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妖精養殖工場  作者: やまいも
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ユースケの選択

 檻の道を進み、戦いのすぐ傍へ移動。ここで扉を開いて廊下へ出る、という所で予想通りつまづいた。


「くそお。隙なんてねえじゃねえか」


 妖精の男が赤いオーラにつつまれている時は、黒服が銃弾を撃っている時。流れ弾が恐いので出られない。銃が止まった時はサクラが飛び込んでくるが、オーラの暴風が飛んできて吹き飛ばされて近づけない。


「い、いちかばちかに賭けるしかねえのか」


 秋山は覚悟を決める。


「おい! 銃弾が飛び交う中を飛び込むぞ! 廊下に出たら急いで次の檻へ入るんだ! おい! 何してる!」

「す、すみません! 手当てを!」


 ユースケは銃弾により破れた服を引きちぎり、包帯のようにしてキシーの傷跡に巻いていた。


「んなもん後にしろ! 行くぞ! 1、2、の、3!」


 そう言って秋山が飛び出す。ユースケは慌てて雑に布を結んでから、後に続く。

 銃声が鳴り響く。だが流れ弾が秋山やユースケの方に飛ばないように、気をつけているらしかった。ユースケと秋山は無事に廊下を抜けて次の檻へと入る。これでほぼ助かった。この檻から次に廊下に出る時には、戦場から50m近く離れられる。さらに別の檻に入れば、さらに離れられる。その時には監視室もすぐ近くだ。

 秋山とユースケはホッとしながら檻の中を進んでいく。途中、檻にいる妖精が威圧してくることもあったが、秋山が銃を向けると逃げていった。このあたりに強い妖精はいないようだ。


「よ、よし! 監視室はもうすぐ!」


 ようやく戦いが終わる。深部のシェルターが閉じ、黒服全員が傭兵の妖精との戦闘に集中できれば、必ず勝利できる。秋山は勝利を確信した。だが、最後の檻。そこに強敵が待っていた。


「フシャアアアア!」


 緑のオーラを纏う大人のキシー。彼が扉を塞ぐように立ち、こちらを睨みつけている。これ以上近づけば殺す、と言外に言いながら。秋山はひるんで前に出られない。


「あ、あの、何が起こってるんですか? 銃声が止まりませんが」


 と、そこへ飼育員の女が出てきた。唯一大人のキシーに近づける本田だ。


「おい本田ァ! あの化けもんをどけやがれ!」

「え? カイルですか? 無理ですよぉ。あんなに怒ってるんじゃ。あっ、アニスちゃん無事だったのね!」

「いいからさっさとしやがれ! 殺されてえのか!」


 本田の緩い返答に、焦る秋本。彼は銃口を本田に向けて脅す。


「ひぃっ。そ、そんなこと言われても」


 本田は銃口に怯えて大人のキシーを見る。だがそれだけだ。行動はできない。


「クソッ。ならあいつの子どもを人質に」


 次に秋山は、ユースケが持つアニスに銃口を向けた。だがその瞬間、秋山の全身が緑色のオーラに包まれた。


「う、うおっ。うおおおおおっ」


 キシーの超能力だろう。暴風のような力を受けて秋山は一瞬で20mはあろう天井付近まで上昇する。


「カイル! ダメ!」

「フシャアアアアアア!」


 大人のキシー、カイルは本田の制止にも止まらない。秋山は20mの高さから落下。さらには超能力で加速。ブチャアッ。すさまじい勢いで地面へと激突した秋山は、見るも無残な姿となった。


「ああっ。カ、カイル。何てことを。うぐっ」


 死体を見てしまった本田は、ショックのあまり気絶する。カイルは本田を一瞥した後、ユースケを睨んだ。次はお前だ、とでも言うように。


「ぼ、僕は違う。黒服の味方をする気なんて……」


 命乞いの言葉を考えるユースケ。だがここでカイルの味方になる場合、達也やサクラを見捨てて、監視室のシェルターを使用しないまま、逃げなければならない。罪がバレれば終身刑か死刑を免れない悪人だとしても、恋焦がれた相手と自分を友人と思い命をかけて頼ってくれている相手だ。見捨てるのは気が引ける。


「みゃあ、みゃああああ」


 ユースケが悩んでいるうちに、腕にいるアニスが抜け出し、カイルの方へと駆けた。カイルはフッとオーラを弱め、子を受け入れる。そして二匹の間で何やら話がなされる。


「みゃあ、みゃあみゃあ、みゃあああ」

「みゃあああ。みゃみゃああああ」


 アニスは何かを訴えているようだ。おそらく達也が手に掴むもう一匹のキシー、アリスのことだろう。カイルは話を理解したようだ。アニスに背を向けて檻の外へ向かう。だが、檻から出る直前、もう一度振り返り、ユースケを見た。


「みゃあああ」


 オーラを出し、睨みつけながら一言。裏切ったら殺す、とでも言っているようだった。カイルは檻から廊下へ出て、戦闘の激しい深部へと駆けていく。やはりアリスを助けに行ったのだろう。これでもう、障害はなくなった。わけもなく監視室へ辿りつけるだろう。そしてシェルターを閉じれば、おそらく人間の勝ち。妖精の反乱は鎮圧され、ここは元通りの地獄になる。


「く、くそっ! ちくしょう! なんだって僕がこんなことを! 選べるわけないだろ!」


 憔悴するユースケ。ふと、何かを思いついたように、倒れている本田を見る。そして彼女を、肩に担いだ。彼女を引きずりながら、檻から廊下へと出る。すぐ傍の監視室に入る。モニター上では妖精と人間の激しい戦いが行われていた。ユースケはそれをできるだけ見ないように、本田を床に寝転ばせる。次に、自分のパソコンを見つけ、自分のスーツケースに詰め込んでいく。制御方法のマニュアル本は見える所に置いたままにした。そして、スーツケースを持って監視室を出る。彼はそのまま、監視室の制御装置には何も手をつけないまま、施設の外を目指して歩いた。

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