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いきもの と わたくし

ちゅん太さんと私

作者: けも

三度、彼の雛が地に落ちてきた時

その初列風切羽とわたくしの左手小指に

運命の黒い糸が硬く結びあわされているのを

私は慥かに、慥かに幻視したのでございます。

( 意訳:腐れ縁だね、ぼくたちは … )


 とある春、

 我が家の軒下に一羽の男子ツバメの姿を見かけた時、

 あ、今年も帰ってきたんだ、と微笑ましく思った後、

「イケメンですな」

 人種族である私がそう思うほど、

 体躯は大柄、

 すらりと長い尾羽、

 薄く青光りする背中、

 ツバメのイケメンの条件を満たす綺麗な個体。

 それが、

 ちゅん太さんのおとうたまでした。

 そんでもって、このイケメンは、

 ものすごく、不器用でした …

 長年、ツバメの大家さんをしておりますが、軒下をこんだけ泥だらけにしたのは、

 あんたがはじめてだあああぁ!

 もう、巣に着けているより落としているほうが多いから玄関前ドロドロです。

 葉っぱも落とすから、家の前が田植え状態です。

 やってきた友人にまで、

「どしたの ?」

 と、いぶかしがられる始末。

「いや、今年のツバメ不器用で …」

 そうして補修された巣もなんだか、いびつです。

 大丈夫なのか?

 そんな、心配は杞憂で、すぐに可愛い女子ツバメが卵を抱えています。

 そんなところは器用だったようです ( 嫉 妬 )

 雛が生まれ、賑やかでしたが、この春は天候が不安定で、

 肌寒い雨の日が多く、その所為か雛の数も3羽と少ない年でした。


 その後、巣がいびつだったことが関係していたのか、いないのか、

 ぼとぼと、3回も巣からこぼれてくる雛がいました。

 それが、ちゅん太さんです。


 そんな、ちゅん太さんは、お喋り雛野郎でした。

 巣から3回もこぼれてきたので、頭部を強打したのではないか ?

 と、思うほど

 いつも「ぴよぴよ」していました。

 ご飯を食べる間も「ぴよぴよ」していて、まあ、それは雛が親にご飯をねだっている動作なわけですが …

 でも「落ち着いて食べないと変なところに入っちゃうから!」と心の中でおびえるほど騒がしい雛でした。

 でもって、ご飯食べた後にも「ぴよぴよ」してるんですよ、この雛野郎。

 コオロギをねだる時とは明らかに違う、満腹ご機嫌ぴよぴよです。

 兄者はご飯をもらうとき以外「ぴよぴよ」しなかったので、個体差・性格かもしれないのですが、ご飯以外でも、おおむねご機嫌なちゅん太さん。

 私が側にいると、ずっと話しかけてきます、人間になれたら駄目だからと目を合わせないようにしている私の努力は一体、

 この野生動物にあるまじき警戒心のなさは、やはり頭部を ?


 ちょっと心配になったので隠れて様子を観察しました。

 自分ちの玄関で身を隠す私、完全に不審者です。


 あ、さすがに誰もいないのに喋ってはいません。

 ちゅん太ハウスのどん兵衛カップのふちに、人で言えば顎に当たる部分を乗せて “ 無 ” の表情をしています。アホ毛が風に揺れています。

 そっか、雛は頭が重いからふちに顎を乗せるんだね、

 いつも、楽しそうにはしゃいでいるから心配したけど、

 そんな利口そうな神妙な表情もできたんだね、


 また、ちゅん父とちゅん母には、初めて「ちゅん太ハウス」を玄関に出した日に攻撃(アタック)されました。

 ちゅん太さんのお口にコオロギを突っ込んでいると、

「うちの子に何をする!」

 と、おとうたまがたいそうな剣幕です。

 濡れ衣のわたくし涙目です。

「10グラムしかない鳥肉なんか興味ない!」

 と、言い返したいところですが、

 そこはそれ、わたくし大人でございますし、人類としての矜持もございます。

 ー ので、

 おとなしくおうちに引っ込みます ( 矜持は?)

 で、仕方無いので、お二人の留守を見計らって、ちゅん太さんにご飯を差し上げます。

「ぴよぴよ」ご機嫌なちゅん太さん。

 君は悩みが無さそうでいいなぁ、

 ほどなく、わたくしの嫌疑 ? も晴れた様子で攻撃されることは無くなったのですが、その後も、お二人には見張られていました。

 そんな、ある日の事、自宅の二階の窓から一階の出窓を見下ろすと出窓の屋根にちゅん父が居ます。

 そこから「ちゅん太ハウス」が良く見えるようです。

 おとうたまのイケメンっぷりに見とれて居りますと、

 彼が振り向きました、

 眼が合いました。

 !

