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糸魔術師の日常  作者: 3号
28/51

無事を祈って

反応は僅か。

 しかし、確かに自分自身の魔力を感じた。

 下水の奥、その一角に。


「行ってきます!」

「いやいやいや、ちょーっと待って! え、このまま行くの!?」

「そうですが?」

「そうですがじゃないでしょ! 騎士団の人とかに知らせるのが、ね?」


 確かにそうだ。素人が一人で突っ込んだところで事態を悪化させる可能性もある。騎士団に通報して対応を仰ぐのが正解だろう。

 しかし、通報したとて、実際に動くまでどのくらいかかる。

 エグジムたちの言う事を、すんなり騎士団が信用するだろうか。

 何より、その間にミリリが無事な保証はあるか。

 冷静ではないと言うなら言え。愚かだと非難するなら勝手にしろ。

 

「なら俺は先に行くからミーファさん達が騎士団の人に知らせて」

「えっ! ちょま!」


 制止するミーファの言を最後まで聞かず、下水の中に飛び込むエグジム。

 チラリと後ろを振り返ると、レミが小走りで駆け寄ってきた。


「もう、仕方ない。私が一緒に行く。騎士団にはミーファが知らせるから」

「ありがと」

「あとからお説教だからね」


 手甲のスリンガーに球を込め、腰の短剣へと手をかける。エグジム1人だけでは心配と、援軍に来てくれたのだろう。


「なに、ニヤけて」

「なんでも」

「ほら、私場所わからないのよ。先行って」


 軽く背を小突かれ、エグジムを先頭に下水を進んでいく。

 下水管は腰をかがめないと進めない程に狭い物で進むのが大変だったが、少し奥まった辺りで壁に突き当たった。糸はその先に伸びている。


「確かにこの先のはずなんだけど」

「……見せて」


 場所を入れ替えレミが前に出る。エグジムに詳しい場所を聞き、壁を叩いたり周囲を観察する事しばらく。壁の隙間に太めの針を刺したと思ったら、レミは勢いをつけて壁の一部を蹴り付けた。

 ドンと思い音がしたかと思うと、長方形に切り取られ向こう側に倒れていく壁。その先には普通に通行できるだけの広さを持った石の通路が伸びていた。


「おぉ、隠し扉」

「下手に開けると矢が発射される罠があったわ。でも先に止めといたから安心して」

「……流石です。助かりました」


 エグジムだけだと隠し通路は見つけられたとしても、矢は見つけられずに食らっていただろう。容易に想像がつく。


「ミーファがあまり器用じゃないから、私が罠とか引き受けてるだけ。慣れよ」


エグジムの真っ直ぐな感謝に照れ臭そうにしながら、武器を引き抜くレミ。


「それよりほら、お出ましよ」


壁の倒れる音でも聞きつけたか。通路の奥から金属音を響かせる背の低い集団が、聞くに耐えない笑い声をあげながら2人へと向かってきていた。

 

「来ましたね」


 道案内に必要な糸。それ以外を周囲に展開してエグジムは駆ける。ゴブリンが怖い気持ちはあるが、今はそれ以上に先を急ぎたい。


「悪いけど通してもらうよ」


振りかぶられた剣や鉈。それらを持つ腕に糸は絡みつき、そのまま強引にゴブリンたちの体を宙に吊り上げた。


「あ、ぎ!?」

「ぐぎゃ!?」


 驚きに声を上げるゴブリンたち。エグジムはそんな彼らを容赦なく通路の壁や床に叩きつけて無力化していく。

 締め付けた力で肉に食い込み、糸が赤く染まる。それらが宙を舞う光景は、さながら赤い結界のよう。

 

「エッ君、全力だね」


 短剣で息のあるゴブリンにトドメを刺しながらレミが追付する。

 

「なんか嫌な雰囲気がするから、出来るだけ急ぎたい」

「ここから近いの?」

「もう少し」

「なら急ぐ。素人が下手にしのぶより、いっそ速度に任せて速攻決めたほうがいい」


 相手が侵入に気がつこうと、ミリリに何かする前にケリをつけてしまえばいい。

 やるならやる。中途半端が一番危険だ。


「ここは、地下牢かな」


 石の回廊をゴブリンを蹴散らしながら進む事少し。石の壁は鉄格子に変わり、カビと何か埃のようなものが混じった、どこか退廃的な匂いがする通路へと変化した。

 牢の中には人骨と、ゴブリンだろう小さな骨。あとは数種の獣の骨が見える。最近まで生きていたのか、中には肉が残っているものもあり、腐敗臭も微かに漂っていた。

 何より時折響く、女性の悲鳴。声からミリリでもキャロでも無いことは分かるが、それでも自然と2人の足を早めてくる。


「あまり長居したい空間じゃないね」

「うん。急ご」


 散発的に出てくるゴブリンを2人で処理し、奥へ、奥へ。やがてくる通路の突き当たりで、エグジムは1人の男を見つけた。

 牢の前、ミリリの髪を鷲掴む、痩せ型の男を。

 その時、エグジムの中で何かが切れた。


「おまえぇぇぇぇ!!」


 

