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糸魔術師の日常  作者: 3号
9/51

打ち上げ花火、横から見たら多分こう

「終わったかな……うぇ!?」


昔、商店街が過去一番の売り上げを果たし、都市が辺境伯の意向により何割か拡大された頃。更なる商店街の発展を願って寄付を募り夜祭を開催した事がある。

出店とかが賑わい、焼き鳥や串焼き、麺料理など陳腐だけど場の空気のせいか美味そうに見える料理が目白押しだった。かくいうエグジムも店の前に屋台を出し、布製小物を売りながら焼きそばを焼いていたものだ。

提灯といったか、異文化好きの辺境伯が取り寄せた赤い不思議なランタンが通りに並び、活気に満ちてた夜の街。

そんな住民の頭上に咲いた大輪の花を、まるで昨日のことのように覚えている。

確か花火といったか。焼きそばを焼きながら見上げるそれは、まさに花らしい可憐さと、街を照らす力強さがあった。

何故今それを思い出したのか。それはきっと、見上げるのではなく真横であれを見ていたならば、こうなっているだろう状況をリアルタイムで体験してるからに他ならない。


「くそっ、また爆発」

「いや終われよ、さっきちょっと途切れたよねぇ!?」


終わらないのだ、トロールへの爆撃が。

結界は常に明滅を繰り返し、今にも破れて消えそうだ。

水に炎に石飛礫に植木鉢。いろんなものが巻き添えみたいに結界へとぶつかってきている。

肝心のトロールは既に影も形も見当たらない。土煙に隠れたか、もしくは本当に吹き飛んだか。これで生きてたら同志と呼んで握手が出来そうな気がする。


「ちょ、保たないぞ!?」

「魔法学校ってこんなところ!? え、怖いんですが!!」

「いや普段はもっと穏やか……のはず」

「ミリリ大丈夫!? だからみんな制服の生地に拘ってたのね!?」


正直思ってた。こんな簡易防具みたいに制服を仕上げなければいけないのか?と。

今納得した。もう少し来年からは頑丈に作ろうと。

そしてミリリの制服については、こんど鍛治師のガンドと打ち合わせをしなければならないようだ。


「くっ、もう解ける」

「あー! ちょ糸、糸!」

「はいストップですわ」


青い顔して結界を維持する少女。慌てて糸を取り出し結界に沿うように組み合わせて盾にしようと頑張るエグジム。

しかし……ピタリ、と。まるで凪いだように止まる爆撃の雨。エグジムと結界の少女はお互いに顔を見合わせ、そして少女は恐る恐る結界を説いた。


「なんか、唐突に止まったな」

「うん、ピタリとね、ピタリと」


ぐらり、と。腰下だけ残ったトロールが地面に倒れる。炭化した断面が向き「ひっ」と悲鳴をあげた結界少女だったが、その声に被せるようにして野太い悲鳴が聞こえてきた。なんか絞め殺される鶏に似ている。

トロールから目をそらす意味も込めて、二人の目が悲鳴の発生源を辿ると、そこには宙づりにされた男子生徒が。


「魔物以外の人がいますのに、なにを乱射するよう促しているのですか? ねえ、ジェラルドさん?」

「うおぉぉぉぉ! 割れる! 割れてしまう!!」


ユーリの細くしなやかな指が男子生徒の顔面を鷲掴みにし、まるで縫いぐるみでも持つかの如く片腕で持ち上げている。

男子生徒は両手でユーリの右腕を掴み、体全体を使って抵抗しているが小揺るぎもせず。


「こ、このゴリラおんぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「あらいい声」


メキメキゴキゴキと聞こえてきそうな光景。見事にキマっている。ジタバタがパタパタに、そしてプラーンになるまでそう時間はかからなかった。


「あのー、ユーリ様。そろそろジェラルドさんを解放してあげてくれないかな?」

「レクさん。ほら受け取りなさいまし」


ひょいと小物を投げるかのように放られたジェラルド。高身長で筋肉質な男がこの字を描いて宙を舞い、やんわり止めに入った男子生徒に受け止められた。

ユーリは受け止めたレクに軽くお辞儀をすると、レクもそれに返す。


「全く。無闇矢鱈と魔法を打てば良いわけではありませんのよ? 皆様も覚えておいて下さいましね」

「「「は、はい!」」」


後ろで痙攣するジェラルドなど眼中に無いと言わんばかりのお嬢様スマイルに、ピシッと直立不動で返事をするのはジェラルド指示のもと魔法を乱射していただろう彼ら彼女ら。彼らはなんだかすこし震えていた。


「エルフィン伯爵家のユーリ様に、ダンモール伯爵家のジェラルド様か。なんとも豪勢な救援だな」

「救援など。教師の皆様の制止も聞かずに飛び出した向こう見ずの集まりですわ。そういう貴方は副会長のフェリム先輩ですわね。魔法の乱射、誠に失礼いたしました」

「構わないよ。彼らも新入生にしては優秀な攻撃だった。危なかったよ」

「重ねて申し訳ありません。それと其方は……貴方も入学されるのですわね、エグジム」

「いや友人の入学式の付き添いだよ。迷ったけども……」

「あら、それは残念です。あの実力なら入学されれば良いのに」

「あいにく、いち市民に過ぎないもので」

「学費も国持ちですし、身分の定めもありませんのよ?」

「仕事がありますので」

「むぅ……」


エグジムのにべもない反応に唇を尖らせるユーリ。強烈なアイアンクローを見た後でも可愛らしいと思うから恐ろしい。今まさに担架に乗せられているジェラルドが見えなければ、可愛らしい令嬢にしか見えないだろう。


「分かりました。この話はまたの機会に改めて致しましょう。では私は入学式に戻らせて頂きます」

「あ、まだ終わってなかったのか」

「ええ。今は校長の青年期が終わったあたりですわ」

「え、青年期……?」


とりあえずまだ続いてるなら行ってみよう。と、後ろから肩をがっしり掴まれたので振り返ると、結界少女改めフェリムが無言で首を振っていた。


「やめとけ、多分校長がノってる。後悔するぞ」

「……? いや、でも約束だし」

「忠告はしたからな」


割とあっさり解放してくれたフェリムへと中途半端な別れを告げ、心持ち足取りの遅い生徒たちについてホールへ向かう。これで迷子ともおさらばと喜びさえしながら。

数十分後、表情をなくした人たちが集まるホールの片隅で、人の忠告は聞いとくべきだったとエグジムは後悔していた。

……まさか、校長が今までの人生を一気に語り尽くすとは、思ってもいなかった。

書いては吐き出しの繰り返しですので、後から読み返したとき違和感あれば、加筆修正していきたいと思います。

よろしくお願いします。

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