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孤独な捜索

▼登場人物紹介(最上段が今回の視点人物)


馳悠吾(はせゆうご) : 高校二年生。久々原愛紗季と本気鬼ごっこ中。捕まえるどころか、まったく見かけなくて動揺中。



久々原愛紗希(くくはらうさぎ) : いつも明るく華やかで元気。隠遁中。



明松宗助(かがりそうすけ) : みんなの友達。見た目はわりとチャラい。久々原と同じクラス。


--------20210511-------- 初投稿

 馳悠吾(はせゆうご)は、やや湿度の高い朝を駆け抜けながら悩んでいた。

 毎日のルーティンとして悠吾はジョギング、朝練を欠かさない。怠ると罪悪感がまとわりついて調子を崩す。これは旅先でも同じであった。中学の修学旅行のとき、悲しいほど旅行が楽しめなかったことがある。

 ネガティブに考えたというよりは「なにか調子が悪いな」と不調を感じただけであったが、本能はしっかりと記憶している。だからこそ悩みの種となっている。

 久々原愛紗季(くくはらうさぎ)との本気の鬼ごっこ。手を抜かないのであれば、まず登校時を狙う必要がある。学校はフェンスと塀で囲まれている。彼女は必ず校門を通るはずだ。朝一番に向かい、見張っていればチャンスが訪れる。

 しかし、これでは朝練ができない。少しだけ朝練をしてから向かう、というのもまずい。その少し(・・)の間に登校される可能性を否定できない。

 朝練と見張り、同時に達成するためには……




 ということで悠吾は校門から少し離れた場所で竹刀を振り続けるという奇策に出た。奇行ではない。生活指導の青木先生が、広くなってしまったおでこに皺をよせ、ホイッスルを片手に動きを止めている。登校してきた生徒総スルーだ。それも当然だろう。青木の二十五年という長い教師生活の中で、自分よりも早く校門に来ているというのも、竹刀を振りながら登校してくる生徒を観ている生徒がいる、というのも初めての体験なのだ。どう対処すればいいのか判らず固まってしまっている。頭の中はさながら走馬灯のように過去の経験が駆け巡っていた。

 そんなことを悠吾は知る由もない。竹刀を振りながら見張り続ける。久々原が来たら追いかけるつもりであった。本来なら誰かに止められるだろうが、青木が走馬灯を観ている限り、そんなこともないだろう。いろいろ抜け落ちているのだが、悠吾の頭の中には自分と久々原しかいないのだからしょうがない。

 そして久々原は校門に現れなかった。

 今日は休みだったのだろうか? 

 昼休みにナチュラルパーマ茶毛代表、明松宗助(かがりそうすけ)の元へ確認しに行く。


「え、普通に来てるけど?」

「……そうか」


 見逃した?

 悠吾は久々原を見つける達人だと自負している。去年、大型ショッピングモールに出かけたとき、吹き抜けの四階から、一階にいる久々原を見つけたことがある。自分でもどうかと思うが一瞬であった。

 その自分が一〇〇メートルも離れていない距離で見逃す、というのは考えにくい。


「ひょっとして正門以外に学校に入れる場所があるのか?」

「職員用の裏口とか、ゲスト用の門とかあるけど? 見たことない?」

「……なるほど?」


 思い出すと、今朝は教職員を見かけなかった。

 そっちを使ったのだと納得する。それからご飯を食べ、いちおう久々原のクラスを確認しに行ったが、やはりいなかった。

 しかし、今日の悠吾は少し諦めが悪かった。ギリギリ、本当に一分前まで張りついたのだ。けれども見つけられない。

 なんだか久々原が忍者のように思えてきた。

 授業を終え、すぐさま早歩きで彼女のクラスに向かうも、やはりいなかった。

 宗助に話を聞くと、やはり数秒前まではいたらしい。

 なぜ見つけられないのか?

