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妖精養殖工場  作者: やまいも
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施設と謎の動画

 危険同意書や損害保険など、いくつかの書類にサインさせられる。そして早速現場に移動。船の中で女から簡単に説明を受ける。


「今から向かうのは国が保有する妖精保護区です。絶滅危惧種の妖精を増やし、自然に戻す。または企業に労働者として派遣したり、屋敷に秘書として派遣したり、まあ色々しています。国の施設と言っても我々はビジネスをやっていますからね」


 傭兵の男は無表情。警備員の男は退屈そうに聞いている。ユースケはマフィアと国の癒着に驚き、吐き気を覚えている。


「保護と言っても相手は妖精。戦闘能力が高く、厄介な能力を持っている者もおります。最近になって暴れ出す害獣も増えてきました。そこであなた達を雇うことにしたのです」


 女は傭兵と警備員を見る。


「あなた方の業務は害獣の鎮圧、捕獲。または駆除。できれば捕獲が望ましいですが、場合によっては駆除も許可します。詳しくは現場の担当者に伺ってください」

「分かった」

「へへっ、了解」


 小さく会釈する傭兵。うれしそうな警備員。女はユースケの方を見る。


「あなたは妖精管理システムの修復をお願いします。場合によっては買い替えも必要かもしれませんが、その見積もりも。詳しくはそちらにも担当者がおりますから現場で伺ってください」

「了解です」


 話は一端終わる。後は緊張しながら船の到着を待つのみ。途中、出された食事は一見して高級品と分かるものだった。が、ユースケは果物以外喉を通らなかった。マフィアが高級品を手に出来るという事実の気持ち悪さ。そして船はどこかで停泊する。地図上は無人島となっている島。しかし政府が所有し妖精保護区として管理しているという。

 港に化学工場のような外観の大きな施設があり、それを除けば自然豊かな島だった。政府管轄という看板が確かにあり、余計に気持ち悪さを際立たせる。


「それでは、私はここまでです。ご健闘を」

「へへっ、ようやくか」


 女と別れ、ユースケ達3人とガラの悪い黒服達十数名が船を降りる。


「ついて来い」


 面接官だった男がリーダー格のようだ。ドスの聞いた声でユースケ達を先導する。ただし後ろに2人ついており、この2人はハンドガンを所有している。裏切れば即死だろう。施設のドアが開く。すぐに聞こえてくる何かのうめき声。妖精の保護。の声ではないだろう。この施設には負の意志が満ちている。


「おい、お前はここだ」


 ユースケが一番初めに指示された。監視室と書かれた扉。ユースケはこれ以上奥へと進まなくていいことに安堵する。


「やっ、ユーちゃん。来てくれたんだね」


 出迎えたのは、タッツーだった。しかも1人だ。いつものような気軽な挨拶。笑顔はやはり少し恐い。だが今はその恐さの意味が分かる。黒服達は部屋を離れ奥へと進んでいく。


「た、達也さん。何ですかこれは」


 ユースケはもはやタッツーと呼べなくなっていた。


「やだなあユーちゃん、タッツーでいいよ」

「し、しかし……」

「ははは。ま、恐がられるのも仕方ないか。でもさ、俺は俺だよ。生まれがどうかなんて、その人には関係ないと思わないかい?」

「それは、そうなんですけど」


 周りの人間だけで達也を疑ってしまった罪悪感。それでもマフィアなんだからヤバいだろうという疑い。揺れるユースケ。


「ま、今すぐ慣れろとは言わないさ。徐々に、でいい。俺は真面目に仕事をやって、信頼を勝ち取って行くだけさ。今までもそうしてきたからね」

「す、すみません。僕が無神経でした」

「いいっていいって、やっぱユーちゃんはいい子だよねー」


 にこにこ笑う達也。先ほどより少しだけ笑顔の闇が少なくなった気がした。


「さて、ユーちゃんにやってもらうことだけど。ずばり監視カメラを利用した妖精のストレスチェック。と、それに合わせた食料の手配、室温調整、換気等々なんだよね。渡していたマニュアルは読んだ?」

「はい。表情筋の画像処理、イラつき動作の動画処理、ディープラーニングを使用した欲求不満との照らし合わせ、ですよね」


 妖精は言葉を使用しない種が多く、言葉を使用しても嘘をつく種がいる。ゆえに言葉ではなく表情や態度から感情を推測する。そのためのプログラムを作るのがユースケの仕事である。