 びっくりする、おとうたま、

 ダッシュで飛び立つ おとうたま、

 そして、彼は二度と出窓にくることはありませんでした …

 人間ごときに上から見下ろされるというのは相当な屈辱だったようです。

 すんごいびっくりして慌てて飛び立っていたので、おとうたまのプライドは甚く傷ついたのだろうと思います。

 ごめんなさい、

 なんか、ちゅん父の残念な感じはちゅん太さんに遺伝しているような気もします。


 そんな、ちゅん太さんはたいそうな健啖家で、

 沢山食べてすくすく成長するよいこでした。

 コオロギの皆さんには当時大変お世話になりました。

 ありがとうございました …

 で、ペットショップで販売されているコオロギさんにはL・M・Sとサイズがあって、大きさがかなり違うのですが、Sサイズのものだと一日100匹ほどお召し上がりになるのです。

 いや、これだけ食べれば、もっと大きくなっても良いんじゃないかと思うんですけど、ツバメさまは大きくなっても体重18グラムとかなんですよ。

 なんか、理不尽です。

 養育途中で、玄関のドアが開く音がするとご飯が来ると覚えてしまったので、

「ガチャ」

 カップのふちに尻を出す。

 尻をふかふか振る、

 糞をする、

 ご飯ちょうだい、と口を開ける。

 動作をするようになってしまいました。

 可愛いんだか、失礼なんだか、

 可愛いぞ、

 食べなさい、たーんとコオロギをお上がりなさい。

 ちゅん太さんのお口にどしどしコオロギとミルワームを突っ込む私、コオロギを食べた後に目を細めて「美味しい」とピヨピヨしているちゅん太さん。

 しかし、

「ツバメの雛さまが巣から落ちてこられたのでお育て申し上げた件」に書いたように、ある日、ペットショップのコオロギさまが品切れに、

 不測の事態に補虫網でバッタ様を捕獲して代替え品としたのですが、

(バッタ様、すまぬ …)

 バッタ様をお口に突っ込む。

 ちゅん太さん、目を丸くする。

 黙り込む、

 なんか考えている。

 バッタ様になんの不服があるというのだ!

 ショウリョウバッタが嫌ならトノサマでどうか?

 やはり、目を丸くする、

 黙る。

「あの黒いのは?」

 みたいな顔しても知りません、

 今日はバッタ様しかいないの、

 スキキライしないの。

 まぁ、

 なんだかんだ言って全部食べた ( 口に突っ込んだ ) んですが、

 最後まで、美味しい顔しなかったのは、何なの?

 グルメなの? 違いの分かる雛なの?

 炎天下、いい年をした大人が道路を行く人の視線におびえながら虫取り網を振り回す痛々しい光景を繰り広げてバッタ様を捕獲したというのに、

 このような仕打ち、ちゅん太さんじゃなかったら許しませんよ。

 ええ、まったくもってですよ。

 でも、

 コオロギさま、エビに似て美味しいという話ですが、

 無印良品のえびせん、 もとい「コオロギせん」試してみようかな …


 さて、すくすく育ったちゅん太さんはついに巣立ち、

 けもさんは大自然に旅立つ勇者の小さな背中を見送ったのですが、

 その後も彼らは、南に旅立つまで、うちの近所をうろうろしていました、多分。

 ベランダにでると、視界の隅を黒い鳥影がかすめます。

 飛ぶのが早すぎて分からないんですが、

 ツバメがベランダをかすめて何度も旋回することはなかったので、

 ちゅん太かなあ、いっちょ前に飛んでるなあと、思っていました。


 その翌年、

 私はツバメのお礼参り? を受けるのです。


 





 我が家の家系は、祖母の祖父が怪我したタヌキを助けてお礼参りを受け、母がネコを助けてお礼参りを受け、私で三回目になるお礼参り家系です。

 この後、我が一族の末裔に異界から迷い込んだエルフを助け、お礼参りを受けて異世界に召喚され、大冒険を果たす勇者が出ると思います。



あんな綿埃みたいな雛が、美しい軌跡を描いて大空を飛翔する鳥になる。

世界は不思議に満ちていて、時々それが落っこちてくるんです。

多分 ( 気弱 …)

皆様のもとにも皆様の「一番星」が落っこちてくる様に、

私ので効果あるかどうか分かりませんが、寿いどきます。

良き出会いを!



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