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糸魔術師の日常  作者: 3号
27/51

囚われのミリリ

 ツンとすえたカビの臭いと、滴の音。身体の芯をなぜるような寒気。馴染みのない環境に重い目蓋を開けると、心配そうに覗き込む赤毛の少女と目が合った。


「ミリリちゃん! 良かった、気がついた」

「キャロ、ちゃん?」


 床から身を起こそうともがいてみるが、どうやら手足を拘束されている様で思うように身体が動かせない。

 なんとかキャロの手を借りて起き上がると、ジャラリと足枷に繋がれた鎖が硬質な音を立てた。座ると鈍い痛みを後頭部に感じる。

 

「キャロちゃん、ここ、どこ?」

「ううん、分からない。気がついたらここにいたの。引越ししてた筈なのに」


 あまり力の入らない体を壁にもたれさせ、ミリリは周囲を、自分が今置かれた状況を見渡す。

 天井と三方を囲む壁は苔むした石で組まれており、壁の一部は鉄格子。窓もなく全体的に薄暗い空間は仄かな蝋燭の明かりで照らされており、遠くからゴブリンだろう耳障りな話し声が聞こえてくる。

 牢の中にはミリリとキャロだけ。しかし時折聞こえてくる悲鳴から、他にも誰か捕われているのかもしれない。

 

(確か、エグジムと一緒に帰って、商店街近くで解散して、そして……その後かな。頭殴られて気を失っちゃったのかな)


幸いか、頭以外には手枷足枷の部分に痛みがある程度。念のために服も確認してみるが、不自然な乱れなどなく、ほっと息を吐く。

 まあユーリのようなメリハリの効いたスタイルをしているわけでもなく、少し、いや、ほんのちょっと同世代からすると発育の足りないミリリ。エグジムと並ぶと同年代に見てもらえない時も多いが、今回はそんな自分の外見が幸を奏したのかもしれない。

 複雑な気持ちだが。


「キャロちゃんは大丈夫?」

「うん、手枷のところと殴られたっぽい頭は痛いけど、それ以外はとくに怪我もないっぽいよ」


 キャロは平均的な年齢相応の発育であり、胸のみ少し、そう、少しだけ大きい。

 ユーリと比べたら流石に小さいが、それでもしっかりと存在は主張している。

 なら自分の体型が問題でなく、単にそういう目的では無かったのだろう。

 少なくとも今までは。


「さっきの悲鳴、女の人だよね……ね、ミリリちゃん。ゴブリンって、その、そういうことするんだよね……?」

「うん……確かその筈だよ」


ミリリだって商人の娘だ。しかも大店の。やっかみや誘拐紛いの経験なら今までもある。ただの気の弱い女の子ではいられない。

その経験から考える、大人しくしてるべきか、それとも行動するべきか。

 試しに魔法を使おうと試みるが、いつもは手足を動かすように出せた氷を使うことができない。手枷のところで魔力の流れが堰き止められている感じだ。


「キャロちゃん、魔法使えるかな?」

「え、んと」


 キャロは弱いながら風の魔法を扱うことができる。カーペットを陰干しするときに重宝すると言っていたが、今は何も変化が訪れない。


「ごめん、なんか使えない、かも」

「やっぱり。私もだよ」

「ミリリちゃんも?」

「多分、この手枷のせいかな?」


逃亡防止の為だろう。用意周到で嫌になる。魔封じの手枷なぞ、騎士隊くらいにしか無いはずだ。犯人が誰かは知らないが、どこから調達したというのか。


「魔法も使えないなんて……ミリリちゃん、私たち、どうなっちゃうのかな……帰りたいよ……」


暗くて見え辛いが、キャロの目端に光るものを見つける。泣きたいのは同じなのに、ミリリは気がつけばゆるりと微笑んでいた。


「大丈夫だよ。きっと、だれか助けてくれる。見つけてくれる筈だよ」


そう言ったとき、不思議と浮かんだのは幼馴染みの姿。なぜだろう、凄く怖い筈なのに、少しだけ気分が解れた気がした。

ミリリの武器は小さいときに何度か拐われかけた経験のみ。つまりキャロより少しだけ、この状況でも冷静で居られる位でしかない。

それでも、気の強いとは言えない友人が泣いているのだ。自分まで泣いてどうするのか。


(絶対、犯人は氷漬けにしてやるんだよ)