 女性の悲鳴を何度聞いただろう。だんだんか細く頻度が少なくなる声に、キャロはすっかり怯えてミリリの側から離れようとしない。

 ミリリも内心、恐怖でどうにかなりそうだった。自分より怯えてるキャロがいるから、少しでも平静を保てているだけ。


(一体、なにをされているのかな……。ゴブリンもいるし、まさか……。いや、だめ、考えるな。考えちゃダメ)


 女性としての尊厳をゴブリンに汚されるのか、それとも他に別の誰かに。そのまま殺されるのもあり得る。

 他には奴隷にされて売られるか、良くて身代金のための人質にされるか。人質にしたところで、命以外の保証はない。

 どんな目に合わされるのか、愉快な結末は何一つ浮かびはしない。

 

(心を折っちゃダメ。きっと助けは来る。お父様、お母様、エグジム、お願い……)


 父と母と、そして幼なじみの少年の顔。

 信頼する人たちを思い浮かべて、ミリリは希望を繋ぐ。

 そんなミリリの祈りを嘲笑うかの如く、コツコツと硬質な足音がミリリ達の牢へ近づいて来た。


「こんばんわ、お嬢さん方。気分は如何かね?」


白髪まじりの頭と痩せ細った体躯。華美かつ仕立ての良い服を着た男は、にいっと嫌悪感を掻き立てるような笑みを見せた。


「良いわけ無いのですよ。早くここから出して」

「ちっ、やはり平民の小娘ですか。貴族に対して口の利き方がなっていません。まあ礼儀を解いても無理な話ですか」

「いきなり誘拐しておいて礼儀を解かれる筋合いは無いのですよ」

「煩い小娘ですね。でも、まあ良いでしょう。この後しっかりと協力いただかなくてはなりませんからね。いや、むしろ私が協力する立場ですか! はははっ!」


何がおかしいのか、いきなり笑い出す男にキャロが真っ青な顔で泣き出した。ミリリも泣きたくなるのを必死に堪える。そんな彼女らの様子に男は更に楽しそうに語り出した。


「そうですか、泣くほど嬉しいですか私の計画に協力できるのが! いや、難しいことでは無いのですよ。ただ限界まで魔力を絞らせて頂くのみです! ああ、それで死んでも本望ですよね? なにせ間違った世の中を正すためなのですから!」


 男には目の前のミリリ達なぞ見えていない。自分の目的しか見えていない。自分の理想しかその瞳の先には無いのだ。


「私たちから魔力を絞り出して、そして何をするつもりなのですか」

「決まってます。平民でも実力があれば重用するなどと言う不心得な輩を一掃し、本来の貴族と平民の区切りを明確にした形に戻すために活用するのです! 魔物の大群を呼び出し、貴族の誇りを捨てた考えを抱く病巣どもを根絶やしにするのですよ!」

「まさか、この街でそれを!? そんなことをしたら、民衆がどれだけ巻き込まれる分からないのですか!?」

「……はて? 民衆が巻き込まれて……何か問題が? 下等な民なんて、放っておいてもそのうち増えるでしょう? 何を言っているのですか?」

「そっちこそ。なに言ってるの……」


 そこでミリリは気がついた。目の前の男が自分たちのことを人として見ていないと。そこらの家畜を見るような、無関心で無機質な瞳であると。


「さて、時間も取られましたね……っと、先程からゴブリン達が騒がしい。どれか攫ってきた娘でも襲いましたかね。まあ生きていれば良いでしょう。ほら、行きますよ。前のがそろそろ力尽きそうなので」


 無造作に鉄格子を開ける男。そのままキャロに伸ばされる手。そろそろ力尽きそうという言葉と、先ほどまでの悲鳴。あの悲鳴はきっと、強制的に魔力を絞られる事による苦痛からのものだったと理解した。

 自分に縋り付いて怯える彼女が、あれと同じ悲鳴を上げる事になる。そう思ったミリリは考えるより先に男の手に噛み付いていた。

 途端、頬に感じる熱、痛み。石の床に叩きつけられ、口の中に広がる鉄の味。

 

「くそが、この女、噛み付きやがった! くそ、優しくしてればつけ上がりやがって平民の分際で! お前らが分を弁えないから俺が正してやろうとしてるってのに! くそ、くそ! おい起きろ、行くぞクソが!」


 痛みでチラつく視界のまま耐えていたミリリの頭皮に激痛が走った。強制的に起こされる身体に、男が自分の髪を鷲掴みにして引きずろうとしているのが分かった。


「い、痛い!」

「煩いですよ! ほら立て!」


 ブチブチと、何本か髪が引きちぎれる感触がする。キャロが泣きながら男に止めるように訴えて蹴り飛ばされた。

 もうこのまま、自分はこの男に利用されて殺される運命なのか。ならせめて、立ち上がるフリをして首筋に噛み付いてやろうか。

 そう考え、覚悟を決めかけたミリリだったが、直後、聞き慣れた声で聞き覚えのない怒声が一切をかき消して突き抜けていった。


「おまえぇぇぇぇぇぇ!!」


なんとか2日連続いけました。なるべく、書いていきたい……でも仕事のストレスでメンタルやられてなかなか書けない……ジレンマです。


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