 部活中も頭の中は疑問でいっぱいだった。集中もできておらず先輩に怒られ……はしなかったものの、心配されてしまった。

 少しだけ早く切り上げることになり、道着を着替えて帰路へつく。日が長くなったとは言え、もう辺りは薄暗かった。

 周囲を見回す。さすがに久々原はいないだろう。思わず大きなため息をついてしまった。

 そんなとき、携帯にメッセージがやってくる。


『部活おつかれさま。今日はちょっと早いんだ?』


 違和感のある言葉に悠吾の思考は一時停止した。

 辺りを見回す。道場を出たばかりで校舎や先生たちの車、松林などは見えるが、人の姿はない。

 そこでようやく違和感の正体に気づいた。

 ――見られている!?

 今日の終了時間はイレギュラーだ。見ていなければ、こんなメッセージは送れない。


『久々原、いるのか?』

『え、まぁ、うん』


 どこに? と聞くと卑怯な気がして聞けなかった。そのかわりに走り回って辺りを探す。他の生徒は何人も見かけたが、やはり久々原は見つけられない。

 これは、かなり手強い。

 もっと策を練らなければと思い直す。いまは普通にやりとりを楽しむことにした。


『久々原、隠れるのが上手いな』

『でしょ? けっこう自信あるんだ』

『想像以上に捕まえるのが難しい気がしてきた』

『今朝も見逃してたもんね』


 今朝? 見逃していた?


『まさか、正門から登校したのか?』

『そうだよ』


 そんなはずは……という思いと、久々原は嘘を吐かないという思いが激しくぶつかる。


『久々原を見つけられなかったのは、ちょっとショックだな』

『へへへ。まぁ、でも見つからないようにしてたのは、こっちだし』


 一体、どんな手を使ったのだろう? 皆目見当がつかない。 


『捕まえられなくても、罰ゲームはなしだから大丈夫だよ』


 それでも悔しい気持ちが罰ゲームみたいなもの……と返そうとしたが、捕まえられた久々原が悔しい思いをするのはいけない気がした。まるで悔しさを押し付けてしまっているかのようだから。


『それはありがたいな。でも、捕まえられなかったら、テーマパークをおごろう』

『そんな恥ずかしい』


 悠吾は久々原を笑顔にしたい。だからテーマパークに連れて行って喜んでもらいたいという気持ちでメッセージを送った。それなのにこの返事。テーマパークは恥ずかしいことなのだろうか? 捕まえられないことが恥ずかしいのだろうか? 思考がぐるぐるする。

 一方の久々原はデートに誘われたと思い、ドギマギした。そのため「そんな気を使わなくてもいいよ! 嬉しいのは嬉しいけど。でも、やっぱりちょっと恥ずかしい」という言葉が異様に短縮されてしまったのだ。まずいと考えた久々原は慌てて追加のメッセージを書くも、それもおかしい内容だった。全消ししようと操作したのだが、間違って送信してしまう。


『違って、嬉しいんだけど、まって、恥ずかしくなくて、恥ずかしいけど、』


 完全なナゾナゾの領域である。

 悠吾の思考は停止してしまったが、そのおかげで感じられた。

 久々原は喜んでくれている。

 それは一年という時間を通して育った、久々原への信頼がなせる業であった。自然と『それは恥ずかしい』の裏にも、たくさんの言葉があるに違いないと悠吾は察した。

 つい嬉しくなり、微笑みながら次のメッセージを送る。


『暗くなってきてるから、気を付けて帰らないと。送れなくてすまない。早く捕まえられるように頑張る』


 少しだけ時間が経過した。心配になったころ『ありがとう』という一言に笑顔マークたっぷりの返事があった。

 本当に捕まえたい。

 また笑顔が見たい。

 決意はますます固くなる。




 翌日も悠吾は校門を見張るが成果はなかった。

 お昼時に再び襲撃してもいなかった。

 部活前に学校全体を探してもいなかった。

 とにかく逃げるのが上手い。

 もしくは自分に人を探す才能がないのかもしれない。

 少しネガティブになって自分の席へ戻ってくると、そこには小さなチョコレートが一個と、カードが一枚おいてあった。

『残念☆ でも、探してくれてありがとう。ごめんね』

 久々原の字だ。

 わざわざ悠吾のいない隙をついてチョコレートを差し入れに来た、ということだ。

 手練れすぎる。

 なにかカラクリがある。

 悠吾はひとつの可能性を考えた。

もっとペースを上げられたらいいのだけど_( _´ω`)_ペショ

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