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河童

作者: 吹っ飛んだ布団

今から5年ほど前、私は小学校の教師として、ある村に赴任していた。

まるで50年前から時が止まっているようなのどかな村だった。

教師になって初めての新学期が始まってから三か月が過ぎようとしていたある日、

私は村の七夕祭りの準備に追われていた。

その日は特別時間がかかり、帰りがかなり遅くなってしまっていた。

当時私が住んでいた借家へ向かう途中、七夕祭りのメインステージとなる川にかかる橋を通る。

その村には街灯などあるわけなく、闇の中を手すりを頼りに進んでいく。

今にも朽ち果てそうなその頼りない手すりでさえ、その存在が今は心強かった。

半分ほどまで渡り終えたとき、その橋の下、、、暗くて今は何も見えないがおそらく川のど真ん中の辺りから、明らかに自然のものではない音が聞こえてきた。

何か金属がこすれる様な不快な音で、今にも叫びだしてしまいそうなほど不安を掻き立てられた。

足元のその音の正体を確認したいという好奇心に駆られたが、恐怖からそれを実行に移すことはできなかった。



翌日、どうしても昨日のことが気になり、朝食も済ませないうちに橋の下を探索していた。

やはり昨日の音は暗闇の恐怖からの幻聴だったのか、、、

そんな考えが頭をよぎった。

その時、川の中ほど、昨日の橋から少し下流のほうに、何か虹色に光る握りこぶしくらいの塊が見えた

私は着ていた服を川の水で濡らしながら、その塊を採取し調べてみることにした。


それから毎日、私は暇さえあれば川で拾ったその塊を調べることに熱中していた。

当時発見されていたどんな物質にも似つかない、固く、熱伝導がよく、どんな高温でもびくともしないその塊に、私の心は強く惹かれていった。

しかし同時に、それを調べれば調べるほど私は言葉では言い表せないような恐怖と不安に駆られていった。

そして一週間ほどののち、私は数人の教師と七夕祭りに使う川の下見をしていた。

毎年七夕には紙でできた人形を紙の船に乗せ、流すのがこの村の風習のようだった。


一通り見終わったあと、ほかの教師と別れてからあの虹色に輝く塊を拾った場所に行ってみることにした。

もちろん恐怖はあったが、それよりも好奇心が大きかった。

自分の背丈ほどある草に身をひそめながら 川の中心に近づいていく。

あと五メートルほどか、というところで例の金属の音が聞こえてきた。

ここしばらくの間、自分が探し求めていたものの答えが目の前にある、、、

私の胸はこれまでにないほど高鳴っていた。

目の前の草をかき分け、ようやくその音の正体をこの目で確かめる、、、



とても言葉では言い表せないその生物は、二足歩行をしていた。

全体的に巻貝のようなそのフォルムは、まるで悪意を具現化したかのようだった。

そして人間でいうと頭に当たる、アンバランスで非対称な器官をこちらに向け、

とてもこの世のものとは思えない雄叫びを上げた。

「逃げなければ」本能がそう叫んでいたが私の体はうまく動かなかった。

腰を抜かし、動けなくなっている私に、そのおどろおどろしい顔が近づく、、、

そしてその生物の小さく、一つしかない目のような器官を認識するとともに私の意識は遠のいていった。


数時間後、、、顔の上を虫が這う感覚で目が覚める。


気が付くと私は河原に一人倒れていた。

地平線からはうっすらと朝日が覗いていた。

私は、まだ震えたままうまく動かないその足を奮い立たせ、何とか家に帰ろうとした。

しばらくして家が見えてきたとき、私の足の震えは最高潮に達していた。

見慣れた玄関のドアが全開になっていて、周りは水浸しになっていた。


恐る恐る中を確認すると自分の居室までの廊下が一直線に濡れており居室のドアも開け放たれていた。

しかし、部屋の中は私の予想に反して荒らされた様子がなく、床が濡れており、そして例の塊がなくなっていた。

その日は、私は学校を休み、家で一人震えていた。

自分の命が、周りにあるもののすべてが私のものではなくなり、奴らの掌の上で踊らされているような、

まるで昔飼っていた虫かごの中の虫になったような気分だった。



それからどれくらいたっただろうか、、、

玄関の呼び鈴の音が聞こえた。

気づくと周りは明るくなっており、体の震えも収まっていた。

外から私を呼ぶ声が聞こえる。

そしてこの日は七夕だということを思い出し、祭りが始まる夕方までには出勤できそうなことを外にいた教頭に伝える。

そして夕方、、、私は自分を奮い立たせ何とか例の川まで向かう、、、

私の恐怖と心配に反して、七夕祭りは万事計画通りに実行された。

そして祭りも終わり夜、校舎の鍵を閉めるよう頼まれた私はまたあの場所を通りかかった。

一昨日のことを思い出し、体の震えを感じる。

しかし、私は恐怖と同時に、あのどうしようもなく忌々しい、好奇心という衝動に駆られていた。

あの夜のことは現実なのか、私は幻覚を見るような狂人になってしまったのではないか。

そんな思いから奴らと出会ったあの場所に行足が向いてしまった。

あの夜のように背の丈ほどある草をかき分け、川の土手の中に入っていく、、、

そしてあの日、あの生き物が立っていた所が目に入る、、、

しかし、そこには何もいなかった。

嘘のように静かに、ゆっくりと流れる川の音に、冷や汗でぐっしょりの胸を、同じく震えが止まらないその手でなでおろす


ふぅ、安堵からそんな風にため息を漏らしたその時、雲の合間から月の光が漏れ出した。

そう、あの日のように。

周りの状況が月明かりによって明らかになる。

自分の周りを取り囲む、何十という数のその未知の生物を認識したとき、

私は、


わたしわ、


ワタシワ、、、


私はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああxxxxxxxxxxxxxx










山奥の精神病院の隔離病棟で、その狂人はいつものようにまくしたてるように何も存在しない空閑に向かって叫んでいた。

数十年前にここへ来たその狂人は、ここに来る前は山奥の瓦井村というところで教師をしていたらしい。

毎日誰もいないところへ語りかけ、また発狂するその狂人の話に耳をかたむける者など一人もいなかった





















、、、とある官僚の報告書、、、

「彼ら」と接触し、正体に迫った男の無害化。




完了。

























~狂気は日常に潜んでいる~




「河童」完



こんにちは。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

吹っ飛んだ布団です。

七夕の話なのにいろいろなごたごたからだいぶ遅れてしまいました。

感想など書いていただけると嬉しいです。

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