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糸魔術師の日常  作者: 3号
34/51

納品と新装備

「よし、これをこうして、この部分の革はこの色で……いいねいいね布地の色と合う! ここの

縫製は補強して……できた!」


誘拐事件だの集団寝坊事件だのトラブルさんご来店からのオーダー受注だの。

数々のトラブルと仕事を乗り越えて、今1つの結果が実を結んだ。

主な素材はロックリザードの革と硬質布。

熱に対する耐性を持たせるために、氷の魔石を砕いたものを混ぜ込んだ薬液で加工。なめしたロックリザードの革は青色に変色しており、涼しげな印象を与える。

うろこを剥がした表皮には独特な模様が残っており、単一な表面よりもレリーフのようなデザイン性を革素材自体に持たせている。

これに合わせるのは「対刃」と「剛性」に優れた硬質布と、通気性に優れた木綿だ。

関節など要所要所に通期のための木綿を挟み、その部分が露出しきらないように硬質布でガード。

腕や足、同祭部など強度が必要な個所をロックリザードの革で仕上げていく。

こうして作り上げたのは、下履きと上着が一体となった作業着、いわゆるツナギというものだ。

たかが作業着、されど作業着。一日の大半を職人とともに過ごす相棒だからこそ手は抜けない。

最高の着心地と機能性を持たせつつ、アクセントとしてのデザインも忘れない。

ここ最近では上位に位置する作品の完成だった。


「やりきった……」


正直、最近は神に感謝している自分がいる。

協会なんぞボロい商売、神なぞお布施をたかる都合のいい存在程度に思っていた自分が

自分から礼拝に参加してもいいと思うほどだ。

結局思うだけで行かないのだけれど。

それほどエグジムは神に、具体的にはこの魔力を授けてくれたことに感謝していた。

エグジムの魔力の性質は「無」。これは多いようでいてあまりいない性質だ。

つまり、それまでの生活で一度も自身の魔力を感じたことも利用したことも無いとの証明。

ゆえに変な癖がつかず、指向性も全く定まらない純粋な魔力として残っていたこと。

両親のどちらかが魔法を使っているのを見れば、そうでなくても近所の人が使っているのを見れば、

魔法の登場する物語に触れれば、子供はおのずと憧れを抱くもの。

憧れのままに、自分もできないかと試すものだ。挑戦心のままに。

その時は何も起こらないかもしれない。しかし子供の想いは純粋だ。一途な挑戦は次第に自分の中の指向性を定め、やがて魔力に「型」として定着する。

これを診断し固定するのが成人式の日に執り行う「洗礼」とも言えるだろう。

貴族など、血筋による影響で魔法にある程度の「癖」がついている場合や、教育による「誘導」がある場合。

もしくはもって生まれた才能など魔力の質が決まる要因はほかにもいくつかあるが、最初が「無」で始まる

場合は成人までの年月である程度決まるのが殆どなのだ。


しかしエグジムは決まらなかった。

父親が魔法をほぼ使わず、更にエグジム自身が神など知らんとばかりに礼拝をサボりまくり、結果として魔法というものに関わりのない人生だったのが主な要因だ。

更に子供時代の「魔法すごい!」と憧れる時期が無かったのもあるだろう。エグジムの中では興味持つのは家業の事であり、関心があるのは服作り。

魔法なんて言って遊んでる暇があるなら親の仕事を見学して、簡単なものから手伝い始めていたのだ。

もちろん友人間で遊ぶことも相応にあったが、そこは育った環境による。みんな実家が商店街の一部なのだ。むしろ店を手伝わない子などいなかった。

子供も貴重な労働力なのだ。さもありなん。

ゆえにエグジムは成人の儀式を受けるまでは魔法に対してノータッチ。珍しいナチュラルな魔力がずっと保たれていた。


ここまでが成人の儀式の話。


ならなぜ、糸なのか。

答えは単純。徹夜作業の極限状態が原因である。

魔法の習得には最初、使いたいという「意志の強さ」が重要だ。その気持ちが純粋であればあるほど、混ざりけなく純粋な形で魔力は性質を帯びていく。

カーテン屋の親を助けたい、もっと気持ちのいい空気でカーテンをきれいにしたいと思ったキャロのように。

食品を凍らせて、食の貧しい地域へと商品として輸出する父親の背を見たミリリのように。

子供の素直な憧れは、素直な形で魔法として成る。


ということはだ。


その他のことがまるで考えられない徹夜という極限の中、早く終わらせたら眠れるという生存本能により、研ぎ澄まされ導き出された「糸を操る力」。

針に糸を通し、針を刺し、抜き、合わせる。その工程すら睡眠のために脱する必要がある所まで追い詰められた身体。しかし不完全な服など世に出せないという職人としてのプライド。上手くなりたい向上心。

これら想いが子供の憧れに劣るだろうか。

いや、劣りはしない。

むしろ命や誇りが関わる分、憧れなど凌駕さえしていた。

背後に迫る納期の足音に追い立てられ、身体は悲鳴をあげ、打開するには糸を支配するくらいでなくては希望も見えない。そんな中での唯一の打開策。


まさに命懸けで得た魔法なのだ、この「糸」は。


故にこの糸のポテンシャルは高い。

本気でやれば建物や地面さえも縫い、ロックリザードやトロールさえも拘束する。

つまりは「どんな硬い素材も縫える」と言い換えれるのだ。

手縫は酷かった……布地はいいのだ、普通の皮もまだやりようはある。しかし魔物の革だったり鱗だったり、はたまた特殊な素材だと手に負えないことも多い。

太く頑丈な針で何とか塗っていくのだが、ひと針ごとに体力と筋力を削られる。太いとはいえど針なので限度があり、折れることも珍しくない。

何本針を折ったことか……。

しかし今は違う。今まで出会った素材では縫えぬものはないと確信しているのだ。針の損耗なく、時間も大幅に短縮して!


故に作れた新商品。


今回ガンドにはジャケット上下を納品予定だが、このツナギも新商品として見せてみようかと思っている。

素材が素材なので高くはつくが、上手くいけば新たな商機に繋がるかもしれない。


「……よし! 親父、ガントさんところ納品行ってくる」

「おーう。気をつけろよー」






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