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糸魔術師の日常  作者: 3号
44/51

追うもの

アンダーウッド平民街の貴族街寄りにある一軒の二階建て住宅、平民の中でも特に裕福だろうと伺える佇まいだが、

特に目を引くのはその庭の広さだろう。

自宅建造物のおよそ二倍の面積を占める庭は大きく二つに分かれており、一方はよく庭と言えば想定するであろう、

家庭菜園や花壇などがある憩いの空間。もう一方は対極的に草木のほぼないむき出しの地面。中央部はよく整備されており、

外周部には木製の武器や使い込まれた的などが並ぶ訓練場になっている。

身分として平民街に家屋を構えているが、扱いとしては貴族にほど近い位置にいる彼ら。

騎士団副団長であるオルフェリアと、風紀員会会長フェリムの二人で暮らす家だった。


「すまん、待たせたな」

「おかえり、姉さん」


夕飯時には少し遅い時間の帰宅をした姉をねぎらい、上着を受け取るフェリム。

自宅のソファーに身を投げ出し、大きく息を吐いたオルフェリアはそのままフェリムの渡した水を一気飲みした。


「はぁ……やっぱり自宅は一息付けるな」

「最近はあの事件で手一杯だから……進展は?」

「そうだね、少し話そうか」


騎士団副団長と、風紀員会会長。正式に騎士をまとめる女傑と会長とはいえ一学生の二人だが、今回の件については

協力して動いていた。というのも、学園も当事者と言えるからだ。


「まず私からかな」


フェリムが手作りの夕食を配膳して、エプロンを外す。


「まず犯人だけど、ほぼ間違いない……うちの魔獣対策学教授のエンボス・ダクト準男爵さ」

「やはりか……彼の人となりは」


濡れた布巾で手を清め、ワインを片手に食卓につくオルフェリア。


「姉さん、食器出して」

「ああ、すまん」

「で、人となりだけど……ほとんど評価されない、人付き合いも薄い人間ってところかな。あと貴族的思考も

強いみたいな感じかな。いや、同じ貴族であっても付き合おうとはしなかったか」

「ふむ……私のところに届いている評判と似てるな」

「あれ、食い違いあった?」

「いや、フェリムの方がよほど詳しいってことさ」


配膳された湯気を立てるシチューと簡素なパンの夕食。

贅沢とは言えない内容だが、充分すぎるものだ。

オルフェリアが二人分の食器を並べ、二人向き合い席についた。


「では、今日の糧を神に感謝し……頂きましょう」

「ああ、加えてフェリムにもな。いつも家事を任せて申し訳ない」

「いいんだよ。姉さん忙しいし」


二人の亡くなった両親は共にエルフィン伯爵に仕える軍人だった。

魔族の侵攻で帰らぬ人となったが教えは二人に根付いている。

……そのせいで女性らしくない、かわいげのない口調に育ってしまったが。


「んで評判はさっき言ったとおりだけど現状ね、消息不明だよ」

「当然だな。これで何食わぬ顔で学園に出勤してたら大物だ」

「おかげでこっちじゃ、それ以上の現状は調べられないよ。あと魔法がゴブリンを召喚して使役するって事かな」

「それはゴブリン限定か?」

「トロールのことだね。それは学園に捕獲しておいたのを暴れさせたのであって、ダクト本人が召喚したわけじゃない

っていうのが学園側の見解だよ」

「なるほどな……ありがとう」

「んで、姉さんは?」


シチューにパンを浸して食べる姉妹。妹はパン多めで、姉はパン少なめの代わりにワインをグラスへ。

二人きりだが、どこにも寂しさは感じられない。

会話は年頃の娘にしては色気が無さすぎるが、それでも、程よく寛げる空気感がある。


「私の方はだな、まず被害状況だが……治療を要したほぼ全員が程度の違いこそあれ魔力を強制的に抜かれていた。

それ以外の者は監禁されていただけか、恐らく拘束時のものと思われる傷を負っていた者だな」

「強姦とかは?」

「幸いにしてなかった。まずは魔力を接収して魔術へと還元することが目的だったようだ。あと転移の座興も大雑把にだが

把握した。奴は西の森、深いところに逃げたようだ」

「西の森か……魔物も特別に強いって訳じゃないね……乗り込むの?」

「その予定だ。私直属の騎士が中心となって襲撃する」

「そっか……姉さんも?」

「ああ」


そう静かに返事をするオルフェリア。数秒後、テーブルを回りこんできた妹に彼女は抱きしめられていた。


「……毎度だな。大丈夫だ」

「…………わかってはいるけどね、それでも、母さんたちのことがあるし……気を付けてね」

「ああ、無事に帰るさ」

「約束だよ?」

「約束だ。というよりフェリムの方が最近は怪我が多いじゃないか。お前の方こそ気をつけろよ」

「あはは……精進します」


少し体を離してお互いに心配しあい、少し笑い合う。

彼女らはアンダーウッドを守ることに全力を尽くす。

両親が、命を懸け守り通した都市だから。






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