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リディアが女王となり一年と数ヶ月後、リディアは身籠った。無論言うまでもなく子供の父親はディオンだ。
「男の子かな、女の子かな」
「ふふ、まだまだ先だから分かりません」
リディアの側で愉しそうに笑っているのはレフだ。
「レフ!やっぱり此処にいたのか」
「こんにちは、ルベルト様」
部屋に入って来たのは、今や黒騎士団副団長のルベルトだ。呆れ顔でレフを一瞥すると、リディアへと正式な礼を取る。
「女王陛下、私などに敬称は必要ございません」
「じゃあ、ルベルトさん」
「いや、いえ、ですから」
「ディオンの大切な友人であり、恩人である貴方方を呼び捨てになど出来ません」
生きていてくれた。リディアやディオンが神殿から逃げた後、黒騎士団等は捨て身で闘いに挑んだ。結果は惨敗。だが大半の者は生き残り地下牢に入れられていた。エクトルの指示だったそうだ。彼にも感謝している。
「だってさ。ルベルトは堅いんだよ~」
「お前は軽過ぎだ!」
◆◆◆
身籠ってからは、リディアの元へ入れ替わり立ち替わり様々な人が訪れる。
「絶対女の子!きっとリディアちゃんに似て可愛いわ。いいなぁ、私も赤ちゃん欲しい」
シルヴィの言葉に、隣でお茶を飲んでいたフレッドは咳き込んだ。
「そ、そういうのは授かりものですから!」
二ヶ月程前、二人は結婚し夫婦になった。
「えー。だってフレッド体力ないから毎晩してくれなっ、て何するのよ!」
「お願いですから、そんな恥ずかしい事堂々と言わないで下さい‼︎」
フレッドはシルヴィの口を手で塞いだ。無論シルヴィは怒る。
相変わらずシルヴィがフレッドを尻に敷いている様だが、幸せそうで安堵した。
◆◆◆
「まさか君が女王など……。もしよければ私を男妾に」
「お断りします」
元婚約者だったラザールはまだ再婚出来ていないらしい。相変わらず図太い神経の持ち主だ。よくまあ、平然として会いに来れるものだとある意味感心してしまう。
◆◆◆
その後も、グリエット家の領地を管理してくれていたオリヴァーやエマが遠方遥々来てくれた。更に……。
「エクトル様」
「母君になられるんですね」
あの時彼に感じた怖さはもうない。彼は乗り越えたのだろう。
「正直不安もあります。お母様の様に私はなれる自信がないんです」
「益々貴女はフィリーネ様に似てきていますね。だが、大丈夫ですよ。貴女は貴女だ。彼女になる必要はない」
人は変わる者と変わらない者がいる。乗り越えられる者と乗り越えられない者がいる。彼を見ているとそれをヒシヒシと感じる。リュシアンは自分の欲望という感情にのまれてしまい、戻れなくなってしまった。たまに彼を思い出しては、それが悔いてならない。
◆◆◆
「マリウス様」
「やあ、リディア嬢。気分はどうかな」
「少し悪阻はありますが、今日は気分が良いんです」
彼もまた恩人の一人だ。彼がいなければあの日、ディオンと再会する事は出来なかった。昔から困り事があると必ず手を差し伸べてくれた。本当に感謝している。
「楽しみだね。どんな子が産まれてくるのかな。君に似たら男でも愛らしくなりそうだね。性格もきっと素直で真っ直ぐだ。でも彼に似たら、顔は良いけど性格に難ありだね」
笑いながら毒を吐くマリウスにリディアは苦笑いをした。内心凄く同意をしながら。
◆◆◆
「余り動き回るなよ」
リディアが廊下を歩いていると、ディオンが凄い形相をして現れた。少し息を切らしている。
「腹には子供がいるんだから、何かあったらどうするんだよ!ほら、戻るよ!」
ディオンはリディアを軽々抱き上げ横抱きにすると、リディアの身体を気遣う様にしてゆっくりと歩き出した。程なくして部屋に到着するとベッドに座らされた。
「あのね、妊婦は病気じゃないからそんなに心配しなくても大丈夫だから」
気遣ってくれるのは、本当に嬉しい。だが、度が過ぎる。部屋から出たのが見つかれば大騒ぎだ。直ぐに連れ戻されてしまう。
「ダメだ!お前は鈍いんだから、転んだり打つかりでもしたらどうするんだ⁉︎……頼むから大人しくしていてくれ」
「本当、心配性で困ったお父様ですねぇ」
リディアはお腹をさすりながら、穏やかに笑った。するとディオンは珍しく動揺し顔から耳まで真っ赤になっていた。
「煩いな……仕方ないだろう。愛する妻と子供を心配してなにが悪いんだ」
「悪くないわ、寧ろ嬉しい。でも、程々にお願いしますね、お父様?」
「お前、揶揄ってるだろう!」
「ふふ、バレた?……ねぇ、ディオン」
リディアはディオンに抱きつく。
「ありがとう。私を愛してくれて」
数ヶ月後元気な男の子が誕生した。