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糸魔術師の日常  作者: 3号
50/51

母は強かった(白目)

「それでね! リタリカ様は氷の魔術を展開してオーガを一撃で……」


ミーシャ先生による大演説会。観客エグジム、燃え尽きたビリーム。副講師レミ。あらあらふふふ、リタリカ。

エグジムが作ったボアの香草焼きでの夕食を終えた食卓で既に2時間……氷雪のリタリカ武勇伝特別講演会は開催されていた。

とりあえず分かったことといえば……母がとても強い傭兵だったことと、かなりヤンチャしてたこと。母の仲間もかなり強そうといったことくらいか。

しかし、不思議なことに父の名前はあまり出てこない。


「そういえば、親父は?」

「父さんも実は出てるのよ?」

「え、そうなの?」

「ほら、仲間に『鎧の守護騎士』って出てきたでしょ?」


それは武勇伝の一部。

全身鎧に大剣を装備し、仲間への攻撃を受け止めて常に最前線で剣を振っていた剛の者。

特にフレイムドラゴンとの戦闘の時などは灼熱のブレスを体験の腹を盾にしてしのぎ切り、

大きなやけどを負いながらも仲間の誰よりも先陣に立ち最後まで剣を手放さなかった。

その背中に同じパーティーの仲間だけでなく、その時に協力していたほかの戦士たちまでも勇気をもらい

最後まで戦意を失わずに戦い続けられたという。

目立った攻撃力も特技も無い。ただそのタフネスで回りを支えた頼りになる柱。

それが氷雪のリタリカの仲間にして『剛剣』『守護者』などと呼ばれた男。


「ん、そういえば剛剣って」


つい先日、エルフィン家で聞いた話題を思い出す。

母親は氷雪、では父はなんと呼ばれていたか。

はっとなり横に顔を向ける。

そこには、今にも倒れそうな燃え尽きたような、もしくは枯れたような

父が左右に揺れながらなんとか椅子に座っている。

まさか、いやいや、これは流石に……。


「ねえ親父……。傭兵時代はどんな感じだったの?」

「……」

「ねえって!」


肩をつかんでガクガクと揺さぶると、急にビリームの泳いでいた視点が定まり、リタリカを見て

目を見開いた。


「もう勘弁してくれ……これ以上は……」

「いや、しっかりしてくれ。話は分かってる?」

「あ? なんだエグジムどうしてここに!? ってあれ、ここは……」

「リビングだよ。ちなみに夕食終わったところ」

「そうか……どうりで空腹感が無いわけだ……ミーファさんとレミさんもお帰り」


周囲を見回してそこが『リタリカと先ほどまでいた』場所ではないことに気が付いたビリーム。

途端に落ち着くと居候二人娘の帰りを喜んだ。

息子によその娘が二人。これ以上は『延長戦』がないと悟り安心した様子。


「親父。話は聞いてた?」

「とりあえず、ぼーっとな。んでなんだっけ、俺がいないってやつだっけ」

「それより進んでるよ。今は『剛健』とかのあだ名を持つ傭兵が親父じゃないかって話しているところかな」

「そうかぁ……結論から言うとな、それ俺だわ」

「この親父とは似ても似つかない騎士が?」

「そう、俺」


曰く、鍛えた身体で装備品を身にまとい、自身の頑強さしか誇れるところのなかったビリームは、せめて

仲間を守る盾になろうと、装甲を厚くして常に前線に出ていたとのこと。

そこを当時一緒のパーティーを組んできたリタリカが何とも打たれ弱いというか……危なっかしい装備しかしていなかった

もので、どうにも気になってしまい……ついつい何度も守るうちにそういう仲になったとのこと。

ここでミーファが発狂した。


「氷雪のリタリカ様、光刃のシュバルド様、祝福のマリアテレサ様、鉄拳のガンド様と英雄がそろう中で剛剣、守護騎士としか

分かっていなかった5番目の英雄がビリームさんだったなんて! 感動です!! 握手してください!」

「お、おぉう? 握手……今更?」


確かに暫く同じ屋根の下で暮らし、時には仕事の手伝いまでお願いしていた相手に握手と言われても……といった所だろう。

しかしファン心理とはそんな理屈が通用するものではなく、半ば強引にビリームの手を取り握手したミーファは、そのまま満足げに

握手した両手を見下ろしたまま席に戻った。


「すいません、ミーファったら先人の傭兵について調べるうちに貴方達の活躍を知ったらしくて……それ以来目標にして憧れているん

ですよ」

「そういう事か……」


疲れ切った顔から一転、しょうがないなという空気を出しつつミーファに『ファンでいてくれてありがとうな』と声掛けするビリーム。

ハッとして感動したように瞳を潤ませ、そのまま時間が静止してしまったミーファ。

対して目が座るリタリカ。ビリームは気が付いていないっ!


「あなた、相手はエグジムと年の近い相手なのに……」

「はっ……!!! ま、まて! 違うぞコレは! そのだな……息子の友人へのせめてもの助けと思って許した下宿であり、決して下心があったわけじゃ……」

「はいはい、言い訳は場所を移してやりましょうね~」


フフフ……と上品な笑みをこぼしつつ、自分より圧倒的に体格のある旦那様の襟首を捕まえて会談へと引きずる母。

そのままリタリカとビリームの夫婦は二階の寝室へと消えていった。

暫くしてからかすかに聞こえるのは、何かがきしむ音と二人の声の断片。


「……」

「…………」


両親仲がいいのは良いことだが、こういう察せられる状況はご勘弁願いたいのがエグジムの本音。

それはレミも同じようで。


「仲のいい両親ね」


それだけ言ってふんわりとほほ笑んだ。

何とも上手い返しだなと、現実逃避気味に受け取ったエグジムだった。





そして、さらに数時間後……というか朝。

エグジムは何とも微妙な顔で正面を見た。


唐突に連れ去られたビリームを見送ってしばらくした後


「これはもうお開きね。明日以降にまた話があればお願いします。ほら、寝る準備しよ?」


とレミの仕切りでその場をお開きにし、多少の家事を終わらせたのが昨夜のこと。

いまだ固まるミーファをそのまま放置し、エグジムとレミは『また明日』とタッチを交わしてそれぞれの

寝床へと潜り込んだ。

かすかに聞こえる夫婦の時間を聞かないようにしながら。次第に眠りへと落ちていった。

レミもきっともう寝ているだろう。ミーファは……そのうち休んでくれることを願う。

ただでさえボア狩りで体力を使っているのだ。寝なければ持たないだろう。

なんて考えているうちに、気が付けば朝。夢など見る余地もない熟睡。

きっと居候二人も寝てくれただろうと信じて起きてきた時のための朝食を作ろうと身を起こしたとき、ふいに声がかけられた。


「おはようございます。ずいぶん早いのね~」

「はっ……母さん?」

「はい! お母さんですよ?」


習慣とは恐ろしいもの。空を見るとまだ夜が明けておらず、いつものノリでベッドに上半身だけ起こして身をひねるなどして

自身の調子を確かめようと思っていたところにかかる母の声。

目をこすって声の方を見てみると、小ぶりな盾を持った母がにこやかに告げてきた。


「朝の運動は大切よ。さあ、成長を見せてください」

「うそでしょ?」


母は笑顔、邪気のない笑顔。

なんかいろいろと諦めたエグジム。おとなしく母が渡してくれた剣の形状をした巨大なハサミを受け取った。

ガンドが作り上げたエグジムの専用武器。これを持って訓練するよというわけだ。

朝から厳しい一日になる。それをエグジムは覚悟した。













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