に向かって走っているだろうから無駄だと思って俺たちはその場を離れた。

「どうするテオ?」

「どうするって、その顔はもう決めてるようだけど」

「ああ、当然突撃だ!!」

 目指すは当然タンセンの森だ。

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