表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸魔術師の日常  作者: 3号
35/51

納品と新装備2

交易都市アンダーウッドは円形の都市である。

中心部にいくにつれ高級な住宅や高官たちの利用する設備が増えていき、中心にはアンダーウッドを統治するエルフェン伯家の屋敷……というよりむしろ城が鎮座している。

逆に外縁部に向かうにつれて貴族から官僚、平民と生活環境は移っていき、再外部にはのどかな田園地帯が広がっている。

これは商店街にもいえる理屈であり、中心に近いほど高級な店が増えていく。宝石店や高級志向のレストラン、貴族御用達の輸入雑貨店などなど、半ば貴族街に入りそうな場所にデカデカと店を構えている。中心地に近いというのはブランド力としての一種のステータスでもあるのだ。

ちなみに服飾店「猫のひげ」は商店街のど真ん中、バリバリの平民ゾーンに位置している。これは身分関係なく仕事を受けるというビリームと、高級志向より広い商機だと考える母の意見が合致した結果である。

猫のひげが位置する中心点周辺は服屋、家具、寝具に始まり食品や酒類、金物店、そして庶民向けの食堂まで、多種多様な種類の店舗がひしめいている。まさに庶民の生活の中心点といった様相。都市に住む人は言うまでもないが貴族よりも平民のほうが圧倒的に多い。ゆえにこの区域はいつも人が溢れて賑わっている。

そして更に外周へと向かうと、商店街から店舗は半減し、その代わりに目立つようになるのは工房の数々。

職人区画へと変わっていくのだ。

これは作業の時に出る音がトラブルを呼び込まないように貴族区画からなるべく遠ざかりたかった心理と、大きな素材を搬入するとき、外周のほうが面倒が少なかったこと。加えるならば作業のため広い土地を必要とする分野も多く、そんな土地を確保しやすいのが外周だったという理由もある。

(ちなみに同じ理由で軍の修練場も外周寄りに整えられている)

この区画は商品の仕入れに来る商人や、武器防具の作成を依頼する戦闘職の方々など、品質と腕を求める人間が多く行き来する。


「たのもー」


そんな職人区画のうち、特にシンプルかつ武骨な外見をした店の門を叩くエグジム。

しかし、聞こえている気配はない。


「おーい、おっちゃーん!」


声を張ってみる。しかしガンガンと激しい作業音に容易くかき消されてしまう。

まあ、いつものことだった。


「おじゃましますよっと」


勝手知ったる馴染みの店。父親であるビリームとガンドは昔からの友人であるらしく、エグジムも昔からとても可愛がられていた。

職人の可愛がり方なので客観的に見たら厳しかったし、よく手も飛んでいたが。

エグジムにとっては昔から知っている叔父さんの様な認識だった。


「相変わらず凄いな……」


店内に入ると手入れの行き届いた武具の数々。

服飾が専門であり鍛冶には明るくないエグジムであるが、それでも一級品ばかりというのは容易に判断できる。

しかし物は良いのに……半数以上のものが大樽に突っ込んであったり山積みになっていたりと、絶妙に扱いが雑なのだ。

きっと自分がこれだと思った作品以外は二級品と判断して売っているのだろう。値段をつけるのもきっとガンドではなく奥さん。

容易に想像できる。


「あら、来ていたのかい」

「あ、ダーナ姉さん!」


店の奥から偶然出てきた女性がエグジムを見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニコリと人好きのする笑顔を浮かべた。

長身のスラっとしたスタイルに、均整の取れた体付き。

癖のある赤毛をふんわりとした三つ編みにして左肩口から前に流している彼女は、エグジムの頭をワシワシと豪快に撫でてきた。


「またちょっと大きくなったかい」

「なに言ってんの、ついこないだ会ったばっかじゃん」

「そうだっけね。あははは!」


三十を過ぎても変わらない美人具合。筋肉だるまのガンドとダーナの組み合わせは職人区画の「美女と野獣」として

職人仲間にやっかみと親しみとやっかみを込めて呼ばれている。

ダーナは昔も今もモテるのだ。しょうがない。

職人区画の七不思議に「なぜガンドはダーナを落とせたのか」という項目がマジメに入っているくらいなのだから。


「あの人に用事でしょ? その包みかい」

「そそ、新しい作業着持ってきたよ!」

「へー。いいね、私も見たい。んじゃついておいでよ」


頑固職人と美人女性。

しかし内情を知っていれば納得する。


「おーい。あんた。お客さんだよー」


ガンガンガン


「おーいって」


ガンガン!


「おい」


ヒュ、ガツン


「ひいっ」


今まさに振り下ろそうとしていたガンドの金槌。その寸隙を大ぶりのナイフが掠め壁に突き刺さった。

続けてガンドの顔面すれすれを二本、小型のナイフが通過する。


「さっきから呼んでんの。聞こえた?」

「お、おう……」

「よし! エグジム来てるよ。そろそろ休憩しなさいな」

「……うす」


金槌を堰き止めるナイフの輝き。危険は人を素直にする。

ガンドとダーナの関係性。それは完全なるカカァ天下の図だった。


「ようエグジム。どうした」

「あーうん。ほら、出来たよ作業着」

「おお! んじゃ早速試してみるか」

「あんた、こんな所で着替えたら折角の新しい服が汚れるでしょ。ほらはやく水浴びてくる」

「うっ、いやしかしだな。作業着は汚れるもので」

「返事は?」

「……行ってきます」

「よし、行っといで。その間にエグジム君は休憩室で待っててね。あ、お茶持ってくから」

「あはは……お気になさらず」


火事場を背に中庭の井戸へと向かうガンドは、筋肉で鎧われていながらも、どこか小さく見えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