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糸魔術師の日常  作者: 3号
36/51

納品と新装備3

「どう、最近作ってるお茶だよ。美味いだろ」

「あ、ほんとに美味しい」


所変わってガンドの店裏手の休憩室にて。エグジムはダーナに出されたお茶を啜っていた。

何種類かのハーブを混ぜているのか、渋みと香りが口にやさしく広がっていく。


「良かったよ。うちの人ったらあんまり味分からないみたいでね」


ダーナもエグジムの体面に座り、ゆっくりとお茶の香りを楽しんでから口をつけた。

そこだけ見るとどこかの貴族婦人みたいだ。

鍛冶屋手伝いのシンプルなエプロン姿が違和感であり、少し笑ってしまった


「確かに茶はよくわからんな……酒の味ならよく分かるぞ」

「あら、早かったのね」

「早く見たかったからな」


控室のドアを豪快に開け、しっとりと濡れたガンドが髪を拭きながら入室してきた。

エグジムの目が点になる。


「あれおっちゃん、ひげは?」

「ああダーナが苦手みたいでな。気が付いたときに剃ってんだよ。まあ忘れがちだがな」


ガンドは炭鉱と鍛冶を得意とし、戦士としてもそのパワーとタフネスさで重戦士並みの力を発揮する種族「ドワーフ」の血をひく者である。故にその価値観はドワーフと似ている部分が多い。

故に髭を剃ることは大きな意味を持つ。

ドワーフにとって髭はステータスなのだ。

大きく豊かなほど、それを維持する富と積み重ねた年月を誇示できる。年月とはつまり家事の技術であり、蓄積した強さに他ならない。つまり手入れが行き届いた勇壮な髭はそれだけでドワーフ族の男としての勲章なのだ。

故に髪は剃っても髭は手放さないドワーフも多い。

しかしガンドはそれを切るどころか剃った。

これは大きい。ドワーフの価値観よりダーナの好みを優先させたのだ。ダーナがガンドに惚れたのは、きっとこういう部分もあるだろう。

髭を剃ったガンドは小柄で筋肉質な若頭といった雰囲気に早変わりしており、一気に外見年齢がおっさんからダーナの同年代くらいには落ち着いた。

劇的外見年齢ビフォーアフターである。

そんなガンドは水を拭うタオルを肩にかけ、小脇に抱えていた大きめの包みを壁に立てかけた。


「お前さん、そりゃ何?」

「ああ。こいつか……こいつはまた後でな。まずは作業着を見せてくれや」

「勿論! ほいこれ」


広げて見せたのはジャケットの上下。

ロックリザードの革を丁寧になめし、所々に鱗模様のアクセント。耐火性や耐刃性も勿論ながら、肩口のガンド武器店の文字がキラリと光る。


「おお! こいつはいい。ロックリザードの革を上手い具合に使ったな! これは長く着れそうだ」


ガンドも気に入ったのか、すぐに試着しては男臭い笑みを浮かべていた。ポケットの具合を確かめたり、無意味にズボンの布輪に金槌などを吊るしては楽しそうにはしゃいでいる。


「全くナリだけ大人になって中身は子供なんだから……でも良いの作るようになったじゃないか」

「喜んでもらえて良かったよダーナ姉さん」


試しに鍛冶場に行ってくると、応接室を飛び出したガンドを見送り紅茶を一口。仕事やり切った後の一杯はどうしてこうも染みるのか。


「クッキー食うかい?」

「いただきまーす」


くぅ。糖分が染みやがる。


「こいつはいいな! 暑さも軽減火にも強い! まさに鍛治向きだ!!」


数分後、なんとも高いテンションで帰ってきたガンドは早くもジャケットを着崩しており、馴染み方が半端なかった。


「あんた、なんか軽く打ってきたろ。さっそく汚して」

「あ、これなんだけど濡れた布で拭くと取れるよ」

「そうかい? いやでも鍛治の汚れってかなり頑固だよ……って、すごいね、本当にとれたよ」

「いい素材だからね!」


炭の汚れも鉄粉も、沈着することがないので表面だけに留まり拭くことで綺麗にできる。ロックリザードの革はまさに過酷な環境で作り出された良質な素材。

その上皮の特性上、熱のシャットアウトができるから、体力を奪う鍛冶場の高温環境を少しでも軽減することができる。これはダイレクトに作業時間に直結し、生産性が目に見えて上がることになるだろう。

このジャケットだけでも欲しがる鍛冶屋は恐らく多い。

となると値段もその分、お高くなるものだ。

作ることに集中するガンドに代わり、店の経理や商品の販売を請け負っていたダーナにはよく分かる。このジャケットの商品価値が。


「ちなみにエグジム、これはいくらだい?」


分かるから少しビビってしまう。

なぜならもう、ガンドはジャケット上下をしっかりと着用してしまってるからだ。使用感を刻み込みつつ、なんなら作業までしてしまった。このジャケットは最早中古品だろう。買わざるを得ない。

できれば身内価格にしてほしいというのが、ダーナの正直な気持ちだ。

しかしそんな妻の心配は夫によって弾き飛ばされる。

新しい服にはしゃいでいた夫によって!


「代金ならもう用意してる! ほらエグジム、そこの包みを持ってみろ」

「これ?」


ガンドが指差すのは、水浴び後に彼が抱えてきた大きな布包み。よく見ると幅の広めな棒状のものが入っているのが分かる。


「……剣?」

「いいから出してみろ」


俺別に剣には興味ないけど。

そう思いつつ布を解くエグジム。しかし中身を見た途端にその目は怪訝なものに、ついで驚きに見開かれた。


「お前も外に出るようになったんだ。武器くらい持っとかねーとな!」


ドヤっと胸張るガンド鍛治士。

見た目は幅広のロングソードに近い。

鞘に収まった刀身はエグジムの腰ほどまであり、そこからハンドガードが刀身の刃に準じて「両側」についた柄が備えられている。

しかし本来強固な一本の持ち手であるはずの柄はセンターラインを基準に二つに分かれており、ハンドガードをそれぞれ掴み引っ張れば左右に裂けてしまいそうな印象をうけた。

いや……そもそも……むしろそれが本来の使い方か?

サイズはオカシイが見慣れたものかもしれない。エグジムは若干の予感を覚えつつ刀身を鞘から抜き……予感が的中してることを悟った。


「えっとおっちゃん、これって」

「はっはっは! そう! これぞロックリザードの骨を芯材として使い、魔物素材との相性の良い魔鉱石を使用して鍛え上げた渾身の一作! 名付けてバトルシザーだ! 魔物の革だって鱗だって、布切るみたいに裁断できるぞ!」






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