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糸魔術師の日常  作者: 3号
39/51

突撃!友人宅!

「では招待状を拝見いたします」

「あ、え、はい……」


拝啓、店で今頃死んでいる父よ。

私もメンタル死にそうです。


「ではご案内いたします」

「はい……」


確かに招かれた。エルフィン伯爵家家紋の封蝋が押された手紙をもって。エルフィン伯爵の名前で。

しかしだ、平民なのだ。この身は。

使用人からの出迎え、兵士の見送り、他人の手で開かれる重厚なドア、すれ違えば会釈するメイド。

早くもキャパオーバーだ。助けてくれ。


「では、こちらの部屋でお待ち下さい」


優雅に……そう、まるで貴族教育でも受けたかのように、平民ではまず見ない礼をしてみせるメイド。

やめてくれ、自分にそんなもの向けないでくれ。

「少し待っててね」くらいでちょうど良いのだ。


「どうぞ」


どうぞではない。高そうな紅茶を置くな。背後の壁で控えるな。そもそも自分は何故高そうなソファーに座っている? これひとつで店の売り上げどのくらい分だ? いつ間にか紅茶の横に焼き菓子まで置かれている。だめだ、これ高いやつだ。


「あ、あの……」

「如何いたしましたか?」

「あの、どうか、お構いなく」


社交辞令ではないぞ。ただの本音だ。

察してくれ、むしろ場所を変わってくれ。俺が壁でメイドさんがソファー。きっと地位的にもそれが自然だ違いない。

しかしメイドさんは頷かない。


「いえ、とんでもございません。お客様へ失礼はできませんので」


むしろこっちが、とんでもございません。

壁際に立っていた方が落ち着けるというのを、なぜ分かってくれないのだ。

このソファーいくらなのか。このカーペットも。テーブルクロスも。絶対高い、布地だけで高い。分かるのだ仕立て屋だから。高いかくらいは分かるのだ。上限が分からないだけで。

もし紅茶を一滴でもこぼそうものなら、店も自分も吹き飛ぶかもしれない。そんな考えが拭えないのでテーブルの上のものに何も手をつけずにいた。

お茶がどんどん冷めていく。


「お口に合いませんでしたか……?」

「とんでもないです!」


メイドさんの悲しそうな声。慌ててカップを掴み、グイッと一口。途端に口内に溢れる芳醇な香り、旨味、酸味に甘さ。うちで使っている来客用のお茶すら足元にも及ばない紅茶を馳走になってしまった。はっきり言ってうまい。


「ふふっ、おかわりは?」

「お構いなくっ!!」


口元に手を当てて上品に笑うメイドさんに、そう返すのが精一杯。もうアレだ、ここまで来たら焼き菓子も食べて良いんじゃないだろうか。一個いくらだろ、もう考えなくていいかな。ああ、ソファーが座り心地良すぎる……。


「エグジム来たわね!」


お構いなくって言ってるのに紅茶のおかわりを注ぐメイドさんを前に固まってると、少しのノックののちに堂々とユーリが入室してきた。

思わず一言。


「遅いんだよ! よく来てくれた!!」

「え、な、なんですの!?」


この慣れない環境、緊張しかない室内で少しでも顔見知りの友人がいる有り難さは、まさに救いの女神が降臨したに等しい気分だった。








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