「うん。それを、妖精でやって欲しいんだ。どう、できる?」


 仕事は依頼通りプログラミングに関することでまともそうであった。ユースケはその事に心底ホッとする。


「できるとは思います」

「一からプログラムを作り直すのでも?」

「はい、時間はかかりますが。しかし、そうだとしても今まで使用していたプログラムがあれば確認させて欲しいんですが」

「いいよ。これで5年くらいは上手く行ってたんだ。それがここ半年くらい、妙に失敗が多くなってね」

「それはおかしいですね。ディープラーニングなら、ビッグデータが所有するパターンが多いほど、つまり時間が経てば経つほど、正解が多くなるはずなのに」

「だからシステムではなくアウトウェアや機械の方がおかしい可能性もある。そっちは分かる?」

「専門ではありませんが、多少は」

「多少か。じゃ、場合によっては別の専門家を呼ばないと行けないのかな」

「はい。そうなるかと」

「ふーっ。世の中なかなか上手くいかないね」

「はははっ」


 達也からプログラムを受け取り、早速チェックするユースケ。その間、達也はユースケの方を見たり、監視カメラを退屈そうに眺めたり。やがてあくびをして、寝始めた。退屈なのだろう。

 さて、集中すると時間を忘れるユースケ。気付けば6時間ほど経っていた。達也が部屋に夕食を持ってくる。


「どう? 調子は」

「ボチボチですね。しかし、上手ですよ、このプログラム。前任者は相当優秀ですね。名の通ったプログラマーかもしれません」

「はははっ。まあ確かに。エリートだったからね、彼は」

「今はどちらに?」


 プログラムで分からない所があれば前任者に聞くというのはさして不思議ではない。だからユースケは気軽に尋ねたのだが、地雷を踏んだらしかった。達也の表情が、一瞬ものすごく恐ろしくなる。すぐに軽い笑みに変わるが。


「ユーちゃん。前任者に関することは、禁止ワードで」

「はははっ、了解です」


 軽い調子で返したが、内心は心臓バクバクだった。裏切って死んだか、逃げたのだろう。

 夕食後もユースケは集中してプログラムを見続けた。時折一部だけコピペして、どのような情報処理が行われるか確認したりしながら。達也は夕食後どこかへ消えた。彼の1日8時間労働は終わったのだろう。ユースケに休みはない。本当は休んでも許されるだろうが、ユースケはこの職場から一刻も早く去りたかった。それに一度集中したら切れるまではやり抜きたい。だから、眠くなるまでは仕事をするつもりだった。

 その日の午前3時、眠気がキツくなってきた頃合。妙なプログラムを見つける。不必要な動画への誘導。そして「動画を見る前に監視カメラのシステムをいじって動画を入れ替えろ」という謎の警告。その入れ替え用のプログラムまで貼られている。危険しか感じない。


「や、やってしまった……」


 動画の警告通りに監視カメラのシステムを弄ったユースケ。バレれば殺されるかもしれない。だが、それ以上に、自分の身の安全のために、監視カメラシステムは変えられるようになっておきたかった。何せメインコンピュータの情報によると、この部屋にも、3台もの隠しカメラが設置されていたのだから。


 イヤホンをつけるユースケ。動画はスマホに転送。ふとんを被って外からは見えないように。そして、再生する。

 その動画に映っていたのは、まさかの妖精アイドル。それもユースケや達也がファンクラブに入っている、番蝶サクラ。彼女が、他のアイドルや偉そうな人達と、豪華な部屋で食事をしている光景。黒服の男達もいる。ユースケ達を面接した男もだ。つまりここのマフィアに関連した場所。関連したパーティ。

 そして出てきた食材。それに目を疑う。


「おほほほほ。今年も生きのいい妖精が取れましたわね、大臣」


 妖精だった。今絞め殺したような、生に近い妖精。そしてそれを、大臣と呼ばれた男が口に入れる。


「ぶおっほほほほっ。生き返る、生き返る。これで寿命10年は延びましたわい」


 言葉通り、大臣の肌が見る見るうちに若々しくなった。さらには、妖精特有の刺青のような痕ができた。


「まあ大臣ったら、冗談がお上手。このサイズですと、せいぜい3ヶ月ですわ」

「ほほほっ。この歳になると年齢の感覚がおかしくてのぉ」


 番蝶サクラも、他のアイドルも、どんどん妖精を食べて行く。そして若返り、力を得ていく。番蝶サクラは妖力を使い、他のアイドルを浮かせたり、ワインを飲ませたり、悪戯をする。他のアイドルは「お許しおおお!」とか言って、悔しそうだが従っている。それを見てサクラと偉そうな男達は笑っている。

 そこで、突然機械音声が聞こえてきた。男の声だが、機械音声なので本当に男かは分からない。


「君がこの動画を見ているということは、俺はもうこの世にいないのだろう」


 この声の主は、前任のプログラマーだろうか。それか動画の撮影者か。


「見ての通り、彼等は妖精と人間の不可侵条約を破り、あまつさえ、殺妖精を当たり前のように行っている。その目的は、妖精の力の奪取と、若返りだ。私はこの情報を表に出したいと思う。しかしただ出しては悪趣味なCGだとかで誤魔化されてしまうだろう。また悪戯に妖精の怒りを刺激して、戦争という形になり無関係な人間と妖精に被害が出るのも好ましくない。勇気ある知恵者よ、この動画を正しく利用してくれることを願う」


 そこで音声と動画は終わった。

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