こう思い自分を鼓舞するのが精一杯だとしても。

 また牢屋に悲鳴が響く。ゴブリンが笑い声を上げる。キャロが耳を塞いでミリリへと倒れ込むように踞った。

 手枷のせいで背に手を回すとこはできない。だからせめて頬をキャロの頭に寄せて寄り添うミリリ。

 悲鳴は続く。



「何か見つかったか!?」

「こっちは何も!」

「だれか見ませんでしたか!?」


 夜も深まる商店街。普段は寝静まる時間帯だが、この時ばかりはほぼ全ての店に灯りが灯り、通りは多くの人が忙しなく行き交っていた。

 ドルネルが駆け込んできたころ、実は商店街では至る所で同じ光景が見られていた。

 行方不明になったのは、ミリリとキャロだけでは無かったのだ。

 把握してるだけでも片手の指に収まらない人数。その全てが学園への入学を控えた生徒。つまり魔法の才能を認められた少年少女だったため、ただの平民が行方不明になっただけとはならなかった。

 親のうち数人が騎士団詰所に駆け込んだところ、騎士たちも放置できないと捜索を開始。

 自立心と仲間意識の強い商店街仲間もほとんど参加する大捜索劇となったのだ。


「エグジム! そっち収穫あったか!?」

「ドムこそ、何か見つけた!?」


 私服の背中に槍を背負ったドムを迎え、路地裏から駆け出したエグジム。お互いの確認からお互いに収穫がないことを悟る。


「マジかよ。少しくらい何か痕迹あんだろ普通よ」

「そう思うけど、暗いのが痛いよね。灯りついてても限界あるし、路地裏なんか殆ど闇だ」

「騎士仲間で火魔法と光魔法を使えるやつが照らしてるけど、そんなに数多くないんだよな……特に光魔法なんて珍しい系統、殆どいない」


 殆どどころか警邏騎士団の副団長しか保有していない。

 その副団長は比較的治安の悪い路地を中心に探し回っている。正義感の強い彼女は今回の通報で真っ先に動いた一人らしい。


「全く、学園でトロール暴れたり、ゴブリンが召喚されたり、お次は誘拐ってか。何が起こってるんだか……」

「ボヤかないでよ。こっちだって分からないって。とにかく見つけないと」

「だな、ミリリちゃんもキャロちゃんも心配だし。もし何かあったらお兄さんキレちまう」

「誰がお兄さんだよ」

「俺だっつうの」


 どちらともなく苦笑を浮かべ、軽くタッチしてそれぞれ別の方向に駆け出す。こんな軽口叩かないとやってられないくらい、捜索は芳しくなかった。

 

「さて、どうやって探そう」


このまま駆け回って探しても成果があるとは思えない。騎士たちも商店街の人たちも探して手かがり無しなのだ。エグジムは焦っていた。

 

「エッくん! 何か見つけた?」

「私たちは……何も……」


 ドムと入れ替わりにミーファとレミが駆け寄ってきた。レミは何やら魔力を発する包囲指針を握りしめている。


「こっちも何も、レミさん、それは何ですか?」

「これは魔力込めたら目的のもの探せる魔法具。必要なのは探す対象の魔力の残滓。ボンドさんに練習で使ってた魔法杖借りた」

「魔力で、そんなものあるんですね」

「前に骨董屋で見つけた、投げ売りで、幸運だったわ。でもダメ、反応が弱すぎて分からない。多分、魔力封じされてると思う」

「そう、ですか」


 少し期待しただけに落胆は大きい。しかしそこでエグジムはふと気がついた。

 魔力には残滓がある。なら自分の魔力にも残滓があるのでは?


「レミさん。自分の魔力残滓を追うことって出来るものですか?」

「ん? 確かに道具には使ってるうちに魔力は篭るから、自分の物とかは直ぐに分かったりはするけど。それがどうかした?」

「よし。だったら……」


 路地裏の地面に手をつき、腰のバックパックから有りったけの糸束を取り出して魔力を流す。


「スパイダーネット!」


 ミーファとレミが見守る中、まるで地を這うようにして糸を全方向に展開した。


「ミリリの服は、殆ど俺が作ったか補修した物。なら俺の魔力残滓が残っていてもおかしくない!」


 細く長い糸はあらゆる隙間に入り込む。四方八方にまるで蜘蛛の巣のように這いまわった糸は、やがてそれぞれがより集まり、一本の長い線に繋がった。

 その先は、川。より厳密には排水を行う下水道の中。


「どう、なったの? エッ君」


 ミーファが心配そうに尋ねてくる。その時エグジムは自分が肩で息をしているのに気がついた。魔力も随分減っている。無理な魔法行使だったらしい。

 しかし、その広角は釣り上がり、目はしっかりと糸の先を見定めていた。


「見つけた!」

なかなか書くのって難しいです。

でも細々続けていきますので、良ければブクマや評価、宜しくお願いします!

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